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菅政権「背骨」なき外交で日本窮地、中国も米国も敵に回る=斎藤満

次々と首脳会談を消化して外交面をアピールしている菅総理ですが、次第に不安が指摘されるようになりました。中国包囲と中国接近が同居し、動きに「背骨」が見えません。尖閣諸島、拉致問題ほか問題は山積みです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年11月20日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

中国包囲と中国接近の同居

次々と首脳会談を消化し、外交面でもアピールしようとしている菅総理ですが、菅外交に不安が指摘されるようになりました。

総理就任後最初に開催した日米電話会談並びに、11月8日の菅総理自身のツイッターでバイデン氏に祝意を伝える中で「自由で開かれたインド太平洋」構想について、「自由で開かれた」の表現が欠落し、「インド太平洋地域と世界の平和、自由、繁栄を確保するため」との表現を使い、物議をかもしました。

この「自由で開かれたインド太平洋」という言葉が中国の海外進出をけん制し、中国包囲網を形成する意図で使われていたのに、これが落ちたのは単なる言い間違いなのか、意図があったのか、米国でも疑問の声が上がったと言います。

そもそも、日本の中国に対する姿勢があいまいです。

安倍・トランプ両氏のもとで構想された「自由で開かれたインド太平洋構想」は明らかに中国包囲網戦略で、菅政権はこれを引き継いだ形になっています。対外的にもこれを示しました。

ところが、その一方で、中国が主導する「RCEP」(東アジア地域包括的経済連携)に今月15日の首脳会合で合意し、署名式を行いました。

つまり、一方で中国包囲網で中国を抑え込もうとしながら、一方では中国と経済連携を強める姿勢も示しています。

これに対して、中国と対立し、中国包囲網の一環として重要な役割を期待されるインドは、当然、このRCEPには加わりません。

ここにインドと日本の違いが明確になりました。逆に日本はその姿勢をどう説明するのか、問われることになります。

分断米国との付き合い方

この中国戦略の曖昧さの一因になっているのが米国の分断ともいえます。

中国包囲網を進めてきたトランプ大統領と、親中派と目されてきたバイデン氏のどちらが米国のリーダーなのか、未だにはっきりしません。トランプ大統領はまだ敗北を認めず、法廷闘争で勝つ意向を示しています。

それでも菅総理はいち早くバイデン氏に当選祝いの電話をしています。形の上ではバイデン新政権を前提としていることになります。4年前、安倍政権はヒラリー・クリントン氏の勝利を確信し、クリントン陣営と深くかかわる一方でトランプ氏を無視していました。それがまさかの結果となり、慌てた安倍総理が手のひらを返したように、真っ先にトランプ大統領を訪問し、以後盲従する羽目となました。

今回、バイデン勝利の結果が覆されるのかどうかは不透明ですが、米国の分断がより強まり、2つの米国を相手に対応せざるを得ない難しさがあります。もちろん、バイデン政権となった場合でも、副大統領時代の「親中派」通りには行かない事情もあります。米国世論は、右も左も反中国色が強まり、中国の覇権を警戒する動きが強まっています。

現に、この夏には米国国際戦略研究所が日本の中国びいきを警戒し、その首謀者を名指しで批判する報告書を出しています。日本としてもこれを無視できない状況にあり、安倍政権時の「親中派」は立場が弱くなっています。従って、旧来のバイデン氏とは異なる前提で考える必要がありますが、米国自体の評価が難しくなっている分、菅外交の大きなハンデになっています。

Next: どこまで安倍政権の継承?日本の基本戦略が見えない



安倍政権の継承、どこまで?

