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神社本庁「コロナ禍の初詣」強行のウラ、金と権力の罰当たりな事実=原彰宏

コロナ禍での初詣は「分散参拝」や「郵送・オンラインの活用」など異例づくしになりそうです。その形式を決めているのが、全国8万社を包括する組織「神社本庁」。自民党の票田でもあり、政治に大きな影響力を持っていると言われています。近年、こんぴらさん(金刀比羅宮)を筆頭に傘下の神社の離脱が増加。このまま有力神社の離脱が相次げば、自民党の改憲を後押しするパワーも弱まってしまうことが懸念されています。今回は、この神社本庁とは何か、また離脱が増えている原因を紐解きながら、カネと人事と政治が絡んだ組織の闇に迫ります。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

【関連】若者こそ知るべき日本会議と菅内閣の関係。彼らは自分の敵か味方か?=原彰宏

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年11月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

目次

  1. 新しい参拝様式
  2. 参拝ルールを決める宗教法人「神社本庁」とは?
  3. 神社本庁の組織
  4. 神社本庁は内務省神祇院(じんぎいん)の流れ
  5. 神社本庁と各神社との関係
  6. 神社本庁の本宗は伊勢神宮
  7. 伊勢神宮の御札(おふだ)をめぐるカネの流れ
  8. 各神社に課せられる厳しいノルマ。すべては式年遷宮のため?
  9. 神社の懐事情
  10. 神社本庁を脱退する神社たち
  11. 離脱要因は「お金と人事」の不透明さ
  12. 神社本庁の強権体質が原因
  13. 神社本庁の人事介入
  14. 百合ケ丘職員宿舎売却における「土地転がし」問題
  15. 政治団体「神道政治連盟」の存在
  16. 自民党が神社本庁を大切にするワケ

新しい参拝様式

コロナ禍での初詣は、例年の様子とは大きく異なります。

「分散参拝」という奇妙なフレーズが登場しています。郵送やオンライン活用という、一見、初詣とはなんの関係もないような言葉も飛び出してきました。

ソーシャルディスタンシングによる人との接触を避ける「三密対策」として、神社本庁は、初詣の感染防止ガイドラインを策定し、傘下の神社に周知させるとのことです。

密集対策としては、以下が挙げられています。
・参拝者が手を清める柄杓の撤去
・賽銭箱の複数設置
・参拝経路の一方通行化

この他、初詣期間を12月から2月節分までとすることで、参拝客が集中しないようにする提案しています。

また非接触の奨励として、以下を取り入れることを勧めています。
・事前に祈祷した御札の郵送
・オンラインで御札やお守りを授与
・キャッシュレス賽銭受付け

これら、コロナ禍での新しい参拝の形式を提案しているのは、全国の神社を管理・指導する「神社本庁」というところです。

この神社本庁に関して、「こんぴらさん」の愛称で親しまれている四国の金刀比羅宮が、神社本庁を離脱するという報道が大きな話題となりました。

実は、日本でも有数の「ビッグネーム」神社の離脱は、金刀比羅宮がはじめてではありません。これまでにいくつもの神社が神社本庁を離脱しています。

何かと政治との絡みも噂される神社本庁ですが、いま一体何が起こっているのでしょうか。

今回は、コロナ禍で追い込まれている国民が、すがる思いで「今年は良い年でありますように」と願う初詣などの神社詣でを通して、この神社本庁について調べてみました。

参拝ルールを決める宗教法人「神社本庁」とは?

