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情報銀行は日本の起死回生となるか?怯めばGAFAの下請けになるだけ=岩田昭男

「情報銀行」が日本でも始動したが、広く知られているとは言い難い。しかし、実は日本政府イチオシの政策のひとつでもあるのだ。乗り遅れると、日本企業がGAFAほか海外企業の下請けに成り下がりかねない。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

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プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。

石油に匹敵する価値を持つ個人情報

かつて石油は血の一滴といわれ、世界の経済や政治にとって欠かせないものであり、石油を制する者が世界を制すとまでいわれた。デジタル時代のいま、その石油にとって代わるものが「情報」だ。

IT(情報技術)の発達によって膨大な個人情報が収集・蓄積され、ビッグデータとして多くの企業のビジネスに利用されている。個人情報は企業にとって欠くことにできない貴重な「資源」であり、新たな商品やビジネスを生み出す「宝の山」なのだ。

この個人情報を預かり(個人から情報の預託を受け)、企業に提供し、その対価を個人に還元する新たなビジネスが「情報銀行」だ。これまで個人がお金を銀行に預け、銀行はそのお金を企業に融資し、金利で得た利益を個人(顧客)に利子として還元してきたように、個人に付帯するさまざまな情報がお金の代わりになる。

個人情報は名前から始まって、年齢、電話番号、家族構成、年収、資産、購買履歴はもちろん、医療履歴、顔データや指紋認証、さらには遺伝情報にいたるまで多岐にわたる。

情報銀行はこれらの個人情報を預かり管理・運用する。まず、情報を提供した個人の同意を得たうえで、個人情報をマーケティングなどの業務に活用したい企業に提供する。企業は利用料などの名目で情報銀行に報酬を支払い、情報銀行はその報酬の一部を個人に還元する。還元のかたちは金銭だけではなく、当該企業のクーポンやサービスの提供などさまざまだ。

こうした一連の個人情報の収集・管理・取り扱いにおいて重要な役割を果たしているのが、「PDS(パーソナル・データ・ストア)」というシステムだ。このシステムによって、自分の個人情報を情報銀行に預ける個人の意思・意向が担保される。つまり個人情報の収集・管理はもちろんのこと、情報銀行から他の企業への情報の提供(販売)は情報提供者の許諾が前提で、情報提供者の意思に反するような情報の利用・活用は行われないことになる。

閣議決定された「情報銀行」構想

情報銀行という言葉はまだなじみが薄い。広く知られているとは言い難い。しかし、実は日本政府イチオシの政策のひとつでもあるのだ。

政府は2015年に個人情報保護法を改正し、個人を特定できないように匿名化した加工情報であれば、本人の同意を得ずに第三者に提供することができることにした(施行は2017年5月30日)。これによって、企業が個人情報を買って利活用できる道を開いた。

そのうえで翌16年には「世界最先端IT国家創造宣言」(5月20日閣議決定)のなかで、「情報利用信用銀行制度構想(いわゆる情報銀行)」を推進すると明記。さらに直後の「日本再興戦略2016」(同年6月2日閣議決定)で、「第4次産業革命を支えるデータ利用促進の環境整備」の重要性を強調した。これが情報銀行構想が本格化するきっかけとなり、その年の7月には早くも情報銀行の業界団体である「日本IT団体連盟」が発足している。

政府が情報銀行の設立を急いだのは、個人情報の活用促進を図るためだ。日本企業が個人情報を求めているためでもあるが、もうひとつほかに大きな理由がある。あるいはこちらが本当の目的かもしれない。

GAFA(ガーファ)と呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン(これにマイクロソフトを加えGAFAMと呼ぶこともある)といういずれも米国生まれの巨大IT企業の「データ支配」を許し、日本企業が世界のデジタル覇権戦争に敗れてしまうという強い危機感があるからだ。

