マネーボイス メニュー

前澤友作は打倒ユニクロを実現するか?この天才はバフェットすら超えてくる=栫井駿介

ZOZO<3092>創業者の前澤友作氏が、アパレル会社のアダストリア<2685>やユナイテッドアローズ<7606>の株を購入したことで話題になっています。いったい彼にはどんな野望があるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

【関連】人材不足の自民党に「安倍のほうがマシだった」リスク。後釜は菅か小池百合子か=江守哲

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

「お金配りおじさん」の優雅な遊び?

株式の購入が判明したのは、「大量保有報告書」という金融庁に提出する書類からです。上場企業の株式を5%以上保有した場合に、提出することが義務付けられています。

この書類によると、前澤氏は市場で少しずつ買い足していったことがわかります。誰かから譲り受けたわけではないということです。

投資目的は「純投資」としながらも、「必要に応じて企業価値向上のための助言または提案を経営陣に対して行う可能性もある」と書かれています。

まず、これが敵対的なものか友好的なものなのか考えなければなりませんが、ユナイテッドアローズの重松名誉会長と前澤氏はZOZOTOWN黎明期から懇意にしてきたということであり、敵対的ということは考えにくいでしょう。

現時点においても、アダストリアとユナイテッドアローズはいずれもZOZOTOWNに出店しています。

一方の前澤氏といえば、ZOZOの社長を退いてからも話題に事欠きません。最近は億万長者らしく自らを「お金配りおじさん」と称してSNSでお金をばらまいていますが、これが詐欺を誘発することでも問題となっています。

今回の投資も、お金が余って仕方がない前澤氏の遊びのようにも見えますが、果たして真の目的はどこにあるのでしょうか。

コロナ直撃のアパレル業界

その前に、前澤氏が投資したアダストリアとユナイテッドアローズについて改めて分析してみたいと思います。

アダストリアというとあまり馴染みがないかもしれませんが、GLOBAL WORK(グローバルワーク)やniko and…(ニコアンド)、LOWRYS FARM(ローリーズファーム)など、ショッピングセンターやアウトレットモールでよく目にするブランドを保有しています。

どちらかと言うと若者向けのブランドで、比較的安価ながら小洒落た印象があります。

業績は安定していて、実質無借金であることから財務的にもかなり余裕があることが分かります。オンライン販売も2割近くにのぼり、近年の変化にも対応できている印象です。

ユナイテッドアローズは耳にしたことのある人も多いと思います。同名のブランドを軸に展開しています。

こちらも業績・財務ともに良好で、不安な所は特に見当たりません。ベーシックな衣料を展開していますから、アパレルで問題となりがちな在庫も増えにくいようです。

しかし、両社の株価は今、大きく下落しています。その要因は、ご多分に漏れず新型コロナウイルスです。

アダストリア<2685> 週足(SBI証券提供)

ユナイテッドアローズ<7606> 週足(SBI証券提供)

人々が外出する機会が減っておしゃれをしなくなっただけでなく、ショッピングモールを訪れて買い物をすることすらままならなくなってしまいました。

両社とも直近の四半期業績は赤字です。目先の業績が苦しいことが明らかですから投資家は我先にと株を売っているのです。

Next: お金を配りたくなるのは当然?前澤氏の資産は800億円も増加



前澤氏の資産は800億円増加

一方のZOZOの業績は好調です。今期も50%近い増益予想を発表しています。外での買い物がしづらくなった分の需要が、オンラインに流れているのです。これは、アパレルのオンライン化の流れを加速させる可能性があります。

ZOZO<3092> 週足(SBI証券提供)

株価も新型コロナショックから右肩上がりに上昇し、前澤氏がZホールディングスへ売却した価格を超えました。前澤氏はまだZOZOの株式を17.5%保有していますから、株価上昇で3月の底値から約800億円が増えたことになります。お金を配りたくなるのもよくわかる金額です。

前澤友作は孫正義を超えバフェットになるか?