神社本庁ホームページには、「伊勢の神宮を本宗と仰ぎ、全国8万社の神社を包括する組織として昭和21年に設立された」とあります。

神社本庁は「庁」とありますが官公庁の意味ではなく、一般の宗教法人です。法律上では、天台宗や浄土真宗本願寺派、天理教などといった諸宗教団体と同列の地位にあります。

神社本庁は神道系の宗教団体では日本最大で、下部組織として都道府県ごとに「神社庁」があり、それぞれの都道府県にある神社を管理・指導するものです。

神社本庁は「包括宗教法人」となっています。それは、神社本庁の傘下にある神社がそれぞれ独自に宗教法人(単位宗教法人)となっているところもあり、それらの上に神社本庁が位置する関係になっている宗教法人だという意味です。

包括宗教法人に対して、傘下の単位宗教法人は「被包括宗教法人」と呼ばれ、法人格を持たない神社は「被総括神社」と呼ばれます。

少数ながら、神社本庁に属していな神社もあります。

神社本庁以外の包括宗教法人(たとえば、京都を中心に80あまりの神社を包括する神社本教など)に属する神社、単位宗教法人だがどの包括宗教法人にも属していない単立宗教法人の神社(靖国神社、日光東照宮など)、宗教法人ではないが宗教団体として活動している神社などがあります。

日本に存在するほとんどの神社が神社本庁の傘下にあると言っても、過言ではありません。

ただ宗教法人として神社本庁をわかりづらい怪しいものにしているのは、その存在の特殊性にあります。

例えば、有名な仏教の浄土真宗本願寺派と呼ばれる包括宗教法人は、京都の西本願寺を本山とし、本山は全国の同派の寺院を末寺として管理しているわけですが、親鸞という絶対的な開祖を掲げた総本山という立派なお寺が存在し、一般の人々が大勢訪れる場所が存在します。

高野山真言宗は、高野山の金剛峯寺を正式な所在地とする包括宗教法人ですが、金剛峯寺は本山として末寺である全国の同宗の寺院を束ねている、つまり金剛峯寺という実態があり、末寺と同じように一般の人々の参拝を受け入れています。

ところが神社本庁は、同じ宗教法人でありながら、明治神宮北門の外にある建物があるだけで、神社という実態が存在するわけではありません。いわば単なる事務所であって、神社本庁と全国の神社との関係は、総本社・総本宮とその末社という性格のものではないのです。

これが宗教法人と言われても“怪しさ満点”となっているのではないでしょうかね。

神社本庁の組織

組織はピラミッド構造になっていて、一番上が「神社本庁」、その下に、各都道府県に「神社庁」が置かれています。その神社庁が直接各都道府県にある神社を管理・指導しています。

・神社本庁
 └・都道府県ごとの神社庁 
    └・各神社(被包括神社)

神社本庁のトップは「総長」と呼ばれ、全国の神職・総代から選出された評議員会となっている議決機関が、総長以下役員を選任することになっています。

現在の総長は石清水八幡宮宮司で京都府神社庁長の田中恆清氏で、田中総長は、日本会議副会長でもあります。

ここで日本会議が登場してきました。話がややこしくなりそうですね。宗教と政治との密接な関係が匂ってきますね。

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政治と言えば選挙、選挙といえば票田……。業界団体や士業の団体、連合会やPTAに至るまで、人が共通の思いで集まるグループは、政党にとって政治家にとっては、どれもとても「“美味しい”票田」になります。

組織は何でもそうですが、実際の活動は、地域に根づいたところが直接行います。末端組織なんて表現がされますよね。神社の場合は「氏子」と呼ばれる信者たちを抱えている各神社(被包括神社)が、最前線に位置します。

日本は農耕民族だからか土地というものを大事にします。土地には神様が居て、その土地の神様がその土地の住民を守っているという考え方を大事にします。

神社は、その土地の神様と住民との架け橋となる存在で、住民が土地の神様に守ってもらうようにお願いする窓口のような存在となっているのです。

それが、住民と神社との絆になっていて、土地の神様を敬うことで、氏子たちは神社に集うのです。それを束ねるのが神社本庁である言うのが、組織としての存在意義があると言えます。

そこが政治的に魅力に映るのでしょうし、物流を起こすうえでも効率的に見えるのですね。

ただ、人々の土地に対する思いも変わってきて、「土地に根付く」という言葉も消えようとしていて、住民と神社との関係も、微妙に変わってきていると思われます。

神様を通じて目に見えない糸で結ばれている絆というものが弱まってきていることに、神社本庁は危惧していると思われ、ことさら日本会議に代表される今の保守を名乗る人たちは懐古主義に走り、古き良き伝統を守ることを強調して、政治政策に理念とか伝統とかの思考を反映させようとしているように思えます。

