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米国は衰退しました。TikTokから始める米中戦争がアメリカ敗北に終わるワケ=江守哲

米国はTikTokやWeChatなど中国企業に難癖をつけねばならぬほど疲弊している。中国が報復措置に本腰を入れれば、米国の衰退路線は確定するだろう。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2020年8月14日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

習近平との不仲を嘆くトランプ

トランプ米大統領が中国との関係で嘆いている。「中国の習近平国家主席とは以前、非常に良好な関係にあったが、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて関係は変化し、習主席とは長い間話をしていない」としている。就任当初は仲良くしていたのだが、徐々に冷たい関係になっているようである。

それもこれも、自身が仕掛けた対中政策がすべてである。自業自得なのだが、重要な友人を失いつつあることに気づいていないのかもしれない。いずれ大きなしっぺ返しがあるだろうが、そうならないうちに対処すべきだろう。

しかし、それができないのが米国である。仕方がないだろう。

トランプ氏は米中の第1段階通商合意について、「習氏との関係は素晴らしかった。私は彼のことが好きだが、今では同じように感じられない」とし、「思いが異なっているのは確かだ。かつて彼とは本当に良好な関係だったのに、もう長い間話をしていない」としている。

まさに、私が指摘している通りの関係になりつつあるようだ。

中国を排除すれば、アメリカは衰退へ向かう

このままでは米中関係は悪化するだけでなく、米国がますます窮地に陥ることになる。

このロジックに米国は気づいているのかどうかはわからないが、今のスタンスを変えなければ、敗者になることは確実である。歴史がそう語っているのであり、米国が多少態度を変えたとしても、最終的な落としどころは変わらないだろう。

いまは、その方向に行く過程にある。その間に、様々は材料が出てきて、それらすべてがその方向に導いていくだろう。

直近では、中国で急成長を続けるIT企業の字節跳動(バイトダンス)が、傘下の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米事業売却を迫られている点も材料である。

トランプ政権の圧力が強まる中、戦略の大きな練り直しは必至の情勢である。他の中国企業、特に情報を主戦場とするハイテク企業の海外展開には深刻な影響を与えることになるだろう。

バイトダンスは外国人幹部の登用や米国での雇用拡大を通じて「中国色」の払拭に取り組んできた。本社を北京からロンドンに移転するとの一部報道もある。

しかし、利用者情報の流出に対する米国の懸念は和らいでいないようである。それだけ米国は中国を脅威とみているわけであり、中国の力を認めているわけである。

Next: イラク戦争しかり、米国は証拠がなくても対抗処置を取る「とんでもない国」



証拠なしで戦争を仕掛ける「米国スタイル」はもう限界

米国の不信感の根幹にあるのが、中国で2017年に施行された「国家情報法」といわれている。

これは、企業や国民に情報機関への協力を義務付ける内容で、当局の要求を拒否するのは不可能とみられている。まさに情報をすべて取り込むという姿勢である。企業や国民は国に対して隠し事はできないということになる。

よくよく考えると、バイトダンスへの締め付けは通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の排除と同じ構図である。ファーウェイ創業者の任正非氏は同法に関し、「情報提供を求められても応じることはない」としているが、懸念を拭い去ることはできない。

米国とその同盟国による中国包囲網は狭まる一方である。

中国外務省の汪文斌副報道局長は、「米国は証拠もなく、関連する企業を有罪と見なし威嚇している」と批判している。

それはそうだろう。米国は証拠がなくとも対抗措置を行う国である。イラク戦争を思い出せばよい。自説を間違いを認めず、謝罪もしない。冷静に考えれば「とんでもない国」である。

「覇権国家への道」を進む中国

他国が同じ態度を示せば、米国に一撃だろう。米国がこのような態度をとることができるのは、世界最大の軍隊と核を保有し、経済も巨大であり、何より基軸通貨であるドルを発行できるからである。

中国はいずれ米国にとって代わって覇権国家になるだろうが、そうなるまでには多くのハードルが存在する。

現在米国が備えている覇権国家としてのインフラを整える必要がある。

しかし、米国は自国がすでに斜陽にあることを理解している。だからこそ、中国の覇権国家への移行を遅らせるために茶々を入れているわけである。

「TikTok」「WeChat」への締め付けは逆効果

さて、すでに報じられているように、トランプ大統領は「TikTok」を傘下に置く中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)と対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を運営する中国の騰訊控股(テンセント)との取引を45日以内に禁止する大統領令に署名した。いよいよ本腰を入れてきた。

トランプ政権からみると、TikTokとWeChatは、米国民の個人情報に対する「重大な脅威」のようである。本当にそうなのか、かなり疑わしいが、そうでもしないと中国に難癖をつけることができない。

ちなみに、この大統領令は、制裁対象に指定した団体などとの米企業や米国民の取引を制限する権限を政権に認める「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づいているという。また、ロス商務長官は9月半ばに禁止措置が発効してから対象となる取引を特定する見通しである。

この措置について、米シンクタンクの戦略国際問題研究所のジェームズ・ルイス氏は、「今回の大統領令は5日に発表された中国製アプリなどを排除する計画と相互補完的な動きだ」とし、「米中のデジタル世界の断絶を意味する」として、「中国は間違いなく報復するだろう」としている。

Next: 「TikTok規制」はアメリカ国民からも総スカン



国家権力を使って外国企業を徹底排除

ルイス氏によると、米国内のWeChat利用者は約300万人にとどまっており、大半が中国人という。このような状況でも中国に難癖をつけなければならないほど、米国は弱っているといえる。

