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菅政権が招く地獄の寝正月。経済優先・国民任せの感染対策が行き着く先は=斎藤満

政府は「両立」と言いながら、政策は経済優先で、感染防止は個人・企業の努力に委ねられてきました。コロナ第3波が襲来している今、政策の軸足を感染防止に傾ける必要があります。感染防止に軸足を移すには、個人や企業の行動を制限することになり、その経済的不利益をカバーしなければなりません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年11月20日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

コロナ感染被害のピークはこれから

19日には東京都の感染者数が534人となり、都はコロナ警戒を最高レベルに引き上げました。

WHO(世界保健機関)の事務局長、渋谷キングス・カレッジ教授は、日本での感染被害のピークはこれからやってくると警告しています。医療専門家チームによると、東京都の1日の感染者数はこのペースだと4週間後には1,160人になる計算と言います。

欧州ではすでにロックダウンを実施しているところもあり、フランスでは感染者数が減り始めたと言います。米国では1日の感染者数が15万人を超え、35以上の州で外出禁止令(ニューメキシコ)、店内飲食禁止、映画館、スポーツジムの閉鎖など、規制を一段と強化しています。

日本ではまだ政府が「Go To」キャンペーンを展開し、感染防止よりも経済重視の姿勢を続けています(※編注:原稿執筆時点11月20日)。

多くの都道府県で感染者が最高を更新する事態となり、このまま年末年始を迎えると、そのころには今の倍以上の感染者数となり、医療体制が危機に陥ります。コロナ感染者の受け入れのために、一般患者の受け入れができなくなり、無用な犠牲を余儀なくするリスクが高まっています。

政府に「最大限の危機感」はあるか?

政府は最大限の危機感をもって望むと言いながら、ここまで感染拡大を許したために、日本では経済的にも社会的にも大事な時期の年末年始に、感染のピークを迎える懸念も強まっています。

その時期に緊急事態宣言、ロックダウン(都市封鎖)で人が動けなくなれば、政治的にもコストが甚大となります。

その前に、何としても感染を抑制し、「平和な年末年始」を迎えられるように、すぐにでも動く必要があります。

Next: ワクチンまでの時間稼ぎが必要。菅政権がやるべきは?



ワクチンまでの時間稼ぎが必要

米国からは先々週にファイザー社から、そして先週はモデルナ社から、新型コロナ用のワクチンの有効性が90%以上確認されたと報告され、市場には期待が広がりました。

しかし、FDA(米国食品医薬品局)の認定会議は12月8日ごろと言われ、認定がなされてもワクチン投与はクリスマスに間に合うかどうかと言います。

そして年内の供給量は2,000万(モデルナ)から5,000万(ファイザー)に留まります。

しかも、複数の副作用がそれぞれ1割近い被験者から報告され、ワクチンの効果がどれくらいの期間有効なのかもまだわかりません。つまり、手放しで楽観するわけにはいかないのです。

来年供給が増え、日本にも回ってくるまでの間、感染膨張で医療崩壊を引き起こすような事態を回避する必要があります。

それまでは何としても感染を抑制し、時間稼ぎをしなくてはなりません。

「GoTo」見直しは必須か

少なくとも今の状態が続くと、感染者数が4週間で倍以上になるというので、年末年始のロックダウンを回避するためには、この状況を早急に変えなければなりません(編注:原稿執筆時点11月20日時点。菅政権は21日、GoToトラベルキャンペーンの運用を一部見直すと発表しました)。