神社は、土地の神様と通じる大切な場所であり続けなければなりません。人々が神社詣でをする風習を途絶えさせてはいけないのです。

神を信じることを強要するものではないはずで、自然と心で感謝する気持ちが生まれてくるのが大事なのですが、神様は確かに存在して人々を助けてくれるものであり、その象徴は目に見える形で存在しなければならないのです。

それは誰にとって、何のために必要なのか…。謎解きのような表現ですが、その真意は、後ほど明らかになります。

神社本庁は内務省神祇院(じんぎいん)の流れ

神社本庁の主たる事務所は、明治神宮の隣にあり、かつての内務省外局の神祇院の後継的存在となっています。

内務省とは、第二次世界大戦前にあった行政機関で、地方行財政、警察、土木、衛生、国家神道など、国内行政の大半を担う「官庁の中の官庁」「官僚勢力の総本山」と呼ばれた最有力官庁です。

地方のカネ、警察組織、土木行政、宗教を一手に握るもので、すべての権力が集中していると言ってもが、過言ではありません。

今の政治を見る上でも重要なことですが、カネと情報と執行権限力と人心掌握力を握れば何でもできます。

宗教は、いつの時代でも政権と密接な関係にあり、人心掌握には宗教は不可欠であり、だからこそ、政治と宗教は分離しなければならないのです。

神祇院と呼ばれる宗教のトップと警察組織のトップが同じ人だった戦前体制を、GHQは分離させました。

憲法では、政教分離が強調されてはいるのです。

神社本庁と各神社との関係

神社本庁の役割は、各神社(被包括神社)の管理・指導にあります。

各神社は、指導を仰ぐ機会を得る(集合研修・講演参加)ため、神社の経営指導を得る(人事、宮司派遣)ために、神社本庁にお金(会費のようなもの)を納めます。

神社は、氏子と土地の神様を結びつける大事なお役目を果たすために、常に自分自身を研鑽しなければならないということなのでしょう。

この神社本庁と神社との関係は、どこの業界団体にも見られるものです。

たとえば医者と医師会もそうですが、会費を払うことで人材紹介をしてもらい、いざというときの資金融通のお手伝いをしてもらい、知識のブラッシュアップのための研修等を実施してもらう、そのために会費を納めます。ちゃんと情報提供していることを示すために、会員同士の疎通を図っていることをアピールするために、毎月会報を発行します。それはどこの業界団体も同じで、神社本庁にも、ちゃんと会報はあります。

納付金は、各神社(被包括神社)の氏子の数に応じて決められます。数千円から有名神社で数百万円になるようで、会費のようなものです。

この氏子の数は、国勢調査の人口をもとに各神社庁からヒアリングを行って決め、それを基に各都道府県の納付金額が決まります。割り振られた金額から神社庁は、管轄の各神社の規模や事情を加味して負担する額を決定する仕組みとなっています。

初詣の数がかなり多いとか、結婚式を行う人が多いなどの要素も、納付金額を決めるときには考慮されるようです。神社と言っても、社務所もない無人の神社もあれば、初詣に100万人規模が訪れる有名神社もありますからね。

これら以外に「厚意の寄付」というのもあるそうです。

一方、神社本庁にお金を払うことによる各神社(被包括神社)は、以下などの恩恵を受けられます。
・講習・講演の参加
・神道学校への進学
・神社が破産した場合などの援助
・宮司後継者不在の時の人材派遣

特に、小さな神社、後継者に困っている神社は、神社本庁から人材を派遣してくれることはメリットと感じているようです。

神社本庁の本宗は伊勢神宮

神社本庁は、本宗(ほんそう)は「伊勢の神宮」としています。

本宗という言葉はかなり特殊で、三省堂国語辞典には載っていません。仏教で言う本山に似たようなものなのでしょうが、おそらくは組織として傘下の神社を束ねる「錦の御旗」という意味合いが強いのではないでしょうか。

