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吉野家はコロナに打ち勝つか?超特盛・RIZAPコラボのダブルヒットで黒字転換=馬渕磨理子

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、外食産業は大きな打撃を受けています。4月7日に発令された緊急事態宣言を受け、状況はさらに厳しくなるとみられていますが、これはチェーン飲食店の雄、吉野家も置かれた状況は同じです。この非常事態を吉野家はどう乗り切っていくのでしょうか。株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さんが、決算情報をもとに吉野家を分析していきます。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

好不調が分かれる外食チェーン

今回取り上げるのは、吉野家<9861>の財務分析です。

吉野家といえば、チェーン飲食店を代表する企業。誰もがその名を知る存在ですが、しかしチェーン飲食店は浮き沈みが激しい業界だと言われます。つい数年前まで絶好調だった「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスは2019年10月の月次動向発表で、既存店売上高は前年同期比41.4%減、客数同期比40.5%減と大幅なマイナスとなったことを公表。2020年中に74店閉店すると明らかにしています。

外食産業は、なぜここまで好不調が分かれるのでしょうか? 今回は、吉野家の業績をチェックしながら、外食産業の景気動向を予測する方法を解説してきます。

吉野家ホールディングスは変革への挑戦を続ける

吉野家ホールディングスは牛丼事業の「吉野家」のほか、うどんの「はなまる」、持ち帰りすしの「京樽」と3つの大きな事業を展開。2019年2月期は60億円の赤字に転落したものの、今期は黒字転換を見越しています(編注:原稿執筆時点4月13日。14日に発表された2020年2月期連結決算では最終損益が7億円の黒字となっています)。

【吉野家の売上高推移】
2018年…1,985億円
2019年…2,023億円
2020年…2,162億円

【吉野家の純利益】
2018年…14億円
2019年…-60億円(赤字)
2020年…7億円

Next: 純利益の赤字の背景には、ステーキレストラン「アークミール」の赤字――



純利益の赤字の背景には、ステーキレストラン「アークミール」の赤字が続いていたことが挙げられます。アークミールは競争が激しいステーキ業界で苦戦を強いられ、19年2月期に9億円の営業赤字を計上。吉野家ホールディングスは、2020年2月末にアークミールを安楽亭に事業譲渡しました。

一方、中核である牛丼の「吉野家」自体も今が変革の時です。2025年を見据えた⻑期ビジョン「NEW BEGINNINGS 2025」を策定。その実現を目指し、2017年2月期〜2019年2月期の3年間を成⻑シーズを生み出す時期と位置付け、店舗のリストラを進めてきました。

ターニングポイントを迎えている吉野家ホールディングスは、2019年度は赤字転落となっていますが、今後もリード(売上高)を伸ばすことで利益に厚みを持たせる方針は変わっていません。先を見据えていけば、吉野家ホールディングス全体の利益改善が見込めると言えそうです。

この赤字に対して、河村社長は「牛丼が売れなかった時代に、一気にコスト削減して利益を確保していく方法で体制を整える経験があった。赤字のタイミングでコスト削減をする手を打つこともできたが、今はフォーマットを変えようとしている時期であり、極端なコスト削減はせずに、店舗によるサービス向上とトップラインを伸ばす」ことを大事にしていくと方針を述べています。

image by: yu_arakawa / shutterstock

Next: ここからは、堅調な牛丼の「吉野家」に焦点を当てて分析していきます――



牛丼の「吉野家」は堅調

ここからは、堅調な牛丼の「吉野家」に焦点を当てて分析していきます。外食業界の好不調を知るための重要な指標として、毎月公表されている「既存店売上高」というものがあります。これを見ると、2019年3月から直近の2020年2月まで、12か月連続で既存店の売上高が前年同期を上回っています。

2018年10月の決算説明会で代表取締役社長 河村泰貴社長によると、「店舗におけるサービス向上の転換」と「売上高を伸ばすことで、利益を確保」することをあらためて述べています。吉野家は築地からスタートし、“忙しい中でも、美味しいものを食べたい”人たちの胃袋を掴み、成長を遂げてきました。しかし、従来型の店舗仕様では、「今の消費者にあったものにマッチしていない」、「10年先の成長を考えると、若年層・女性層の獲得ができていない」ということを課題に感じ、2017年から新しいビジョンのもと、店舗形式を変えています。

