マネーボイス メニュー

「コロナ終息はまだか」耐えた企業が軒並み倒産、政府の無策で見殺し=斎藤満

アフターコロナはいつ来るのか。耐えて嵐が過ぎるのを待っていた企業がどんどん潰れています。対応の見極めを難しくしているのは、政府支援の不透明さです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年10月23日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

息を止めて待つには長すぎた

新型コロナで世界が変わるのか、このまま嵐が去るのを待つのか。企業の見極め、対応が難しくなっています。

嵐は長くは続かないと、息を止めて潜っていた企業にとって、嵐は長すぎました。

感染が収まって客が戻ってくるのを待つにも、半年以上たった今でも客足が戻らずに、やむなく休廃業を決めた企業が1-8月だけで前年比23.9%増の3万5,000社を超えました。

罪づくりなアラート解除

企業の判断を鈍らせた1つの要因が、緊急事態宣言や東京都のアラート解除で、一旦は感染が収束しかけたように見えたことです。

5月19日には新規の感染者数が東京都で5人にまで減少し、感染収束の期待が高まりました。これを受けて、東京都はアラートを解除し、政府も緊急事態宣言を解除しました。

これで息ができると、経済再開に伴って企業も活動を再開したのですが、ウイルスが消え去る前に人々が動き始めて、その後、再び感染者が増加に転じ、全国でも感染者が増加を見せました。

第2波の懸念が高まるなかでも、政府は経済を優先して、規制を徐々に緩和し、スポーツ観戦も条件付きで認められ、さらにその数が緩和されました。

その結果、東京の感染者数は7月の中旬以降、春のピーク水準を超えました。

政府関係者の中には、あくまで東京の問題として責任を東京都に押し付ける動きがあり、東京の活動を制限する形で経済支援を続けました。しかし、東京人の動きを制限しても、感染者は全国に散らばり、そうした人々が自由に動き回れば、感染は拡大します。

高齢者や基礎疾患のある人は「重症化リスク」が高いと言われてきただけに、彼らは巣籠し、在宅勤務を志向する労働者が増えました。

全国の新規感染者は8月初旬にピークをつけ、中旬以降再び減少を見せ、政府は「GoToトラベル」キャンペーンなどでさらに経済活性化を促しました。とりわけコロナで打撃を受けた宿泊業など観光関連、交通関連を救済し、若者がこれを利用して観光地には客が戻るようになりました。特に、東京都発着分もキャンペーンに加えられて以降、客足はかなり戻りました。

しかし、これは感染を克服して元に戻ったわけではありません。

Next: 開発中のワクチンに効果ナシ?政策支援も先が見えない



政策支援も先が見えない

GoToをきっかけに客足が戻ってきていますが、感染を克服して元に戻ったわけではありません。

現に感染者数はこのところ下げ止まり、高水準を続ける中で、キャンペーンが客を戻しています。それでも対象は感染予防対策をとっている企業となっています。

ディスタンスを取る分、客数は限られ、感染予防対策にコストがかかります。あくまでコロナとの共生が前提となっています。

問題は、この政府支援がいつまで支えてくれるのか、不透明なことです。

それだけ企業の判断は鈍ります。「トラベル」に続いて「イーツ」も加わり、飲食店も救済の対象となり、その利用者は増えています。しかし、政策設計が不十分なため、キャンペーンが不正の温床となるケースもみられ、キャンペーンを制限する動きも見られます。

欧米のようにまた感染が拡大したときに、規制がかからないか、不安要素も少なくありません。

実際、欧州では足元で1日の新規感染者数が15万人を超え、一部に経済活動を再び制限する動きが見られるようになりました。春の第1波のピークでも1日4万人程度だったので、これをはるかに上回る感染拡大で、各国とも対応を迫られています。