ただ伊勢神宮は、形式上では神社本庁の傘下の神社の1つになります。包括宗教法人「神社本庁」の組織の中に伊勢神宮は存在するかたちになっています。

かつて、神社にはそれぞれ「格」というものがありました。戦前まで近代社格制度というのがあり、全国神社は「官社」「諸社(民社)」「無格社」に分けられていました。それぞれの説明は省略しますが、伊勢神宮だけは「すべての神社の上にあり、社格のない特別な存在」となっていました。戦後、この格というものはなくなり、すべての神社は平等となりましたが、依然、伊勢神宮だけは別扱いとなっています。

神社本庁は、この伊勢神宮を本宗としたのです。

しかし、神職の進退等で、旧官国幣社や一部規模の大きな神社と一般の神社を同じ扱いにするのは不都合があるとして、「役職員進退に関する規程」において特別な扱いをすることと定めています。

その対象となる神社が同規程の別表に記載されていることから、「別表に掲げる神社」(別表神社)と呼ばれ、神社本庁は、この別表神社の神職進退等に介入するようになっています。

ちなみに神職にも派閥があります。

日本で神主になることができる大学は2つで、東京の國學院大學と、三重県の皇學館大学で、大学に行かなくても研修を受けて神主になることができます。

国学院派閥と皇學館派閥が、地域では競っているところもあるようです。採用時に下心が入るとか有利になるとかではないでしょうかね。

ここで、神社本庁の「人事」というキーワードが出てきました。これは後ほど再登場させるとして、ここからは、伊勢神宮の流れから「カネ」についての生々しい話へとつなげていきます。

ここで前出の「問い」をもう一度登場させます。なぜ各地に神社は必要で、人々が神社を詣でる風習はなくしてはいけないのでしょう?

Next: 誰のための組織か?伊勢神宮の御札(おふだ)をめぐるカネの流れ



伊勢神宮の御札(おふだ)をめぐるカネの流れ

神社本庁は本宗を伊勢神宮としました。伊勢神宮と言えば天照大神ですね。

会社や各家庭の神棚に祀られている、神棚中央の部屋に鎮座するのが天照大神です。その神棚には「神宮大麻」と呼ばれる「天照皇大神宮」と書かれた御札を祀ります。

伊勢神宮は社格でも別格で、すべての神社の頂点に立つ別格な存在ですので、神棚を祀る際には、必ず伊勢神宮の「神宮大麻」が鎮座することになります。

部屋が3つある神棚では、必ず中央の部屋は伊勢神宮の御札、向かって右は氏神様、自分が住んでいる場所にある神社の御札、左側には自分が生まれた場所の神社か好きな場所の神社、思い入れがある神社の御札を納めるのが一般的です。

この「神宮大麻」と呼ばれる「天照皇大神宮」と書かれた御札は、伊勢神宮でしか発行することはできません。「神宮大麻」のお値段は、小さいサイズで今年値上げして1,000円、昨年までは800円でした。もちろん消費税はかかりません。「祈祷された御札」ですから。

各神社(被包括神社)が「神宮大麻」を氏子たちに販売し、その初穂料(売り上げ)を、すべて各都道府県の「神社庁」に“上納”します。各都道府県の「神社庁」は伊勢神宮に、そのまま“上納”します。

伊勢神宮は、全国から集った御札の売上金の半分程度を、「本宗交付金」として神社本庁に渡します。

一般的には、各家庭の神棚にある御札は、1年に1回、新年初詣のときに取り替えます。正月三が日には、必ずと言っていいほど、古い御札を近くの神社に納めて新しい御札を購入します。一般的には、神棚を祀っているご家庭や会社の年中行事になっています。御札の購入料には、古い御札を納める料金も含まれていると考えられています。

テレビなどでも映像でよく見る初詣の風景は、お賽銭箱にたくさんのお金が投げ込まれる場面かと思いますが、実は一般の神社にとっての大事な収入源は、お賽銭よりも、祈祷料であり、この「神宮大麻」、御札の売り上げのほうが多いのです。

各神社に課せられる厳しいノルマ。すべては式年遷宮のため?

