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シングルマザーが急死、残された子の遺族年金はいくら?養育費がネックになることも=年金アドバイザーhiroki

もし自分が死亡した場合、子どもに支払われる遺族年金はどうなるのか。万が一に備えて知っておきたいところです。今回は子どもを残して急死したシングルマザーの事例をもとに解説します。(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』年金アドバイザーhiroki)

※本記事は有料メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2020年6月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:年金アドバイザーhiroki
1979年生まれ。佐賀県出身。2003年佐賀大学経済学部経済システム課卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。その翌年に民間企業を退職し、年金相談の現場にて年金相談員を経て、スーパーバイザーの後に統括者として相談員全体の指導教育に携わる。

「遺族基礎年金」の仕組みを再確認

子どもが遺族年金をもらう場合は、同居してる親がいると年金が停止になる場合があります。といっても国民年金から支給される遺族基礎年金に限られます。

遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」のみに支給されます。たとえば、妻が死亡して夫と子が1人残されたとします。そうすると、受給する権利を持つのは夫もしくは子となります。

しかし、夫が子と一緒に住んでいるなら「子のある配偶者」となるので、その場合は夫が優先的に遺族基礎年金を受給することになります。子も受給する権利はありますが、親である夫が受給中は子に対する遺族基礎年金は停止されてしまう。

ところが、子が親である夫と完全に離れて暮らすようになると、夫には一緒に住んでる子が居ないので、夫の遺族年金は消滅します。「子のある配偶者」の状態ではないから。そうなると年金停止ではなく消滅する。

その後は、子は単独の「子」の状態になるので、そうすると今度は子が遺族基礎年金を受給することになる。子に対して停止されていた遺族基礎年金が停止解除となって支給開始となる。しかし、子が夫の元に帰ってきたら、親と同居状態になってしまうので「子」に支給されていた遺族基礎年金は停止されてしまう。

そういう制限があります。子に支給してもいいけど、同居して養ってくれる親がいるなら年金は必要ないよねってことですね。なお、厚生年金にはそのような制限は無いです。

「生計を同じくしている」がポイントになる

ところで、親と同居している場合というのは、よく年金の世界では「生計を同じくしている」という言い方をします。一見わかりにくい表現ですが、簡単に言うと同居しているとか住民票が一緒とかいう意味です。

ちなみに別居していても、正当な理由があれば「生計を同じくしている」と認められます。

たとえば、病気で入院してるから現在住んでいる場所が違うとか、学校へ行くために、もしくは単身赴任で実家とは違う場所に住んでるというような場合がありますよね。

そんなことで別居状態だったから遺族年金出しませんというのは酷ですよね(笑)。あと、定期的に訪問していたとか、音信があったなどでもいいです。

そういうのが「生計を同じくしている」と呼ばれています。

Next: 実際、いくらもらえる? 家庭により様々ではありますが、今回はよくある――



実際、いくらもらえる? よくある事例の年金算出方法

家庭により様々ではありますが、今回はよくある養育費の問題を交えながら、年金給付を考えていきましょう。

昭和60年6月10日生まれの女性(今は35歳)「A美」を例とします。

20歳になる平成17年6月からは国民年金に加入することになったが、学校には通っておらずアルバイトをしていたものの保険料を支払える余裕はなく、平成20年3月までの34ヶ月間は全額免除にした(大学等には通っていなかったので普通の免除。平成21年3月以前の全額免除は将来の老齢基礎年金の3分の1に反映する)。

平成20年4月からは専門学校に入学し、平成22年3月までの24ヶ月間は学生納付特例免除を利用することになった(学生納付特例免除は将来の老齢基礎年金にはまったく反映しない)。

学生が免除を使う場合は通常の免除は使えず、必ず学生納付特例免除を使うことになる(障害年金2級受給者や生活保護受給者は法律上当然に免除になる法定免除というものがあるが、法定免除が使える人は学特免除ではなく法定免除を使える。法定免除は将来の老齢基礎年金に反映する)。

平成22年4月からは非正規雇用として就職するが、厚生年金には加入できずに国民年金保険料を払うことになった。

平成22年4月から平成26年9月までの54ヶ月間は、国民年金保険料をしっかり納めた。

ちゃんと保険料を納めて将来に備えようと思っていたなかで、過去に保険料を免除にしていたからその期間を埋めたかった。その場合は過去10年以内なら遡って保険料を追納することができるので、追納を利用した。

A美は過去の免除期間に対して、平成20年4月から平成22年3月までの24ヶ月間を追納した。平成17年6月から平成20年3月までの34ヶ月間は何もせず。

シングルマザーとして奮闘するA美に不幸が……

さて、平成26年10月にサラリーマンの男性と婚姻して扶養に入り、国民年金第三号被保険者となって国民年金保険料は個別に納める必要が無くなった。

平成28年7月13日に第一子が誕生したが、令和2年8月中に夫との価値観が合わずに離婚した。A美の国民年金第三号被保険者期間は平成26年10月から令和2年7月までの70ヶ月間。

離婚する時に夫から毎月3万円の養育費を子が20歳になるまで支払うことを公正証書に記載する。養育費とともにA美は令和2年8月から厚生年金に加入して働きながら、なんとかギリギリの生活を送っていた。

ところが令和4年12月2日にくも膜下出血で急死した。厚生年金期間は令和2年8月から死亡日の前月の令和4年11月までの28ヶ月間。なお、この間の平均給与(平均標準報酬額)は13万円とする。

A美の死亡時に生計維持されていた遺族は子(平成28年7月13日生まれ)のみだった。離婚している夫は配偶者にはならないから無視する。

元夫の養育費があると遺族年金は停止される?