米国でも感染者数がまた7万人に迫り、10州で過去最多を更新しました。一部では劇場や学校の閉鎖期間が延長されるなど、制約が強まっています。

日本でも、足元で感染者数が下げ止まりから、また増加の気配を見せています。これからインフルエンザの感染期に入る中で、医療機関は危機感を強めています。

政府が経済支援を続けられるかどうか、予算の使いきりよりも、感染者数の増加で医療機関の体制が追い込まれたときに、支援策の再検討がなされる可能性があります。

企業にしてみれば、いつまでも政府支援を前提に営業を続けられるか不透明です。ウィズコロナと言っている間、政府が支援を続けてくれる保証もありません。これも事業継続の判断を揺るがせます。

WHOは「特効薬」の効果を否定

もう1つ判断を曇らせる要因になっているのが、特効薬のないことです。

インフルエンザのように、ワクチンや特効薬があれば、さほど恐れずに通常生活が営めるのですが、新型コロナについては、まだそのいずれもめどが立ちません。

先般はWHO(世界保健機関)が、米国のレムデシビルなど4つの薬について、死亡率を下げたり、退院を早めたりする効果は見られなかったとの治験結果を公表しました。トランプ大統領が投与され、日本でも承認された薬が、実は効果がないということになると、やはり高齢者を中心に不安が残ります。

ワクチンの開発も遅れが報告されています。抗体の有効期間が短く、2度目の感染例が各地で報じられると、ワクチンの効果にも不安が広がります。

それでも抗体があれば、それなりの効果はあるとの意見もありますが、その一方で副作用もあれば考え物です。

特効薬ができるまでは自分で感染防止に努めなればならず、感染しているかもしれない無症状の若い人から感染するリスクを考えると、高齢者や基礎疾患を持つ人の行動は制約されます。電車やスーパーなどでの「密」の場面が増え、マスクをしない人が増えれば、行動を制約される人も増えます。

その影響を受ける業界には負担となります。

Next: 生活は元に戻らない? 耐えるか、大転換か。決断の遅れが致命傷に



生活は元に戻らない?

日本の伝統芸能、伝統産業の中には、過去何百年もの間に戦争や大震災、スペイン風邪など多くの試練を乗り越え、生き残り、栄華を誇るものも少なくありません。スペイン風邪でも3年待てば収まるとの見方もあります。

この時間に耐えられる企業・業界は、ある程度の政策支援の中で事業継続の判断もありうると思います。

しかし、スペイン風邪でも、戦争を維持することができないほど世の中を変える力がありました。また日本では、まだ集団抗体(免疫)の取得が進んでいません。

そんな中であと何年もじっと巣籠生活を続けられないと、感染リスクの小さい(つまり「密」のない)地方に移住を考える人々が出始めました。

企業も、ファミリー・レストランがテイクアウト専門店舗に切り替えたり、宅配強化に出るところも見られます。

コンサートホールでは換気が重要になりますが、スパコンによる飛沫の流れを分析し、音響に影響しない換気法に期待がかかります。

客の戻りが鈍い鉄道も、密を回避するために時間帯別定期を販売したり、人件費抑制のために終電を早めたり、ピーク時対応要員を減らしたりしています。

しかし、そうした対応が難しいレジャー関連・イベント会社・旅行代理店は、より根本的な変革を求められます。

アビガンなど、特効薬が早期に承認され、少しでも早く元の生活に戻れることを期待しますが、それがダメな場合に、年単位で待つ体力勝負をするのか、コロナ共生型の生活・商売に切り替えるのか、難しい選択の時期を迎えています。

有料メルマガ好評配信中! 初月無料です

【関連】居酒屋の倒産ラッシュ開始。「忘年会消滅」でも生き残るのは◯◯な店だけ=栫井駿介

【関連】ブラック企業が社員を退職に追い込む3つの方法。コロナ下のリストラ手口とは?=新田龍

<初月無料購読ですぐ読める! 10月配信済みバックナンバー>

※2020年10月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2020年10月配信分
  • ゼロ金利長期化は無限のバブル醸成(10/23)
  • アフターコロナの見極めが難しい(10/21)
  • 中国の「内憂外患」(10/19)
  • 大統領選挙が米国を分断(10/16)
  • 菅政権の限界(10/14)
  • トランプが実証したマスクの効果(10/12)
  • エネルギー革命が静かに進行(10/9)
  • コロナ禍からの回復、3つの特色(10/7)
  • 鬼の居ぬ間の地政学リスク(10/5)
  • 新型コロナで事実上のMMT(10/2)

いますぐ初月無料購読!