菅政権は安倍政権を継承すると言っていますが、もともとは安倍総理が石破元幹事長だけには政権を渡したくないと言い、岸田氏も特別給付金のとりまとめでリーダーシップが取れず、菅氏にお鉢が回ってきた面があります。安倍政権を裏で支えてきたとはいえ、安倍前総理自身が「桜を見る会」などで身辺を捜査され、影響力が落ちています。

しかもこの件に関する報道各社の報道ぶりから見ると、菅政権はかつてのような強い力で情報、報道管制をとっていないように見えます。菅政権は安倍前総理からの自立を企てているようにも見えます。

そして外交面では安倍総理が親しくしてきた米国のトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領ともに、立場が弱くなっています。それだけ菅総理の自由度は高まっていると言えますが、逆に言えば、安倍総理が使ってきたトランプ、プーチン・ルートがそのままでは使えないことにもなります。

日本の基本戦略が見えない

ところが、自由度が高まったとはいえ、肝心な菅外交の基本姿勢、戦略が見えてきません。

日本経済については遅れているデジタル化を進め、行革を推進し、2050年までに脱炭素を打ち出しましたが、日本経済をどういう方向に持っていきたいのか、全体像が見えません。

安倍総理がこだわった憲法改正にもあまり意欲が見えません。

外交面では身近な問題として、中国、北朝鮮への姿勢がはっきりしません。中国は米国が大統領選以来混乱しているのをよいことに、東シナ海の尖閣周辺や南シナ海で活動を活発化しています。尖閣では日本漁船を排除し、領海侵犯を繰り返しています。また日本海の大和堆は、日本のEEZ内ですが、北朝鮮の漁船のみならず、最近では中国漁船が大挙してここで密漁しています。

ところが、24日に来日した中国の王毅外相に対して日本は、尖閣周辺での中国公船の活動は極めて深刻と伝えたのに対し、王毅外相はビジネス人の往来を11月中に認めさせたうえで、テレビ報道とは別に尖閣諸島(中国側は魚釣島)をめぐる中国の権利を守ると述べ、日本の要請には耳を傾けなかったことがわかりました。

米国に頼ってきた対中国外交も、米国が動けないと見ると、中国は好き放題動き、そのうち「実効支配」を言い出しかねません。中国やロシアは日本漁船が領海侵犯の疑いがあるというだけで拿捕してきますが、日本は警告を発するだけで、甘く見られています。またもし米国が動いた場合に、日本は自衛隊をどう動かすのか、基本姿勢を決めておかねばなりません。

Next: 一刻の猶予もない北朝鮮拉致問題。菅政権にビジョンはあるか?



外交を担う戦略チームが必要

北朝鮮の拉致問題も、被害者はもとより、その家族の高齢化を考えると、一刻の猶予もありません。トランプ氏と金委員長の信頼関係に頼れる状況ではなくなりつつあります。菅政権が北朝鮮とどういうパイプで外交を進めるのか、中国に頼るのか、反日を強める韓国の文政権と連携するのか、その深まった溝をどう埋めるのか。その場合、徴用工問題、慰安婦問題はどう片付けるのか、など身近なところだけでも問題山積です。

米国抜きのTPPに中国が参画意欲を見せています。米国もバイデン政権となればTPPに参画するのか、その場合、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)との関係、位置づけをどうするのか、日本はそこでリーダーシップとれるのか。

そして、これらの外交戦略は誰がブレーンとなって進めるのか。右左にとらわれず、日本のために知恵を働かせる戦略チームが必要です。

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2020年11月配信分
  • 菅政権の外交に「背骨」が見えない(11/27)
  • コロナ禍で求められる政策対応(11/25)
  • 政府に求められる具体的な感染予防策(11/20)
  • コロナの株バブルにまだ拡大余地(11/18)
  • トランプの法廷闘争戦略に逆風(11/16)
  • 菅政権成長戦略は危険と隣り合わせ(11/13)
  • バイデン勝利が菅政権に示唆するもの(11/11)
  • 感染防止は国民任せでよいのか(11/9)
  • トランプの勝利宣言が新たな混乱の種に(11/6)
  • 長期金利が示すコロナ対応策の差(11/4)
  • 追い詰められた日銀に姿勢変化の兆し(11/2)