時代にマッチしたサービス向上により、利益を確保していくスタンスですが、どのような施策を行ったのでしょうか?それを見て行きたいと思います。

絶好調の理由は、結果にコミットしたあのメニュー

絶好調の理由はなんでしょうか。ずばり、それは2つの新メニューの投入でした。

1つは、単価の高い牛丼の「超特盛」。牛丼並盛が360円なのに対し、超特盛はその倍以上の780円。しかし、とにかく牛丼をたくさん食べたいという一定のニーズは存在しているため、そのような人たちをターゲットとしました。

一方、これと真逆のコンセプトで絶好調だった新メニューが、鶏肉や野菜を使った「ライザップ牛サラダ」。こちらは並盛500円で414カロリーととてもヘルシー。吉野家は迷走せずに、とにかくたくさん牛肉を食べたい顧客と、健康志向の顧客の両方を取り入れ、売上を拡大することに成功したのです。

さらに、2018年大好評だった『夏休みお子様割』を2019年も7月20日~9月1日の期間限定で行っています。小学生以下の利用は牛丼並盛が半額、牛丼並盛以外の丼・定食・カレーは190円引きで提供。子供が長期休暇となるこの時期をチャンスと捉え、食と家計をある意味サポートすることで、主婦層の心をガッチリ掴みました。

Next: 従来型のU字型のハイカウンターは、女性は入りづらい店舗様式であった――



若年層・女性層の獲得の為に徹底した挑戦

従来型のU字型のハイカウンターは、女性は入りづらい店舗様式であったため、キャッシュ&キャリー型の店舗に改装しています。ソファーやテーブルが設置されたまるでカフェスタイルのような店舗様式で、コーヒーやカフェも提供しています。この店舗形式にすることで、店に入りやすくなった女性層の取り戻込みや、主婦層のテイクアウトの増加に成功しています。

今後はこのタイプに毎年100店舗ずつ切り替えていき、最終的に全店舗の4割となる約450店舗に拡大する見込みです。これらの施策で、若年層・女性層の取り込みがますます進むと言えるでしょう。

一方、男性層は従来型のU字カウンターで「並み!」といえば出てくる店舗に馴染みがある人が多いようですが、店舗を改装していくことで、男性客の減少はないそうです。

吉野家から見る、外食チェーンの戦略トレンド

吉野家の新しい取り組みとして、「スマホオーダー」があります。これは、来店前に自らのスマートフォンから注文をすることで、店舗で待つことなく、すぐにテイクアウトできるサービスです。2月14日から、一部店舗を除く全国の吉野家店舗(1,042店)に導入しています。

こちらは、「マクドナルドが驚異のV字回復できた理由」でも言及しましたが、マクドナルドも、スマホアプリを使って注文・決済ができる「モバイルオーダー」を2020年1月末に全国展開を完了しています。

吉野家も攻める方向性は同じです。テイクアウト利用を積極的に使ってもらうことで、スムーズな商品提供を可能にするとともに、混雑や機会損失の防止を見込むことができます。

今、“イケてる”外食チェーン業界のトレンドは「モバイルオーダー」を活用して、いかに客足を店舗に向けるかといえそうです。

image by: icosha / shutterstock

吉野家は“アフターコロナ”ではなく“withコロナ”との世界を見ている

吉野家は3月に入り、臨時休校となった子供向の食事支援として、12才以下の子供の食事のテイクアウトに限り、牛丼「並盛」を通常本体価格352円(税込380円)のところ、本体価格278円(税込300円)で販売をスタートしています。

しかし、3月27日には、このメニューを子供に限らず全てのお客様に拡大し、個数も制限しないと決定(3月31日まで)。さらに、4月1日からは22日までは、テイクアウトの牛丼・牛皿の全サイズを対象に、本体価格より15%割引するキャンペーンを実施しました。この様な事態に直面し、日本の家庭の食事に安定が必要だと鑑みた、吉野家の愛のある施策といえるでしょう。

混沌とする世の中、迫りくる未曾有の不安に全世界が直面しています。吉野家は自社ができる限りの思いやりのある施策に取り組んでいます。この姿勢から我々個人も心ある行動をしていく事が必要な時なのでしょう。

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image by: 著者提供, Nor Gal / Shutterstock.com

本記事は『MAG2NEWS』のための書き下ろしです(初出:2020年4月28日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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