GAFAに持っていかれる個人情報を少しでも日本企業の手に取り戻したい、それが官僚・政府の本音だ。

Next: 日本企業はGAFAの下請けに成り下がる?ビッグデータ活用に乗り遅れるな



GAFAの下請けになりかねない日本企業

GAFAはプラットフォーマーと呼ばれ、インターネットの検索システムやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム)、EC(Eコマース=電子商取引)などのサービスを個人に提供する。これらのサービスはすべて無料だが、利用者はたとえば閲覧データという個人情報を対価として払っている。

試しにグーグルの検索履歴の一覧を見るといい。多くの人が驚くに違いない。アカウントを開設して以降、いつどんなサイトを訪れ、何を検索したか、誰とどんなメールのやりとりをしたかなどがすべて網羅されている。住所、氏名が明記された電気料金の請求書のPDFファイルなども含まれている。

こうして集められた膨大な個人情報は、利用者の利便性のさらなる向上に使われる。検索の効率がアップしたり、欲しい商品が探しやすくなったり、好みの商品をすすめられたりするようになる。

しかし、それだけではない。吸い上げられた個人情報は、たとえばネットの閲覧履歴を記録した「クッキー」と呼ばれるデータになる。クッキーはプラットフォーマーからデータ仲介業者に売られる。このデータが個人を特定できないように加工され、企業のターゲティング広告やマーケティングに利用される。

この個人情報の収集・集積にいち早く成功し、新たなビジネスを生み出すことで莫大な利益を上げているのがGAFAだ。日本最大のポータルサイトのヤフーも、日本で図抜けた存在のECサイトの楽天市場も、グーグルやアマゾンには到底太刀打ちできない。

このままでは日本企業はGAFAの下請けのような存在に成り下がってしまうと懸念する経済人や官僚が少なくないのだ。

GAFAに対する規制を強化する各国

GAFAの「データ独占」に対してEU(欧州連合)では2018年5月からGDPR(一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報(データ)を持ち運べる「データポータビリティー権」が確立された。

これによって、個人が企業に預けた情報を自分の意思で持ち出すことができる法的裏づけができた。同時にヨーロッパのIT企業がアメリカ資本のGAFAに対して対抗するすべを持ったという見方もできる。

OECD(経済協力開発機構)は、GAFAに対して「デジタル課税」を課すルールづくりを続けている。日本では公正取引委員会が2019年8月に、GAFAを含む巨大IT企業の本人の同意を得ずに個人情報の収集をしたり、ターゲティング広告に利用したり、企業に販売したりすることは独占禁止法違反(優越的地位の乱用)になるというガイドラインを公表している。

このようにGAFAに対する国際的な規制が強まるなかで誕生した情報銀行には、個人情報の利活用による経済や企業の国際競争力の向上と同時に、データポータビリティー権の保障やプライバシー保護が強く求められるのはいうまでもない。

Next: 日本でも情報銀行が始動。セキュリティ関連の不祥事が続くが大丈夫か?



日本IT団体連が認定した情報銀行は3社

情報銀行の構想が明らかになってからすでに4年余りが経過し金融機関やIT企業を中心に個人情報の利活用を事業化する企業は増えてきたのは事実。キリンホールディングス、スカパーなど多くの企業がさまざまなかたちでサービスの実証実験を行っている。

情報銀行は国の許認可事業ではないが、業界団体の日本IT団体連盟は管轄官庁の総務省が定めた認定基準などの指針をもとに、事業者の情報管理の体制づくりなどを審査し、認定を行っており、この認定を受ければ公的なお墨付き得たということになる。

日本IT団体連の認定を初めて受けたのは、「三井住友信託銀行」とイオングループの「フェリカポケットマーケティング」の2社。日本IT団体連盟が設立されてから3年後の2019年6月のことで、認定のハードルはかなり高そうだ。