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2020年10月配信分
  • バイデノミクスも悪くない(10/30)
  • 4年前とは異なる大統領選の決着と市場の反応(10/28)
  • 個人の景況感悪化にどう応えるか(10/26)
  • ゼロ金利長期化は無限のバブル醸成(10/23)
  • アフターコロナの見極めが難しい(10/21)
  • 中国の「内憂外患」(10/19)
  • 大統領選挙が米国を分断(10/16)
  • 菅政権の限界(10/14)
  • トランプが実証したマスクの効果(10/12)
  • エネルギー革命が静かに進行(10/9)
  • コロナ禍からの回復、3つの特色(10/7)
  • 鬼の居ぬ間の地政学リスク(10/5)
  • 新型コロナで事実上のMMT(10/2)

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2020年9月配信分
  • 法廷闘争を目論むトランプ陣営(9/30)
  • 密かにドル安策をとり始めたトランプ政権(9/28)
  • 米の中東和平がかえって緊張高める(9/25)
  • 日銀の物価安定目標は景気の足かせ(9/23)
  • 勢いを失ったトランプの選挙戦(9/18)
  • 広がるW字型景気リスク(9/16)
  • アベノミクス継承政権買いの限界(9/14)
  • 7月の家計消費息切れは何を意味するのか(9/11)
  • 世界貿易は6月底入れだが(9/9)
  • 法人企業統計にみるコロナの明暗(9/7)
  • 中国習近平政権に異変か(9/4)
  • 「アベノミクス」は何だったのか(9/2)

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2020年7月配信分
  • 失った時間は永久に取り戻せない(7/31)
  • ワクチン開発の政治化リスク(7/29)
  • フラット化の中でドル高が修正(7/27)
  • 「骨太」の内需拡大策は付け焼刃(7/22)
  • 米国のW字型回復を懸念するFRB(7/20)
  • 劣勢のトランプ大統領に「ウルトラC」はあるか(7/17)
  • ウィズコロナで注目される健康ビジネス(7/15)
  • コロナ対策で使った11兆ドルの後始末(7/13)
  • 回復の力をそぐ2メートルの壁(7/10)
  • 試される人間の知恵(7/8)
  • 計算違いした香港中国化の代償(7/6)
  • 政治リスクが高まる日米株式市場(7/3)
  • 規制と自由、コロナ共生下の経済成果は(7/1)

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2020年6月配信分
  • 世界貿易にもコロナ・ショック(6/29)
  • 転倒した憲法改正解散(6/26)
  • 市場の期待と当局の不安がぶつかる米国経済(6/24)
  • 狂った朝鮮半島統一シナリオ(6/22)
  • 見えてきたコロナ危機の深刻度(6/19)
  • 崖っぷちの習近平政権(6/17)
  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
  • 長期金利上昇を意識し始めた主要中銀(6/12)
  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

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2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
  • コロナの変革エネルギーは甚大(5/13)
  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
  • 「緊急事態宣言」延長で経済、市場は?(5/8)
  • 敵を知り己を知らば百戦危うからず(5/1)

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2020年4月配信分
  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
  • コロナ恐慌からのV字回復が期待しにくい3つの理由(4/8)
  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

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2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
  • 新型コロナウイルスと世界大戦(3/25)
  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

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2020年2月配信分
  • 世界貿易は異例の2年連続マイナス懸念(2/28)
  • 政府対応の失敗で「安全通貨」の地位を失った円(2/26)
  • 信用を失った政府の「月例経済報告」(2/21)
  • 上昇続く金価格が示唆する世界の不安(2/19)
  • IMFに指導を受けた日銀(2/17)
  • 中国のGDP1ポイント下落のインパクト(2/14)
  • 習近平主席の危険な賭け(2/12)
  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

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マンさんの経済あらかると』(2020年11月20日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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