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三井住友、純利益で三菱UFJを抜くも共倒れの危機?バフェットも見限る銀行業の暗い未来=栫井駿介

2020年3月期決算で、三井住友フィナンシャルグループ(三井住友)<8316>が三菱UFJフィナンシャルグループ(三菱UFJ)<8306>を抜いたことが話題になっています。この逆転劇は銀行業界における新たな時代の到来を示しているのでしょうか。人員削減なども話題となる中、銀行業界の行く末を占います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

非効率だらけの銀行が嫌いだ

個人的な話から言えば、私は銀行が嫌いです。

窓口に行くと、長い時間待たされます。番号札を取り、10分ほど待つとようやく番号が呼ばれ手続きに入ります。しかし、そこから書類を記入しなければなりません。

やっと記入したかと思うと、今度は「ふりがな」がないと指摘されます。法人だと会社名+役職名+代表者名まで書かないといけないので、枠が足りません。下に大きくはみ出しても良いから書けと言われてしぶしぶ書きますが、そもそも会社名は平仮名なので、ふりがなの必要性を感じません。

そんな感じで不承不承やっているとすべからく間違えるので、二重線と訂正印を押さなければならず、また時間がかかってしまいます。

やっとの思いで書類を書き上げると、そこからまた事務処理の時間を待たされ、1時間ほど経ってようやく手続きを終えることができます。気がつくと待合室は人でいっぱいです。

もうこんな思いはしたくないとオンラインで済まそうとしますが、法人だと手数料がかかり、使える手続きも限定的です。おまけにオンラインなのに利用時間が平日の一部のみだったりして、途方に暮れてしまいます。

これがネット系の銀行だったら、無料で24時間365日受け付けています。しかし、店舗のある銀行限定の手続きもあるため、嫌いでも利用しなければならないのはとても苦痛です。

銀行の人員削減が話題になっていますが、これは当然のことだと思います。窓口の人が悪いわけではありませんが、あまりに非効率がはびこっていて、顧客のためにもなっていないのです。昭和のビジネスモデルを引きずる、時代錯誤の産物です。

三井住友、純利益で三菱UFJを初めて上回る

話を戻します。2020年3月期の三菱UFJの純利益は5,281億円、三井住友の純利益は7,038億円と、三井住友が上回りました。これは2005年に3メガバンク体制になってから初めてのことです。

純利益推移(億円)

もっとも、これで勢力図が塗り替わったわけではありません。

三菱UFJは、新型コロナ・ショックで出資している東南アジアの銀行の株価が値下がりし、減損処理せざるを得なくなりました。一時的なことですから、これを除くとまだ三菱UFJが上回ります。

Next: 今回瞬間的に逆転が起こったのは、両社の特徴の違いに原因がある――



「強み」があだとなった三菱UFJ

今回瞬間的に逆転が起こったのは、両社の特徴の違いに原因があると言えます。

三菱UFJは、もともと海外に強みを持つ銀行です。近年はその強みを伸ばそうと、海外の銀行をどんどん買収していきました。国内が低金利で収益を稼げない中、金利水準が高く、成長性も見込める東南アジアに進出することで収益を上乗せしていたのです。

出典:三菱UFJ「2019年度 決算ハイライト」

三菱UFJフィナンシャルグループは、このように「海外」そして「大企業」に強みを持つ銀行です。その戦略を採っていたからこそ、今回の減損は避けて通れないものでした。

成長戦略にリスクはつきものです。むしろ、それでも5,000億円の利益を守ったのは立派と言えるでしょう。

三井住友は「中小企業」と「個人」に救われる

一方の三井住友は、「中堅・中小企業」「個人サービス」に強みを持ちます。

貸出金残高は、「大企業」より「中堅・中小企業」の方が多くなっています。また、収益面では三井住友カード(SMCC)や三井住友コンシューマーファイナンス(SMBCCF)が大きく貢献しています。特に、最近はカード部門の成長が著しいようです。