子がひとり残されたため、親族である祖父母(A美の子から見て祖父母としています)とA美の姉でA美の子の面倒を見ようということになった。

祖父母がやや高齢になっていたので、姉がA美の子の未成年後見人として家庭裁判所に申し出た。

未成年後見人というのは未成年者の法定代理人であり、未成年者が成人するまで面倒を見たり財産を管理して、親の代わりのような人になる。親権者と概ね同じような権利がある。

さて、A美が厚生年金加入中に死亡したので、A美の子には遺族年金が支給されるのではないかと思われたので、A美の姉(以下、姉とします)は年金事務所に相談に行った。

A美の元夫からは養育費が支払われていることを言うと、「国民年金からの遺族基礎年金約65,000円は停止される」ということだった。もらえるのは遺族厚生年金のみになると。

Next: ちょっと先に年金額を算出しましょう。厚生年金からの遺族厚生年金は――



もらえる金額はいくら?

ちょっと先に年金額を算出しましょう。

・厚生年金からの遺族厚生年金→13万円×5,481÷1,000×300ヵ月(厚年加入中の死亡だから最低保障300ヵ月)÷4×3=160,319円(月額13,359円)

・国民年金からの遺族基礎年金→令和2年度定額781,700円(月額65,141円)

しかしながら遺族基礎年金は全額停止する。なぜなのか。

記事冒頭で、遺族基礎年金は親と生計同一の状態だと、養ってくれる親がいるから遺族基礎年金は停止すると言いました。生計同一というのは親と同居とかそういうものだと。

しかし、養育費が子に支払われていたというのは、この場合も生計同一とみなされてしまう。

そうすると、養育費30,000円より多い、遺族基礎年金約65,000円が受け取れないことになる。このままだと金額的に不利になりますよね。

方法としては姉などが元夫と話し合って、養育費は受け取らないものとして、公正証書を変更する必要がある。

ということで、令和5年6月から養育費を受け取らないということにしたので、年金事務所にて翌月令和5年7月分の遺族基礎年金からは停止解除となって遺族厚生年金160,319円+遺族基礎年金781,700円=942,019円(月額78,501円)となった。

なお、遺族基礎年金が支給される場合は遺族年金生活者支援給付金(月額5,030円)も支給される。

養育費をもらっていたならば20歳まで養育費がもらえたにもかかわらず、遺族基礎年金も遺族厚生年金も18歳年度末(令和17年3月31日)で終了します。しかし、もらう累計総額を考えたら、遺族年金をもらっていたほうが良さそうですね。

養子縁組をすると遺族年金も止まる?

さて、その後は姉はA美の子と養子縁組をしようかと考えた。でも考えてみたら養子縁組をすると、A美の子の親とみなされてしまうから、また遺族基礎年金が全額停止になるのではないかということが頭をよぎった。

しかし、もし姉と養子縁組をしたら、A美の子の遺族年金は停止ではなく消滅する。遺族厚年も遺族基礎も消滅。

養子縁組をする場合は、ここも気を付けたいのですが「直系血族または直系姻族以外の養子になる」と、遺族年金は消滅する。

A美の姉は、A美の子から見たら叔母になるので直系ではなく傍系になってしまう。つまり直系血族または直系姻族以外の者と養子縁組するということになると、A美の子の遺族年金は消滅する。

逆に祖父母であれば直系血族になるから、祖父母と養子縁組しても遺族年金が消滅することは無い。とはいえ養子縁組すると祖父母は親とみなされるから、遺族基礎年金の停止は免れないですけどね……。

Next: 国民年金からの独自給付に死亡一時金というのがあります。死亡者に36ヵ月――



「死亡一時金」を受け取る方法も

国民年金からの独自給付に、死亡一時金というのがあります。死亡者に36ヵ月以上国民年金保険料を納めた記録があれば、納めた期間で定められた定額の一時金がもらえる。今まで国民年金保険料支払ってきたのに、何の年金ももらえない場合に遺族に支給されるものです。

支給される遺族の範囲は、死亡時に生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、3親等以内の親族の順で一番上の順位者が請求できる。まあ、今回の事例は国民年金から遺族基礎年金が発生したから、掛け捨てにはならなかったですよね。

今回の事例では、遺族基礎年金を請求したいという時に養育費がネックとなって、このままでは遺族基礎年金はもらえないということになっていましたよね。国民年金からの遺族基礎年金が発生しない事態になるから、この場合は例外的に死亡一時金が請求可能となります。

A美は78ヶ月間の国民年金保険料納付済み期間があるので(3号期間や全額免除、厚年期間は除く)、定額の12万円を子が受け取る。

死亡一時金受け取った後に、今回の事例のように遺族基礎年金が出るようになったとしても、すでにもらった死亡一時金を返還する必要はありません。

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  • 第142号.子への養育費が遺族年金を停止させてしまう事例と、親族との養子縁組。(6/17)
  • 第141号.よくある年金を担保に融資を受ける受給者と、障害年金の加給年金が付かなかった事例。(6/10)
  • 第140号.過去に国鉄共済組合が年金財政危機に陥った理由と、厚生年金に統合された歴史。(6/3)
  • (号外)低年金者向けに支給される年金生活者支援給付金の所得基準額の変更と、改正による給付変化の計算事例。(6/1)

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事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』(2020年6月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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