一方、中国外務省の汪文斌報道官は、「これらの企業は米国の法律と規制に従っている」とし、「米国は行動の結果を受け入れなければならない」と警告している。さらに、「米国は国家安全保障を口実にして、国家権力を用いて外国企業を力をによって圧迫している。まさしく覇権主義的なやり方だ」と非難している。

まさに「図星」である。米国とは本当にわかりやすい国である。トランプ大統領になってからさらにわかりやすい、単純な国になったようである。

ちなみに、米国内のTikTokの利用者は1億人と、人気が高い。これを禁止した場合の政治的な悪影響について共和党から懸念の声が出ているという。

しかし、大統領令は、「TikTokは中国共産党を利する虚偽情報キャンペーンに利用される可能性があり、米国は国家の安全を守るため、TikTokのオーナーに対して強い措置を取る必要がある」としている。また、WeChatについては、「利用者から自動的に膨大な情報を収集している。このデータ収集が中国共産党による米国民の個人および機密情報の入手を可能にする恐れがある」としている。

一方で、「適用法が認める範囲内で、米国の管轄範囲のすべての人による、すべての資産に関する、テンセントとのWeChat関連取引」を禁じるとしており、米国内での事実上のWeChat利用禁止となる。こうなると、米国民を含むすべての関係者が困ることになる。

TikTokは声明で「当社は適切な手続きを経ずに出された大統領令に衝撃を受けている」とし、「法の支配が放棄されないように利用可能なあらゆる救済措置を探っていく」と表明している。

「自由の国」アメリカまでもがソーシャルメディア規制へ

すでにご承知の通り、中国ではフェイスブックの対話アプリ「ワッツアップ」など米国のソーシャルメディアのサービスがブロックされている。これは中国という国の本質からすれば、仕方がないだろう。

しかし、「自由の国」を掲げる米国で様々なソーシャルメディアが禁止されれば、それは米国の終わりを意味するといっても言い過ぎではないだろう。

中国ではフェイスブックやツイッター、さらに2010年にはグーグルも中国撤退を余儀なくされた。中国は「中国市場に参入する企業は中国の法律を厳守する必要がある」と自身の態度を正当化しようとしている。それはそうであろう。しかし、それをやりすぎると、それもまた中国に跳ね返ってくる。

共産党機関紙・人民日報系の環球時報の胡錫進編集長は「中国が取ることのできる対抗措置は限られている。これが現実だ」と指摘し、打つ手がないことを認めている。

中国内部でも、中国の対応が苦しいと考えている人がいるのである。これもまた事実である。

Next: 歴史上もっとも「世界の反米感情」が高まっている



中国を倒すために「香港」まで利用する米国

このような状況の中で、米国は、香港の自治や表現の自由を制限したとして、香港政府の林鄭月娥行政長官ら11人を在米資産凍結などの制裁対象に指定した。

これに対して香港政府は、「恥知らずで卑劣だ」と非難する声明を出している。声明は制裁について、「中国内政への露骨な干渉であり、米国の一部政治家が利益を得るため、香港を利用して中米関係に問題を生じさせている」と主張した。

制裁対象の1人である香港政府商務・経済発展局の邱騰華局長は、「米国が一方的な行動を取れば、最終的には米企業に影響を与える。状況をみて必要な措置を講じる」とした。

同様に制裁対象となった中国政府の出先機関、香港連絡弁公室の駱恵寧主任もコメントを出し、「国外に資産はなく、制裁は無駄だ。100ドルをトランプ大統領に送り凍結してもらいましょうか」と皮肉った。機転の利いたスマートな対応である。

また、香港における中国の出先機関「香港連絡弁公室」は、米政府が香港当局者を制裁対象としたことについて、「こっけいな行動」であり中国国民が恐れを抱くことはないと反論している。弁公室は「香港における反中国の動きを支えようとする米国の不謹慎な意図が明らかになった。米国の行動はこっけいで実にばかげている。脅しで中国国民を怯えさせることはできない」との声明を出している。

しかし、米財務省は、「香港国家安全維持法の施行によって、香港の自治が損なわれ、中国に敵対的と見なされる個人や団体に対する弾圧の下地が作られた」としている。中国を破壊するためには何でもするというスタンスだろう。しかし、それにも無理がある。

始まった中国の対抗措置

さて、米国の強硬姿勢に対して、中国政府も米共和党議員を含む米国人11人を制裁を科すと発表した。

中国外務省の趙立堅報道官は「中国は米国の誤った動きに対抗し、香港に絡む問題に対し甚だしい行動をとった個人に制裁を科すことを決定した」と表明した。しかし、制裁の詳細については明確にしていない。とにかく、表面上は対抗姿勢を示さざるを得なかったといえる。

中国が制裁を加えたのが、共和党のテッド・クルーズ、マルコ・ルビオ上院議員、クリス・スミス下院議員ら複数議員のほか、非営利団体や人権擁護団体。これら議員は、中国による香港国家安全維持法の施行を激しく非難していた。米中関係はまさに泥沼化しているといえるだろう。

このような対抗措置は今後も続くのだろう。そうやって両国が疲弊していくことになる。そして「どちらが残るのか」という話になっていく。

この結論が出るには少し時間がかかるだろうが、最終的には米国が明確な形ではないにしろ、白旗を上げることになるだろう。

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江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2020年8月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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