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アップル株は理論上「無限」に上がる?それでも気になる急落リスク…買い時は=栫井駿介

コロナ禍による経済停滞を尻目に株価は好調を維持し、米アップルはついに時価総額2兆ドルを突破。アップルの株が無限に上がるのには理由がありました。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

株価は経済を映す鏡ではなかったのか?

新型コロナウイルスによる経済停滞が続く中で、株価はなお好調を維持しています。ナスダック総合指数は過去最高値を更新し続け、代表格のAppleは史上初めて時価総額2兆ドルを突破しました。

NASDAQ 日足(SBI証券提供)

APPLE INC<AALP> 日足(SBI証券提供)

このような動きに違和感を覚える人は少なくないと思います。「株価は経済を映す鏡ではなかったのか」と。

経済状況は最悪です。アメリカの4-6月期GDPはマイナス32.9%(年率)と、過去最悪を記録しました。底は脱したかもしれませんが、新型コロナウイルスのワクチンや効果的な治療薬はいまだ開発されず、感染者は増え続けています。

エコノミストの間では、以前の経済状態に戻るのは2024年までかかると言われています。人々が何かしらの行動を制限しなければならない期間は今後数年続きそうです。

そう考えると、やはり株価上昇は「おかしい」と感じます。

アップルの株価が無限に上がり続けるワケ

しかし、金融理論で考えると現在の株価上昇が「間違っている」とも言い切れません。

株式の価値は、将来キャッシュ・フローを現在の価値に割り引いたものの総和です。それは、以下のような公式で計算できます。

例えば、今期の1株あたり利益が100円、割引率が6%、成長率が2%だとしたら、100/(0.06-0.02)=2,500円となります。この数字はPERとも近似し、この場合のPERは25倍(2,500/100)となります。

この公式をもとにすると、割引率(r)が下がるほど、分母が小さくなります。上の例で言えば、rが6%から5%になれば、100/(0.05-0.02)=3,333円、すなわちPERは33倍となります。

勘の良い方はここで気づくかもしれません。割引率は金利をベースに形成されますから、金利が下がるほど理論上のPERは上昇することになります。極端な話、割引率が成長率に近づくほど、分母はゼロに近くなり、PERは「無限大」に上昇するのです。

もっとも、ここで成長率がマイナスなら、マイナスのマイナスはプラスになりますから分母は上昇し、PERは下がります。これは、厳しい状況に置かれる昔ながらの産業に当てはまります。

しかし、成長率が今後もプラスになる可能性の高いハイテク株ならどうでしょう。上記で説明したように、割引率が下がり、「割引率-成長率」がゼロに近づくほど、PERは大きくなります。割引率は安定した企業ほど低くなりますから、Appleのような手堅く成長が予見される銘柄ほど、株価はどこまでも上昇してしまうのです。

かなり荒い説明ですが、おおよその理論はこのような形です。これを見る限り、現在の株価は「間違っていない」と言えるのです。

Next: アップル株は理論上「無限大」に上昇?実際はそうならない2つの理由



金融緩和の終焉と競争激化が上昇に転換をもたらす

それでは、ハイテク株は理論の通り「無限大」にまで上昇してしまうのでしょうか。

私は必ずしもそうはならないと考えます。その理由は、以下の2点です。

1)金融緩和はいつまでも続かない
2)成長はいつまでも続かない

前述の公式は、割引率と成長率が一定で、成長が永遠に続くことを前提としています。すなわち、この前提条件が崩れれば、計算されるPERも変化するのです。

FRBは、当面の間ゼロ金利を継続すると言っています。しかし、これはあくまで足元の状況で金融市場を安定させるための発言にすぎません。

もし今後、想定を大きく上回るインフレや資産バブルが生じたらどうするでしょう。インフレは庶民を苦しめることになりますし、バブルの崩壊はかつての日本を見れば明らかなように悲惨な状況を引き起こしかねません。

したがって、もしそのような兆候が見られた場合は、FRBは金融緩和を終了させる必要性が出てきます。

そうでなくても、今の超緩和的な状況に気持ち悪さを感じている関係者も少なくないでしょう。コロナ禍の収束が見えた暁には、緩和を終了させる議論が起きてもおかしくありません。

また、ハイテク株と言っても、成長が永遠に続くことはありません。

例えば、Googleは直近の四半期で上場以来初の減収を記録しました。Googleの収益の大半は広告収入です。景気が悪くなれば、企業は広告への出費を抑えます。テレビ広告はもとより、いまやテレビを上回ったネット広告も例外ではないのです。

経済はすべてがつながっています。経済の低迷に伴い、同じようなことが他のハイテク株にも起こる可能性があるのです。

成長を止めるもう1つの要因が競争です。利益が出るビジネスにはあらゆる企業が殺到し、やがて価格競争に陥ります。そのビジネスが誰でもできるものだとしたらなおさらです。

例えば、Zoomは在宅勤務の拡大などで一気に勢力を伸ばしました。しかし、このようなWeb会議システムは割と簡単に構築できてしまうものです。そのため、MicrosoftやGoogleなど、様々な企業が参入しました。Googleに至っては得意の「無料」でシステムを提供しています。今後は価格競争待ったナシなのです。

これは「成長の罠」と呼ばれ、長期投資の傑作『株式投資の未来』(著:ジェレミー・シーゲル/刊:日経BP)でも指摘されています。競争により、期待したほどの利益が得られず株価は下落するのです。

Next: コロナが続いても終わっても下落?「その時」を待てるかで結果は変わる



コロナが続こうと終わろうと下落リスク!「その時」を待てるかどうかが結果を左右する

難しいのは、コロナ禍が続こうと収束しようと下落リスクがあるということです。

このままコロナ禍が続き、経済の停滞が長引くほど成長率がマイナスに転じる可能性が高まるでしょう。市場を牽引したハイテク企業の減速は大きなマイナス要因です。

一方、無事ワクチンが開発され、事態が正常に戻るほど、金融緩和の終了が近づくことになるでしょう。

すなわち、どちらに転んだとしても、株価が大きく下がる要素が十分にあるのです。もちろんそうならない可能性もありますが、このまま一方向の上昇が続くとは限らないということです。

その中で私たちはどう動くべきでしょうか。

これは常々言っていることですが、バリュー株投資の理念は「良い企業を安く買う」ことです。したがって、株価が上昇している局面で無理に買う必要はありません。むしろ、上記のような不安要素が現実化し、株価が急落し始めた局面こそ、絶好の買い時なのです。

多くの投資家は、上昇局面で我慢しきれず慌てて買ってしまい、その後下落して損切りもできないまま塩漬け期間が続きます。これでは一向に資産は増えません。

バリュー株投資で資産を伸ばすには、

(1)良い企業が下がるまでじっくり待つこと
(2)下落局面では勇気を持って買うこと

この2点が最も効果をあらわすのです。

ぜひこれからもこのレポートを読んで心を落ち着かせ、来たるべき時のために頭と心、資金の準備を欠かさないようにしましょう。細かな相場変動や他人の成果などノイズにすぎません。


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image by:Vytautas Kielaitis / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年8月24日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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