財務省発表の「法人企業統計」を見ると、日本経済の壊滅的な状況がよくわかります。業種によって明暗分かれるも、日本は圧倒的に「暗」が主流です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
緊急事態宣言の影響大
中国では昨年12月に新型コロナの感染が確認・報告され、旧正月から多くの経済規制がかけられました。このため、1-3月の中国のGDPは前年比6.8%の減少を見ました。
日本ではこれに遅れ、3月になって感染が急増し、影響が各所に見られるようになりましたが、4月7日に政府が緊急事態宣言を発し、5月いっぱい自粛を求められたため、経済への影響は4-6月期に大きく出ました。GDPは前期比年率で28.9%も縮小するという、現在の統計開始以来最大の落ち込みとなりました。
これは日本だけでなく世界的な現象で、その影響は業種や分野によってばらつきが大きいことも共通しています。米国ではコロナ禍でも株価がハイテクを中心に、コロナ前の高値を超え、最高値を更新するほどでした。
日本でもやはり明暗のばらつきが見られます。
日本は明より暗が大
財務省が1日に企業統計の集大成ともいえる「法人企業統計調査(令和2年4~6月期)の結果」を公表したので、これをチェックしてみましょう。
まず売り上げの動きをみると、全体で1-3月の前年比7.5%減から4-6月は17.7%減と、やはりコロナ自粛もあって縮小幅が大きく拡大しています。問題はその内訳です。
まず製造業は1-3月の5.5%減から20.0%減に急悪化していますが、その主役は自動車などの輸送機械です。ここでの売り上げは1-3月の6.2%減から4-6月は37.2%減と急落しています。このため、自動車業界の生産は4月に半減しました。この自動車の急減の影響もあり、その関連業界も縮小。例えば、鉄鋼も4-6月は24.3%の減収となりました。この他、汎用機械、生産用機械も2割前後の減収です。
非製造業ではサービス業と不動産にコロナの影響がうかがえます。サービス業の売り上げは、1-3月の13.3%減から4-6月は31.8%の減少と急縮小しています。また不動産は1-3月までは好調で、1-3月も21.1%増でしたが、4-6月になって突然10.0%減と落ち込みました。テレワークの拡大でオフィス・ビルの需要が減退し始めました。
その一方で、「明」の部分と期待された情報通信業は1.1%の増収にとどまり、1-3月の2.7%増から高まっていません。巣籠生活でSNSの利用者が増え、コンテンツの需要は増えましたが、分類が大きい分、そのメリットが十分出ていないようです。また、建設業も4.3%の減と、影響は軽微のようです。
意外だったのは、巣籠生活で多くの人が宅配などを利用しましたが、運輸・郵便業の分類では売り上げが1-3月の10.5%減から4-6月は23.3%減に落ち込んでいます。ここには、宅配関連の増加を打ち消すほどの、鉄道や空運の需要減少が大きく、これらが一緒になっているため、悪いほうの影響がより強く出たとみられます。
Next: 業種によって明暗分かれるも、日本は圧倒的に「暗」が主流
営業利益は6業種で赤字
営業利益でみるとこの変化がより顕著に出ています。
全産業での営業利益は、1-3月の30.9%減益から4-6月は64.8%の減益となっていますが、製造業では31.1%の減益から91.2%の減益と、ほぼ利益が消えています。そして製造業の11業種のうち、1-3月は石油・石炭業だけが赤字だったのに対し、4-6月は輸送機械の8700億円を筆頭に5業種で営業赤字になっています。
一方、非製造業では運輸・郵便業で1兆円の赤字となったのが目立ちます。空運や新幹線など鉄道会社の利益が大きく圧迫されたことによります。非製造の赤字はこの1業種だけですが、サービス業は62.5%の減益で、何とか黒字は維持しました。全体では19業種中6業種で赤字となりました。
半面、情報通信業では前年比3.5%の増益となる1兆7千億円余りの利益を上げ、製造業では情報通信機械が前年比約6倍の利益を上げています。米国では小売りの中でもウォルマートが好調で株価も上げていますが、日本の卸・小売り業の営業利益は1-3月の33%減益に続き、4-6月は60%の減益と、苦戦しています。
明暗分かれるといいながら、日本では圧倒的に「暗」が主流で、「明」は一部に限られています。
自動車に代わるリーダーが必要
米国ではグーグル、アップルなどに代表されるいわゆる「GAFA」だけで、その株式時価総額が日本の全株式の時価総額を上回るほどで、米国経済や株式市場をけん引しています。トランプ大統領はこれらを煙たく思い、批判していますが、現在の米国経済のリーダーであることに違いはありません。もうGMやユナイテッド航空、ボーイングに頼れる時代ではなくなりました。
これに対し、日本経済はこの40年近く、自動車産業に支えられ、いまだに自動車をトップとするピラミッド型経済で、素材から半導体、コンピューターなど、多くの業種が自動車向けに仕事をしています。
残念ながら日本には「GAFA」が出現せず、IT化は特に遅れ、産業構造の変革が進んでいません。「親亀(自動車)こければ皆こける」パターンになっています。
幸い、自動車業界自身が危機感を持ち、新しい分野に進出を考えています。例えば、ドローンと自動車を組み合わせた空飛ぶ自動車(タクシー)が現実化しようとし、また水素電池などのエネルギー開発も進んでいます。生活空間としての楽しさを目指しており、車を超えた変革も進んでいます。
Next: 世界は不安であふれている。日本はビジネスチャンスに変えられるか?
不安をビジネスチャンスに変えられるか?
今回のコロナ禍で、多くの産業、国民が行動を制約され、ストレスフルな生活を余儀なくされました。
温暖化でシベリアの永久凍土が溶けだすと、新たなウイルスの発生も懸念されるといいます。超大型台風の危機は日本中を不安に陥れています。自然災害の規模、リスクは年々大きくなり、保険ただけでは対応できません。同時に、自然災害は食の安定供給を脅かし、米ロ中の「使える核兵器」拡大路線は、新たな不安を投げかけています。
多くの不安に対する改善策、解消策は今の日本では大きな需要になります。必要は発明の母でもあります。ノーベル賞頭脳を生かした抗ウイルス薬の開発など、医療分野での新機軸も大きなビジネスチャンスになります。また、美味しくて免疫力の強化につながる食材の開発など、現代農業は成長産業になりうる1つです。
核兵器の不安に対抗するには核をもって抑止力とする考えを覆す必要があります。電磁波を活用した装置が、核兵器のスイッチを破壊できれば、核兵器保有と同じ抑止力になります。さらに核を持つこと自体が新たなリスクとなるような誘導装置の開発も考えられます。
個別知識、技術を集め、組み合わせるコーディネーターの役割が重要で、そういう分野で官庁というシンクタンクが動く余地があり、「忖度官僚」の汚名返上のチャンスにもなります。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年9月7日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。