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ディズニーは再開をわざと遅らせた? じっくりコロナ対策できた3つの理由=栫井駿介

新型コロナウイルスの影響で2月29日から閉園していたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が、6月19日に一般営業を再開しました。一方で、東京ディズニーリゾート(TDR)の再開は現在(6月22日時点)未定です。なぜディズニーはまだ再開しないのか、投資家の目線からお話したいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

※編注:原稿執筆時点6月22日。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは23日、営業を7月1日より再開すると発表しています。

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

USJは再開、ディズニーはまだか?

都道府県をまたぐ移動が全国的に緩和された6月19日、USJは一般営業を再開しました。

当面、年間パスポート保有者および関西2府4県在住者のみの入園となり、検温やマスクの着用、入場制限など感染拡大防止が徹底された中での営業になります。

出典:USJホームページ(2020年6月22日)

一方で、オリエンタルランド<4661>が運営するTDRはいまだ再開のアナウンスがありません。6月30日までの期間にあたるチケットの払い戻しを行っていることから、少なくとも6月いっぱいは休園することが予想されます(※編注:原稿執筆時点6月22日。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは23日、営業を7月1日より再開すると発表しました)。

出典:TDRホームページ(2020年6月22日)

なお、本場カリフォルニアのディズニーランド・リゾートは、65周年の記念日となる7月17日の再開予定が発表されています。周囲が次々と再開になる中で、TDRの再開も待ち遠しく感じられます。

ディズニーが再開しない3つの理由

多くのテーマパークが緊急事態宣言の解除や都道府県間の移動の緩和にあわせて営業を再開する中で、なぜTDRだけが再開しないのでしょうか。

その理由として3つの仮説を立てました。

  1. 財務的な余裕
  2. ディズニーの世界観
  3. 大規模開発

ひとつひとつ解説していきます。

再開しない理由その1:財務的な余裕

投資家としては、まずここを見ないわけにはいきません。

TDRを運営するオリエンタルランドは、日本屈指の優良企業として知られます。特に近年の業績の伸びは目覚ましく、2018年度の営業利益は約1,300億円、営業利益率は24%を超えていました。

出典:マネックス証券

もともとファンが多いことに加えて、様々なイベントや新しいアトラクションを導入することで、ますます来園の動機を人々に与えていました。入場者数は2018年度まで6年連続で3,000万人を超えていました。

テーマパークは、ビジネスモデルとしては「装置産業」に該当します。装置となるパークを作ってしまえば、あとは入園者が増えれば増えるほど利益が増えるのです。近年チケットの値上げが相次いだにもかかわらず入場者数は減りませんでしたから、まさに濡れ手に粟の状態でした。

そこへ新型コロナウイルスがやってきました。約1ヶ月間休園したことから、2019年度の入園者数は3,000万人を割り込んでしまいました。6月まで休園するとなれば、単純計算で年間4分の1入園者や売上が減ってしまいます。その後の入場者数が減ることも考えると、半分になってしまってもおかしくありません。

装置産業ですから、開園していようといまいと、コストはあまり変わりません。開園して少しでもゲストが来てくれたほうが、まったく来ないより利益を出せます。多くのテーマパークではこのように考えるでしょう。

しかし、そこは天下のディズニーです。そこまで慌てる必要がない理由があります。

広大な土地は賃借ではなく、TDRの所有地です。設立時に県から格安で購入しています。借金で買っていたとしても、とうの昔に返済してしまっているでしょう。これが、家賃に困窮する飲食店などとの大きな違いです。

一方、ディズニーといえば「著作権ビジネス」です。オリエンタルランドは本家ディズニーに毎年300億円程度のロイヤルティを支払っています。これが重くのしかかることが懸念されます。
しかし、実はこのロイヤルティは、定額ではなく売上に応じた「変動費」となっているのです。すなわち、売上が立たなければ、このロイヤルティを支払う必要もないのです。

したがって、閉園期間中の大きなキャッシュアウトと言えば、人件費くらいです。そもそも営業利益率が20%を超えることから、かなり余裕があることがわかります。それに対して預金残高は2,600億円もあり、数ヶ月の閉園ではびくともしない財務体質なのです。