少なくとも、「キャンペーン」で人を動かすよう誘導することは考え直す余地があります。

感染しても重症化しにくいと言われる若者が中心にキャンペーンを利用し、ウイルスを家庭や職場に持ち込み、家庭内感染、職場感染が増えている事実は無視できません。

観光関連企業が苦戦しているのは事実ですが、このまま感染が膨張すると、政府が旗振りをしても、個人や企業が自ら規制、自粛に出ざるを得なくなります。

すでに高齢者はトラベルもイーツも消極的で、一部の会社は飲み会中止を打ち出し、自己防衛に出ています。

Next: 経済と感染防止のバランス変更の時期。早急に予算措置を



経済と感染防止のバランス変更の時期

感染拡大がここまで広がってくると、政府の軸足を見直す必要があります。

観光関連を中心とした経済活発化のキャンペーンも、本来はアフター・コロナの対策のはずでした。ところが、これと言った感染防止策をとらずに、勇み足でキャンペーンを先行させたために、感染の再拡大をもたらしました。

このままではキャンペーン自体の効果が限られてしまいます。

こうした限界を考えれば、政府の基本方針「経済と感染抑制の両立」の進め方を見直し、経済と感染防止のバランスを修正する必要があります。

ここまで政府は「両立」と言いながら、政策は経済活性化が優先され、感染防止は個人・企業の努力に委ねられてきました。

その限界、矛盾が露呈したわけで、年末年始を迎える前に、感染を抑制できるよう、政策の軸足を感染防止に傾ける必要があります。

早急に予算措置を

感染防止に軸足を移すには、個人や企業の行動を制限することになり、その経済的不利益をカバーしなければなりません。

もっとも、経済支援を何年も続けるとなれば、資金的な制約もあって身動きが取れなくなりますが、ワクチンや抗ウイルス薬が使えるまでの間の時間稼ぎでよいのです。

それでも自治体の中では最も資金力のある東京都でさえ、すでに積み立ててきた資金をほぼ使い果たし、今後はオリンピック関連で巨大な資金を要します。ほかの道府県でも、企業に休業要請するにも、その補償金、協力補助金の手当てができず、規制をかけられないというところが多いと言います。

そうであれば、政府が第3次補正予算の編成を急ぎ、このコロナ対策費を早急に手当てする必要があります。地方自治体に代わって政府が補助するか、地方に資金を交付して自治体に使い方を任せても良いのですが、とにかく資金手当てが必要です。

あるいは、政府が用意した10兆円の予備費が残っていれば、これを利用することです。

少なくとも、キャンペーンの延長、拡大用に資金を用意するのではなく、感染防止に協力し、その結果不利益を受ける企業、個人に直接支援金を配布することです。

今後半年間、コロナ台風が過ぎ去るのを待つ間、息を止めて我慢できる程度の資金支援が必要だということです。

Next: バランス修正が急務。多くの国民が「寝正月」を余儀なくされる



多くの国民が「寝正月」を余儀なくされる

このバランス修正を急がないと、年末年始に多くの国民が「寝正月」を余儀なくされるか、病院に入れるかどうか不安な思いで年越しをしなければならなくなります。

そうした事態を回避するためには、一刻の猶予もありません。すぐに感染防止策優先に、政策の軸足を変更することです。

それが遅れると、感染状況によっては年末までにオリンピックのスポンサー契約を続けるかやめるかの判断を迫られる企業は、スポンサーから降りざるを得なくなる可能性があり、IOCのバッハ会長が急遽来日した意味がなくなります。

感染を抑えないと、オリンピックができなくなるか、観客を制限してやらなければならなくなり、これも財政を圧迫し、政権を揺さぶります。

コロナ感染の「第3波」襲来は明らかです。感染防止策がいよいよ待ったなしの状況となりました。対応が遅れるほど、政府への批判が強まり、政権の命取りとなるリスクもあります。

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  • 政府に求められる具体的な感染予防策(11/20)
  • コロナの株バブルにまだ拡大余地(11/18)
  • トランプの法廷闘争戦略に逆風(11/16)
  • 菅政権成長戦略は危険と隣り合わせ(11/13)
  • バイデン勝利が菅政権に示唆するもの(11/11)
  • 感染防止は国民任せでよいのか(11/9)
  • トランプの勝利宣言が新たな混乱の種に(11/6)
  • 長期金利が示すコロナ対応策の差(11/4)
  • 追い詰められた日銀に姿勢変化の兆し(11/2)

