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柴咲コウ、種苗法改正に憤り。コロナの影で日本の「食」が外国資本に売られる=原彰宏

女優の柴咲コウさんがツイッターで、「新型コロナ感染拡大の中、種苗法の改正が行われようとしている」と警鐘を鳴らしました。日本の農業崩壊に繋がりかねない問題です。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年5月4日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ツイッターで「種苗法」改正に言及

NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で主演の女優・柴咲コウさんが自身の公式ツイッターで、「新型コロナウイルス感染拡大の中、種苗法の改正が行われようとしている」ことに警鐘を鳴らしていました。

種苗法の改正案には、農作物を新たに生み出した人や法人に「育成者権」を与えることなどが盛り込まれる方向で、ゴールデンウイーク明けから国会で審議される見通しです。

育成者の知的財産権が保護される反面、各農家による株分けや種取りなどが制限され、農業崩壊が起きる可能性も指摘されています。

そんな流れに対し、柴咲さんは、

「新型コロナの水面下で、『種苗法』改正が行われようとしています。自家採取禁止。このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます。これは、他人事ではありません。自分たちの食卓に直結することです」

とツイートしています(編注:現在当該ツイートは削除されています)。

柴咲さんは、以前から自給自足生活への憧れを語るなど、農業や環境問題に強い関心を持っているようで、昨年は政府の環境特別広報大使にも任命されました。

改正のキーワードは「グローバル化」

種苗法は「しゅびょうほう」と読み、植物の新品種の保護が法律の目的となっていて、1991年に改正されています。

新品種開発の際、一定のお金を払って「登録品種」申請を行います。国から「育成者権」という、その登録品種の種苗の生産、増殖、販売などを、一定期間占有する権利が与えられるのです。

育成者権を得ると25年の間、登録品種の「種苗」「収穫物」「加工品」をビジネスとして利用する権利を専有することが保護されます。

新品種開発には、膨大な時間と労力がかかりますからね。当然、それに見合った対価を得るための権利は主張したいでしょう。

ここまでは、芸術作品、例えば漫画や楽曲の著作権に似た感じのイメージで理解しやすいものかと思います。

今回の改正のキーワードは、「グローバル化」にあります。

3月3日に改正案を閣議決定して国会に提出した農水省サイトの説明によると、日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外に流出し、第3国に輸出・産地化されるケースがあるなどとして、国内で品種開発を滞らせないよう、新品種を保護するのが目的としています。

有名な話が2018年韓国平昌冬季五輪でカーリング女子チーム「もぐもぐタイム」のいちごが、日本で開発された「とちおとめ」と「レッドパール」が、無断で韓国に流出されて現地で生産された高級イチゴだということです。

どのようなルートでこれら品種が流出したか正確なことは分かっていないものの、種子等の流出が水面下で行われているのは事実のようです。

ここまでの流れだと「なるほど」と思うのですが、話がややこしくなるのはここからです。ここからがわからなくなってきます。

さきほどの著作権にも似た「育成者権」が保証されないケースがあります。それは、

・試験または研究目的での利用
・農業者の自家増殖

です。自家増殖…?

「自家採種」が栽培した植物の種子を採り、またそれを播くことで、「自家増殖」は、種子ではなく芽の出た芋を植えて増やしたり、ランナーという蔓が伸びたものを土に植えて増やしたり、株分けして増やしたりする栽培技術です。

Next: 改正か、改悪か。自家増殖には、農家の長年の知恵と経験が詰まっている――



改正か、改悪か

自家増殖には、農家の長年の知恵と経験が詰まっていると言えます。

今回の政府改正案では、「育成権」保証のために、「登録品種での自家採種などを制限する」内容も含まれています。「など」ですから自家増殖も含むのでしょう。

でも「自家増殖」は農家の腕の見せ所であり、品種改良の肝であり、いま食卓に並ぶ野菜や果物は、自家増殖のおかげで美味しく安定的に食べられているのです。

果たして今回の「種苗法改正」は、

・権利者保護の改正か
・農業経営圧迫の改悪か

すごく大事な内容かと思われますが、ほとんどというか、マスコミには一切取りあげられず、コロナ一色の風潮で、世間が知らない間に閣議決定され、連休明けから国会審議が始まるのです。

自家増殖が「鍵」か

農家などの現場サイドから出ている危惧は、以下の2つです。

1)自家増殖が一律禁止になるのではないか
2)外国資本に種子が独占されるのではないか

まずは、今回の改正で、登録品種になると自家増殖が制限される(できなくなるとは言っていないが)ようで、だとすれば、登録品種でなければ自家増殖して良いということになります。

農水省の説明では、登録品種は種子全体の5%ほどだと説明しています。

現行法では、農家は原則として自家採種は認められていますが、これに対し農水省は、自家採種を禁止する作物を増やし続けています。

この禁止作物の数は、2016年には82種でしたが、2019年には372種になりました。ほうれん草や人参は登録品種ではありませんが、この禁止植物に入っています。

どういうことですかね。

「育成者権」の保護と、「自家増殖」の禁止。

そもそも種苗法を改正することになったきっかけが、日本特有の農産物品種が、海外で簡単に模倣されて栽培されているということにあります。

今回の改正では、米や果物、野菜の9割前後の一般品種は制限せず、ゆめぴりかのような米やシャインマスカットのようなブドウといった登録品種について、自家採種などを制限する内容となっています。