これだけ余裕があれば、厳重な感染対策を行ってまで慌てて開園する必要がないことがわかります。

Next: 慌てて開園する必要がないとは言え、少しでもプラスになるならやはり開け――



再開しない理由その2:ディズニーの世界観

慌てて開園する必要がないとは言え、少しでもプラスになるならやはり開ける選択をすることもできたはずです。

しかし、想像してみてください。今すぐ開園することになったら、ゲートでは検温とアルコール消毒を徹底され、マスクは絶対着用、人との距離を取れとプレッシャーをかけられるのです。

そんな「夢の国」なんて、嫌ではないでしょうか。

場内でミッキーを見つけて駆け寄っても、「それ以上近づくな!」と制されてしまうかもしれません。これでは、世界観に傷が入ってしまいます。

長期的なことを考えると、そこで嫌な思いをさせてブランド価値を傷つけてしまうより、今はこらえて余裕を持って開園した方が、今後数年・数十年の売上にはプラスになると考えられます。

もっと言えば、開園を引き延ばせば引き延ばすほど、ディズニーに対する憧れは強くなるかもしれません。なかなか会えない恋人同士が思いを募らせるようにです。それほど、TDRは盤石のブランド力を持っています。

余談ですが、私は彼女とディズニーに行った時、アトラクションの列に並びながら「今列に○人、アトラクションが○個、開園時間が○時間だから……1日の来園者数はおよそ10万人だ!」とフェルミ推定を行い、彼女をシラけさせたことがあります。これも世界観を壊す行為なので、絶対にやめてください。

再開しない理由その3:大規模開発

閉園前より、ディズニーでは大規模開発が行われていました。

出典:オリエンタルランド 決算説明資料

4月15日には、「美女と野獣」をテーマにした大規模開発エリアをオープンさせる予定でしたが、閉園により延期となってしまいました。こちらは現時点で未定となっています。残念に思うファンも少なくないはずです。

さらに、総工費2,500億円もかけて拡張されるディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」が2023年に開業することが予定されています。しかし、これもいつになってしまうかわかりません。

一方で、これらの大規模開発は、この状況下のTDRにとってまさに「虎の子」となる可能性があると考えます。このまま閉園や限定的な営業を続ける中で、これら大規模開発のオープン準備や宣伝を徹底的に行います。すると、ファンたちはますますディズニーに対する思いを強くするはずです。

そこへ、例えばウイルスが終息した2023年頃に満を持して新施設をオープンすれば、それはそれは多くの来場者が訪れることが予想されます。その勢いは数年続くことになるでしょう。

数年後に莫大な利益がもたらされることを考えると、現在の数ヶ月の閉園はオリエンタルランドにとってはかすり傷にもなりません。

これが、TDRがすぐに再開しない理由ではないかと私は推測します。

Next: もちろん、これからずっと開園しないわけでもないと思います。YouTubeで――



株価はコロナ前を回復、投資家の期待は高い

もちろん、これからずっと開園しないわけでもないと思います。

YouTubeでは、入場口にソーシャル・ディスタンスを確保するためのテープが貼られている動画がアップされています。感染対策を行った上での再開も近いと考えられます。
※参考:【感動】運営再開の足音がする東京ディズニーリゾートをレポート!(YouTube)

それでも、USJのように近隣の都県だけ、あるいは入場制限を設けた上での再開となる可能性が高いでしょう。新エリアのオープンは先送りされ、パレードは開催されないかもしれません。

感染対策が今後の期待感を高めることになるか、あるいは下げることになるのか、TDRにとって1つの重要な分かれ目になりそうです。

株価に関して言えば、閉園が長引いているにもかかわらず、新型コロナ・ショック前の水準をほぼ回復しています。この10年で約8倍になった成長株ですから、そう簡単に安く買わせてはくれません。

オリエンタルランド<4661> 日足(SBI証券提供)

2018年度の最高益に対するPERは約50倍となお割高感が漂いますが、それこそが期待感の高さを示していると言えます。いま無理に買うことはありませんが、いつか買いたい銘柄としてチェックしておくと良いかもしれません。営業を再開した際にはぜひ訪れてみたいものです。


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image by:マネーボイス編集部

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年6月22日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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