財務省が1日に公表した7-9月期の法人企業統計によると、企業の売り上げ、経常利益は、4-6月期に比べてそれぞれ3.8%、33.7%増と大きく回復。ところが、設備投資は前期比1.2%減となり、従業員は前年同期より98万人も減って給与は4.8%減、ボーナスは8.0%も減少しました。菅政権は「スガノミクス」でデジタル化の推進、行革、脱炭素社会実現を謳っていますが、先にやるべきことがあるでしょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年12月4日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
アベノミクスを捨てた菅政権
アベノミクスを継承すると言ってスタートした菅政権ですが、実態はこれとかけ離れた「スガノミクス」を展開しています。
デジタル化の推進、行革、脱炭素社会実現を謳っています。しかし、今の日本経済はそれ以前に、新型コロナの不安、不透明感で企業も個人も動けなくなっています。
2日放送の羽鳥慎一モーニングショーで、視聴者から「政府は今のような対応対策でコロナ禍がいつごろ収まると考えているのか」と問われました。これに対して政治ジャーナリストの田崎史郎氏は「そのメドというのが今のところ政府にもない。その場その場で対応しているとしか言いようがない」と答えていました。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」ではすみません。
回復に乗れない企業
財務省が1日に公表した7-9月期の「法人企業統計」によると、企業の売り上げ、経常利益は、4-6月期に比べてそれぞれ3.8%、33.7%増と、落ち込みが大きかった分、企業業績の回復も大きくなりました。
ところが、設備投資は前期比1.2%減と、前期に続いて減少しました。また人件費の抑制も続き、従業員は前年同期より98万人も減り、給与は4.8%、ボーナスは8.0%も減少しました。
企業にしてみれば輸出や生産は落ち込んだ分の多くを回復したのですが、この先いつコロナ禍が収まるのか読めず、設備投資や雇用には嫌でも慎重にならざるを得ません。
企業は設備投資・雇用の拡大に踏み切れない
政府自身がいつ収まるのかわからないと言っているので、企業としても対応のしようがありません。
景気回復の通常パターンは、在庫調整が終わり、生産が回復し、これが設備投資、雇用の増加をもたらし、それがさらに所得、消費の増加にというような循環が働きます。
しかし、今回はコロナの不安によって、生産の回復から先、つまり設備投資、雇用の拡大を躊躇させています。
それだけ景気回復の波及が弱くなり、持続性が乏しくなります。
Next: 旗振れど踊れない高齢者。GoTo「使わない」が8割
旗振れど踊れない高齢者
消費者についても同様です。冒頭に紹介したテレビ視聴者の質問にもあったように、多くの人がいつまでこの我慢生活を続けなければならないのか、と思っています。
政府は「GoTo」トラベルはすでに延べ4,000万人以上が利用している、と胸を張りますが、ネットの調査では「GoTo」キャンペーンを使わない、という人が8割に上りました。
この2つの数字が意味するところは、一部の感染リスクを恐れない人々が複数回キャンペーンを利用して旅行したり飲食をしたりして「延べ人数」を増やしている一方で、ほとんどの人は感染を恐れてこのキャンペーンを使っていない、ということです。
特に高齢者は安く旅行するよりコロナ感染で命を落とすことを恐れています。
その点、菅総理と小池知事の会談で、65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人は、しばらくの間「GoTo」キャンペーンの利用を自粛するように求めましたが、これは的外れです。
もともと重症化リスクが高いと言われている高齢者や基礎疾患を抱える人は、キャンペーンに乗っていません。
言い換えれば、彼らがキャンペーンの利用を自粛しても、それはこれまでと変わらず、感染抑制にも重症化抑制にもほとんど効果がない、ということです。
もし政府がその効果に期待しているとすれば、年末年始の大事な時期に感染が一段と拡大して、医療機関が混乱し、緊急事態宣言の発動を余儀なくされる懸念もあります。
不安の元を断つ
景気がコロナショックの最悪期からは回復したものの、企業も個人も先が読めない不安のために身動きが取れません。政府の雇用調整助成金も休業補償金も、一時的な痛み止めに過ぎません。最後はこの不安のもとになっているコロナ禍の収束を図るしかありません。
実際、台湾のようにこの200日以上も新規の感染者がゼロという状況を実現しているところがあり、中国本土も政府発表が正しければほぼ感染を克服し、経済の正常化が進んでいます。
感染を抑え込むところがある一方で、日本や欧米のように、第2波、第3波に右往左往しているところもあります。つまり、後者は対応を間違えた結果ということになります。
日本や欧米のように、ここまで感染が拡大してしまうと、台湾や中国流の防止策をとっても経済社会両面から負担がより大きくなります。
現に欧州では負担を覚悟のうえでロックダウンを取り入れているところもあります。不安のもとをただすという点で、1つの対応は感染を封じ込めることですが、日本は欧米と比べても対応が後手に回っています。
もう1つが、新型コロナという未知のウイルス故の不安に対して、ウイルスを研究し、そのワクチンや抗ウイルス薬を開発することで、国民の不安を和らげることができます。欧米でワクチン開発への期待が高まり、これが株高をもたらす面も見られるようになりました。その点、日本はワクチンの購入を欧米のメーカーに取り付けるのがやっとで、それもいつになるのか、安全性も不確かです。
日本にはインフルエンザ・ウイルスを発見し、抗ウイルス薬を開発してきた実績があります。アビガンもその1つですが、日本で利用が制限されている一方で、中国ではその後発薬を大量生産して輸出しています。
日本は医薬分野でこの不安軽減の道がありそうですが、政府、厚労省の対応に躊躇が見られ進んでいません。
Next: スガノミクスは後回しにすべき
スガノミクスはその後で良い
今の日本に求められる優先的な政策はコロナ感染を抑制し、不安軽減で経済を正常化することです。
残念ながら政府の対応はここまでその場しのぎのもので、収束のめどが立ちません。それならせめて財政面から保証して不安を軽減する道もありますが、緊急補正予算の編成などこれへの決断もできていません。
このコロナ対応ができない中で、デジタル化や行革、脱炭素社会の推進と言っても動けません。それこそアフターコロナで考えたらよいと思います。
スガノミクスを打ち出したい気持ちはわかりますが、政策には優先順位というものがあります。政府は100年に1度のパンデミック危機にあるとの認識をもつことがまず必要です。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年12月4日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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