※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年10月23日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2020年9月配信分
  • 法廷闘争を目論むトランプ陣営(9/30)
  • 密かにドル安策をとり始めたトランプ政権(9/28)
  • 米の中東和平がかえって緊張高める(9/25)
  • 日銀の物価安定目標は景気の足かせ(9/23)
  • 勢いを失ったトランプの選挙戦(9/18)
  • 広がるW字型景気リスク(9/16)
  • アベノミクス継承政権買いの限界(9/14)
  • 7月の家計消費息切れは何を意味するのか(9/11)
  • 世界貿易は6月底入れだが(9/9)
  • 法人企業統計にみるコロナの明暗(9/7)
  • 中国習近平政権に異変か(9/4)
  • 「アベノミクス」は何だったのか(9/2)

2020年9月のバックナンバーを購入する

2020年7月配信分
  • 失った時間は永久に取り戻せない(7/31)
  • ワクチン開発の政治化リスク(7/29)
  • フラット化の中でドル高が修正(7/27)
  • 「骨太」の内需拡大策は付け焼刃(7/22)
  • 米国のW字型回復を懸念するFRB(7/20)
  • 劣勢のトランプ大統領に「ウルトラC」はあるか(7/17)
  • ウィズコロナで注目される健康ビジネス(7/15)
  • コロナ対策で使った11兆ドルの後始末(7/13)
  • 回復の力をそぐ2メートルの壁(7/10)
  • 試される人間の知恵(7/8)
  • 計算違いした香港中国化の代償(7/6)
  • 政治リスクが高まる日米株式市場(7/3)
  • 規制と自由、コロナ共生下の経済成果は(7/1)

2020年7月のバックナンバーを購入する

2020年6月配信分
  • 世界貿易にもコロナ・ショック(6/29)
  • 転倒した憲法改正解散(6/26)
  • 市場の期待と当局の不安がぶつかる米国経済(6/24)
  • 狂った朝鮮半島統一シナリオ(6/22)
  • 見えてきたコロナ危機の深刻度(6/19)
  • 崖っぷちの習近平政権(6/17)
  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
  • 長期金利上昇を意識し始めた主要中銀(6/12)
  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

2020年6月のバックナンバーを購入する

2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
  • コロナの変革エネルギーは甚大(5/13)
  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
  • 「緊急事態宣言」延長で経済、市場は?(5/8)
  • 敵を知り己を知らば百戦危うからず(5/1)

2020年5月のバックナンバーを購入する

2020年4月配信分
  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
  • コロナ恐慌からのV字回復が期待しにくい3つの理由(4/8)
  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

2020年4月のバックナンバーを購入する

2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
  • 新型コロナウイルスと世界大戦(3/25)
  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

2020年3月のバックナンバーを購入する

2020年2月配信分
  • 世界貿易は異例の2年連続マイナス懸念(2/28)
  • 政府対応の失敗で「安全通貨」の地位を失った円(2/26)
  • 信用を失った政府の「月例経済報告」(2/21)
  • 上昇続く金価格が示唆する世界の不安(2/19)
  • IMFに指導を受けた日銀(2/17)
  • 中国のGDP1ポイント下落のインパクト(2/14)
  • 習近平主席の危険な賭け(2/12)
  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

2020年2月のバックナンバーを購入する

【関連】菅政権お前もか。「消費税アップは日本を壊し税収を減らす」不都合な事実=矢口新

【関連】日本の農業をアメリカに売った政府の罪。アグリビジネスが農家の生活と地球を壊す=田中優

【関連】日本人の8割が加入する生命保険はムダだらけ。対策すべきは不慮の事故より長生きリスク=俣野成敏

【関連】「彼氏にしたい職業」上位はぜんぶ地雷、玉の輿に乗りたいなら○○な男を選べ=午堂登紀雄

image by:StreetVJ / Shutterstock.com

マンさんの経済あらかると』(2020年10月23日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

マンさんの経済あらかると

[月額880円(税込) 毎週月・水・金曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。