三井住友信託は健康上の活用、フェリカポケットマーケティングは主に消費者の購買履歴を中小企業などに提供し、商品開発に活かしてもらう考えだ。

同年12月、3社目の認定を受けたのが「Jスコア」だ。同社は2016年11月にソフトバンクとみずほ銀行が折半出資で発足させたネット起業で、独自に信用スコアを作成し、それをもとに個人向けの融資(「AIスコア・レンディング」)を行っている。

Jスコアが行う情報銀行としての業務は、信用スコアで得た個人情報を企業に販売し、個人情報の提供者に対してその対価を支払うことになる。

相次ぐネット企業の不祥事

デジタル情報化社会にあって、個人情報の流出事件は業種を問わず後を絶たない。企業の個人情報の取り扱いに対する姿勢が疑問視される事件も多い。

ポータルサイトのヤフーは、昨年7月からサイトの利用者の信用度などを点数化して提携企業に提供する信用スコアサービス「ヤフースコア」を始めた。しかし、サービス利用に同意する仕組みの説明が不十分だったことから利用者の批判を浴び、今年8月末、わずか1年でサービスを終了した。

リクルートキャリアが運営する就職情報サイト「リクナビ」が、就活生の内定辞退率予測を本人の同意を得ずに企業に販売していたことが昨年8月に発覚。同社は、個人情報の不正利用を監視・監督する個人情報保護委員会から、業務改善勧告を受けた。

今年の9月に明らかになった「ドコモ口座」事件は、単にドコモ口座だけにとどまらず、電子決済サービスや銀行のセキュリティーの在り方に不信感を抱かせる結果になった。さらに、自分の個人情報が簡単に第三者に流出し不正利用されてしまうという恐怖感を利用者に植えつけることにもなった。

かつて日本は個人情報の取り扱いについて鷹揚だった。自治会名簿には氏名、住所、電話番号が載っていたし、書籍や雑誌の著者のプロフィール欄には当然のように住所などの連絡先が書かれている牧歌的な時代があった。

しかし、いまは違う。SNSにプライベート情報を書き込めば、世界中に拡散する時代だ。おのずと個人情報の取り扱いには慎重になる。IT企業に個人情報を提供するのを不安に思う人も多い。まして、その個人情報が企業間で売買されることに抵抗感を覚える人はさらに多いだろう。

Next: 日本企業の「情報銀行」認知度は4割以下。海外企業に制圧されかねない



情報リテラシーを磨く必要

情報銀行の普及をめざす企業にとってはいささか気になる数字がある。総務省が行った「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(2017年)によると、情報銀行やPDS(パーソナル・データ・ストア)を利用したいと考えている人は19.2%にとどまる。

利用に対して消極的な理由は「自らの責任範囲や負担が大きい」が最も多く、情報銀行を含め情報を管理する企業に対する信頼性も低いことが明らかになっている。

また、日本の企業にPDSや情報銀行を知っているか聞いたところ、「知らない(はじめて聞いた)」と答えた企業が6割を超えた。つまり情報銀行の企業の認知度はきわめて低いという結果になっている。

このように個人、企業ともに情報銀行に対する関心は低い。一方で、デジタル情報化社会からさらに一歩進んだIoT(アイオーティー)社会が現実のものとなりつつある。すべてのモノがインターネットでつながる社会では、情報=データの数は幾何級数的に増えていく。それがコンピュータに蓄積されビッグデータとなってAI(人工知能)によって分析され、新たなサービスの提供というかたちで人々の生活を大きく変えている。

まず、われわれは自分たちの個人情報がGAFAを中心とした巨大IT企業に収集・管理されているという事実を直視する必要がある。現実を知るということだ。そのうえで、個人情報の利用を許可するのかしないのかを自分で判断し、企業の情報管理や活用法を主導していく。情報銀行などの企業を使って情報の利活用の対価を得るという選択ももちろんありだ。

同時に、関連する企業に対してセキュリティー対策の向上やプライバシー保護の徹底をつねに促し、政府に対しては情報管理の透明性や情報公開を求めていく必要がある。

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    達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2020年10月1日号)より一部抜粋
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