「日本の品種を守ることが、今回自家増殖(採取)を原則禁止とした背景にある」これが農水省の見解です。

農家サイドでは「自家増殖が一律禁止になるのではないか」という不安は消えないようで、これに対して農水省は「一般品種については自家増殖できるので、誤解が解ければ反対する理由はないのでは」と述べているようです。

前述の通り、自家増殖禁止の対象が数年で急速に増加していて、種苗法が成立した1978年には、農家の自家採種の慣行に配慮し、自家増殖を認めない植物は、挿し木等によりきわめて容易に繁殖するキク等の花卉類やバラ等の鑑賞樹に限られていましたからね。

農家の人たちが、農水省の見解を鵜呑みにできないのはよくわかります。

今後も品目リストを増やし、これまでの対象である栄養繁殖の植物だけでなく、種子繁殖の植物も追加していくと、農水省の回答があるようです。

「農民の種子への権利の抑制ではないか」

農家の人たちは、こう訴えています。

中でも改正の影響が今後出てくると予想される野菜の分野においては、野菜生産農家に情報が十分に行き渡っていないという指摘もあります。

その背景には、野菜の種子はほとんどが「F1品種」という自家採種できない種子が多く、また、近年野菜の登録品種の数も少しずつ上昇しており、今回の改正を契機にさらに増加する可能性もあるとの指摘があります。

「育成者権」保証もわかるが、自家増殖も必要…という難しい選択のようですね。

Next: 種苗法改正のもう1つの問題は、登録品種の「許諾制」導入である――



登録品種の「許諾制」導入

種苗法改正のもう1つの問題は、登録品種の「許諾制」導入であるとされています。

登録品種を生産、増殖、販売などの目的で自家採種・自家増殖したい団体や農業者は、許諾契約(必要な場合は育成者に許諾料を支払う)によって「利用者権」が得られ、自家採種や自家増殖も可能となります。

その場合、利用者には育成者の示した利用条件を守ることが義務付けられます。

なお、登録品種の利用であっても、自家消費を目的とする家庭菜園や研究用での自家採種・自家増殖の場合、許諾は必要ありません。

これはどういうことかと言うと、自家増殖するのに「許諾料」という今までにない負担が発生するということです。

農水省によると、ある登録品種の稲の例では10aあたり3円、ブドウの苗木1本で60円という例があるそうです。野菜の種子は「F1」がほとんどのため、種子による自家増殖はそもそもできないのは前述のとおりです。

「外国資本に種子が独占されるのではないか」の懸念

種苗法の改正案には、農作物を新たに生み出した人や法人に「育成者権」を与えることが盛り込まれていることは説明しました。

ここで「人や法人」の法人です。いわゆる民間企業ですが、それは海外の事業者も含まれているのです。

新品種を育種登録するには数百万から数千万円の費用がかかるので、新しい品種の登録は大企業しかできないという側面があります。

育種権利者が都道府県から企業に代わった場合、都道府県との契約内容をそのまま企業が引き継ぐことになります。

世界のグローバル企業は、特許権、知的財産権でお金を儲けることは大得意です。

今回の改正案では、グローバル化が進む中で種苗法が本来の役割を果たせるように、登録品種の扱いが厳格化される見込みです。

2018年12月に制定された水道民営化法や漁業法改正と同じ方向性で、日本国民の水と食の安全と自給を犠牲にして、外国資本に日本の公益事業や産業を売り渡そうという政策だと、強く反対する意見もあります。

種苗法改正は、農村を支える家族農家などの生産基盤を脆弱化させる可能性もあるとの指摘もあります。

政府は今一度、農業者ら利害関係者とともに議論を行い、種苗法改正を検討する必要があるのではないでしょうか。

Next: 新型コロナ対策に追われる中で「種苗法改正案」は不要不急なのでしょうか――



日本の「食」が危機

ずっと順を追って種苗法改正を考えてきましたが、憶測もありますが、可能性もゼロではないという、ちょっと怖いところにたどり着いてしまいました。

多くの著名人たちが、種苗法改正を危惧している理由が、少しわかったような気もします。

新型コロナ対策に追われる中で、「種苗法改正案」は不要不急なのでしょうか。

日本の自給率の問題もありますが、「アフターコロナ」で言われているのは、「世界的食糧不足」問題が深刻になるということです。

柴咲コウさんの警鐘は、著名人の発言だけに大きな反響を呼び、スポーツ紙も取り上げました。

種苗法改正だけでなく、政府は3月3日、家畜遺伝資源の不正流通を防ぐことを目的とした新法の家畜遺伝資源の不正競争防止法案と、家畜改良増殖法改正案も、閣議決定して、今国会で通過させようとしています。

コロナ騒動に隠れて、日本の「食」に関することが決まろうとしているのです。

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らぽーる・マガジン』(2020年5月4日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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