出典:三井住友「2019年度実績の概要」


出典:三井住友「2019年度実績の概要」

中堅・中小企業や個人向けは、市況に大きく左右されず比較的安定しています。これが、市況によって減損処理を余儀なくされた三菱UFJフィナンシャルグループを逆転できた最大の理由です。

Next: バフェットは銀行株を売却。賢人が白旗を上げる理由――



バフェットは銀行株を売却。賢人が白旗を上げる理由

さて、目下人々にとって最大の関心事は新型コロナウイルスの影響です。

直近では、大手アパレルメーカーのレナウン<3606>が民事再生法を申請しました。このように企業倒産が増えれば、銀行も損失を免れません。1つの会社が倒産すれば、取引先が資金回収困難になり「連鎖倒産」が起こります。倒産がどこまで拡大するか、決して予断を許しません。

倒産が拡大すれば、銀行もただでは済みません。やっかいなのは、今回に関しては大企業も中小企業も、そして国内も海外も等しくその波に襲われることです。

このような事態は過去に例を見ません。

もちろん、政府は企業倒産を抑えるためにあらゆる策を尽くすでしょう。日銀による資金供給オペが行われていますが、今後政府保証付きの融資や債権の買取なども考えられます。それで国債を発行することになってもやむ無しという雰囲気があります。

ただし、政府支援を増やせば増やすほど、長期的な影響は長引くと考えられます。

政府・日銀は今後10年以上にわたって金利を上げることは難しくなるでしょう。潰れないために借入を増やした企業は、金利を上げられると途端にもたなくなってしまうからです。

しかし、ここでお金をばらまくことは、景気回復時にはインフレリスクをはらむことになります。通常、インフレ時には金利を上げて上昇を抑制するのですが、上記の理由からそれが難しくなってしまうのです。

すると、銀行はインフレで債権価値が実質的に目減りし、一方で金利は上がらないというジレンマに陥ることになります。これはもはや、銀行というビジネスにこだわる限り、企業努力では太刀打ちできない状況です。

ウォーレン・バフェットは、長く保有していた米国の地方銀行株やコールドマン・サックス株を手放しました。金融株を「お気に入り」としていたバフェットが、ここで考えを大きく変えたのです。

先日行われた株主総会では以下のようなことを言っていました。

“結局は購買力が疑わしくなりうる” ―『起こりうるのは通貨への疑念』(フィナンシャル・ポインター)

少なくとも私たちは、この「賢人が銀行株を売った」という事実を軽く捉えるべきではないでしょう。

このように、もともとの低金利環境下で銀行を取り巻く環境は厳しかったところ、新型コロナウイルス禍でますます悪化しているのです。

Next: 銀行にできること言えば、とにかく生き残るためにコストを削ることくらい――



経営陣は孫を見て勉強せよ

銀行にできること言えば、とにかく生き残るためにコストを削ることくらいしかないように思えます。人員削減はその中で最も手っ取り早い策でしょう。

しかし、このような状況に陥ってしまったのは、かつての安定した状況にあぐらをかいていたからではないでしょうか。少なくとも、冒頭で語った私の経験のようなことを踏まえると、顧客のことを考えているとはまったく感じられませんでした。

一方は、楽天やヤフー(ジャパンネット銀行)などのネット系銀行は、低コストと利便性の高さで評判を獲得し、事業を拡大させています。そもそも、お金はバーチャルかつ曖昧さのないものですから、ITとは抜群に相性が良いはずなのです。

それを有効に活用することなく、いつまでも顧客に不便を強いてきたことは経営の怠慢でしかありません。

今、銀行に求められているのは「フィンテック」なんて格好の良いものではありません。顧客を向いて少しでも使いやすいシステムを開発し、柔軟に導入し続けることです。

ITに疎い経営陣は、自分の孫がスマホを自由に操る姿を見て勉強するべきです。

デジタル化は自社のコスト削減にも直結します。それを実行することができれば、やがてはこの苦境から抜け出し、真に会社の価値を伸ばすことができるでしょう。今はまさにその過渡期と言えるのです。


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image by:Ned Snowman | II.studio / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年5月18日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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