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2020年10月配信分
  • バイデノミクスも悪くない(10/30)
  • 4年前とは異なる大統領選の決着と市場の反応(10/28)
  • 個人の景況感悪化にどう応えるか(10/26)
  • ゼロ金利長期化は無限のバブル醸成(10/23)
  • アフターコロナの見極めが難しい(10/21)
  • 中国の「内憂外患」(10/19)
  • 大統領選挙が米国を分断(10/16)
  • 菅政権の限界(10/14)
  • トランプが実証したマスクの効果(10/12)
  • エネルギー革命が静かに進行(10/9)
  • コロナ禍からの回復、3つの特色(10/7)
  • 鬼の居ぬ間の地政学リスク(10/5)
  • 新型コロナで事実上のMMT(10/2)

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2020年9月配信分
  • 法廷闘争を目論むトランプ陣営(9/30)
  • 密かにドル安策をとり始めたトランプ政権(9/28)
  • 米の中東和平がかえって緊張高める(9/25)
  • 日銀の物価安定目標は景気の足かせ(9/23)
  • 勢いを失ったトランプの選挙戦(9/18)
  • 広がるW字型景気リスク(9/16)
  • アベノミクス継承政権買いの限界(9/14)
  • 7月の家計消費息切れは何を意味するのか(9/11)
  • 世界貿易は6月底入れだが(9/9)
  • 法人企業統計にみるコロナの明暗(9/7)
  • 中国習近平政権に異変か(9/4)
  • 「アベノミクス」は何だったのか(9/2)

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2020年7月配信分
  • 失った時間は永久に取り戻せない(7/31)
  • ワクチン開発の政治化リスク(7/29)
  • フラット化の中でドル高が修正(7/27)
  • 「骨太」の内需拡大策は付け焼刃(7/22)
  • 米国のW字型回復を懸念するFRB(7/20)
  • 劣勢のトランプ大統領に「ウルトラC」はあるか(7/17)
  • ウィズコロナで注目される健康ビジネス(7/15)
  • コロナ対策で使った11兆ドルの後始末(7/13)
  • 回復の力をそぐ2メートルの壁(7/10)
  • 試される人間の知恵(7/8)
  • 計算違いした香港中国化の代償(7/6)
  • 政治リスクが高まる日米株式市場(7/3)
  • 規制と自由、コロナ共生下の経済成果は(7/1)

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2020年6月配信分
  • 世界貿易にもコロナ・ショック(6/29)
  • 転倒した憲法改正解散(6/26)
  • 市場の期待と当局の不安がぶつかる米国経済(6/24)
  • 狂った朝鮮半島統一シナリオ(6/22)
  • 見えてきたコロナ危機の深刻度(6/19)
  • 崖っぷちの習近平政権(6/17)
  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
  • 長期金利上昇を意識し始めた主要中銀(6/12)
  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

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2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
  • コロナの変革エネルギーは甚大(5/13)
  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
  • 「緊急事態宣言」延長で経済、市場は?(5/8)
  • 敵を知り己を知らば百戦危うからず(5/1)

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2020年4月配信分
  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
  • コロナ恐慌からのV字回復が期待しにくい3つの理由(4/8)
  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

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2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
  • 新型コロナウイルスと世界大戦(3/25)
  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

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2020年2月配信分
  • 世界貿易は異例の2年連続マイナス懸念(2/28)
  • 政府対応の失敗で「安全通貨」の地位を失った円(2/26)
  • 信用を失った政府の「月例経済報告」(2/21)
  • 上昇続く金価格が示唆する世界の不安(2/19)
  • IMFに指導を受けた日銀(2/17)
  • 中国のGDP1ポイント下落のインパクト(2/14)
  • 習近平主席の危険な賭け(2/12)
  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

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マンさんの経済あらかると』(2020年11月20日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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