この新型コロナショックが終わったときに、アダストリアやユナイテッドアローズの業績や株価はどうなるでしょう。

1つ考えられる方向性が、このままオンライン化がどんどん進むということです。そうなると実店舗を中心として展開する両社は、店舗の減損やリストラが避けられず、当面厳しい状況に置かれるでしょう。投資家もこれを見越して株を売っていると考えられます。

アパレル大手のオンワードは、目下売上の半分をオンラインにしようとリストラを含む大改革を行っています。このようなことがどの会社でも起こりうるのです。

【関連】ZOZO復活の兆し?アパレル各社の「ZOZOがえり」は前澤氏不在のつまらなさを埋めるか=栫井駿介

ただし、両社はZOZOTOWNにおける中核的な店舗となっていることからわかるように、比較的早い段階からオンライン化を進めています。そうなると適応は思いのほか早いのではないでしょうか。

そんな中でこの2社の財務状況は健全です。リストラで一時的な損失を被るとしても、本質的な経営状況には問題が無いと考えられます。

何より若者に受け入れられているブランドであるからこそ、ZOZOTOWNのようなオンラインモールにおいてもその優位性が引き続き発揮されるのです。

もちろん前澤氏にとってはかつての取引先ですから、その内情はつぶさに知り尽くしていることでしょう。その上で将来に期待が持てると判断したからこそ、この投資に至ったと想像できます。

両社の株価は、1年前のおよそ半額になっています。これらに対し約74億円の投資を行いましたから、株価が2倍になれば100億円近い利益を上げることになります。

すなわち、この投資は大量保有報告書に書かれている通り、紛れもない「純投資」という見方ができるのです。

このように売り叩かれた時にたくさん投資できる投資家こそ、本当の利益を得ることができます。これは「投資の神様」ウォーレン・バフェットにも通じる考え方です。

もしかすると、この新型コロナショックを受けて徹底的に守りの姿勢に入ってしまったソフトバンクの孫正義社長よりも、投資家としては一枚上手かもしれません。

Next: 前澤氏の狙いは打倒ユニクロ。ファッション文化の未来まで考えている?



最終ターゲットはユニクロ。画一性と多様性の仁義なき戦い

もう1つの可能性は、ZOZOを退いてなお事業家としての目標が渦巻いているのではないかということです。

今やアパレル業界の圧倒的な勝ち組は、ユニクロを運営するファーストリテイリング<9983>です。国内2番手となるしまむら<8227>の4倍近い売上高を誇ります。

しかし、このままユニクロだけがシェアを伸ばしていったらどうなるでしょうか。みんながみんなユニクロの服を着て、画一的なファッションとなってしまいます。学校か刑務所でしょうか。

ファッションの醍醐味といえば多様性にあります。いくらお金がなかろうと、おしゃれをしたいと思うのは人間の心情です。しかしこのままいくと、ユニクロによってそのファッション文化がなくなってしまいかねません。

そこに対抗できる可能性があるとしたら、唯一ZOZOということになるでしょう。ZOZOのホームページに行けば、様々なブランドの取り扱いがあります。消費者はそこから、1つのブランドに縛られず好きなものを選ぶことができるのです。

幸い、ファーストリテイリングのオンライン化はまだ道半ばと言えます。ここでZOZOが確固たる足場を築くことができれば、ユニクロの本格的な対抗軸となることも夢ではないのです。

【関連】ZOZOTOWNとユニクロの全面戦争勃発!アパレル業界の覇権を握るのはどっちだ?=栫井駿介

かつて前澤氏がゾゾスーツを発表した時、ファーストリテイリングの柳井社長は「おもちゃ」と切り捨てました。ZOZOを離れてなお、ガリバーに挑み続ける心を持っているのかもしれません。

もちろんそれを実行するには、出店企業の協力が不可欠です。かつて自社製品を発売するなど、出店企業の反発を招いた経緯がありますが、それは正しい道ではないと気づいたのかもしれません。

このままうまくオンライン化に対する助言を行うことができれば、業績改善により保有株は上昇し、なおかつアパレル業界に一石を投じられる可能性があります。そこまで考えていたとしたら、投資家として非常に面白い展開です。

これからも前澤氏の一挙手一投足から目を離せません。


つばめ投資顧問は、本格的に長期投資に取り組みたいあなたに役立つ情報を発信しています。まずは無料メールマガジンにご登録ください。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

【関連】ディズニーは再開をわざと遅らせた? じっくりコロナ対策できた3つの理由=栫井駿介

【関連】コロナはユニクロに追い風? 親会社4割減益予想もオシャレ不要の世界で天下を取る=栫井駿介

【関連】セブンイレブン、業績好調なのに大量閉店の闇〜月収26万円で疲弊するオーナーたち=栫井駿介

【関連】しまむら、客離れ加速で業績悪化。ユニクロを目指して主婦に嫌われる大失策=栫井駿介

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年8月27日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問

[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。