さて先程のお金の流れですが、神社本庁に入った「本宗交付金」は、今度は都道府県の「神社庁」を経由して「神宮大麻」を販売した各神社(被包括神社)に、数%増額されて「本宗神徳宣揚費」として配分されます。

かなりお金の流れがややこしいですね。

整理しますと、販売金の流れは…
各神社(被包括神社) → 都道府県の神社庁 → 伊勢神宮

交付金の流れは…
伊勢神宮 → (本宗交付金) → 神社本庁 → 都道府県の神社庁 → (本宗神徳宣揚費) → 各神社(被包括神社)

となっています。なぜこんな複雑なお金の流れになっているのでしょうか。

神社が売り上げをそのまま手にすれば、神社は伊勢神宮の「代理店」に該当し、売り上げは手数料収入となって課税対象となります。それを避けるために、上記の流れの通りいったん神社本庁に集め、交付金として神社に交付する形が取られるようになったと、神社本庁の関係者は説明しています。

ちなみに、各神社(被包括神社)には、「神宮大麻」販売に関して「ノルマ」があるそうです。ノルマを課してまで「神宮大麻」を販売する理由として、伊勢神宮の「式年遷宮」という行事が関係しています。

式年遷宮とは、原則として20年ごとに、内宮(皇大神宮)・外宮(豊受大神宮)の二つの正宮の正殿、14の別宮の全ての社殿を造り替えて神座を遷す行事で、このとき、宝殿外幣殿、鳥居、御垣、御饌殿など計65棟の殿舎のほか、714種1,576点の御装束神宝(装束や須賀利御太刀等の神宝)、宇治橋なども造り替えられます。

直近では、第62回式年遷宮(2005~2013年)が行われました。

このときの予算は550億円、うち330億円が伊勢神宮自己資金で、220億円が寄付となっていて、自己資金330億円の最大の収益源となるのが、全国の神社で頒布されている「神宮大麻」(天照大御神の御札)の初穂料になります。

「式年遷宮」があった2013年度の神宮大麻の頒布数は874万体、当時の1体当たりの“目安”は800円なので、1年で約70億円が歳入として計上されています。そのうち、約半分が「神社本庁」に「本宗交付金」として給付されていますので、残りの約35億円が伊勢神宮の自己資金となります。

20年に1度の行事なので、1年毎に16億円強を積み立てる必要があります。

第62回式年遷宮(2005~2013年」は、商工会議所や経団連の寄付が100億円、その他、神社界からの募金等をあわせて550億円を準備し、それに皇室からの御内幣金が足されて、式年遷宮は行われました。

2013年の神社へのノルマ及びプレッシャーは、かなりきついものだったのでしょうね…

神社の懐事情

一般的に考えて、日本人口減少は、あらゆる産業に大きな影響をもたらしてます。それは経済規模の縮小につながるということですが、神道に限らず宗教界においては、人口減少に加え、特に若者層の宗教離れが、神社等の懐事情に、大きく響いていると思われます。

氏子が減れば氏子費や寄付金も減少し、参詣者が少なければ、祈願・授与品の初穂料、お賽銭も望めません。

それは、総じていえば、信仰の衰退にもつながるということです。

前述の「神宮大麻」、御札販売のノルマが厳しく、売れる売れないに関わらず、ある一定量の「神宮大麻」が送られてきて、捌ききれない分は神社が自腹で買い取っているそうです。

神に仕える神社の世界とは思えない光景です。

お寺は葬儀や戒名などが大きな収入源になりますが、神社にはそれがありません。

お賽銭の額は、テレビに映るメジャーなところでは年数億円はあるでしょうが、常駐神主が居ない神社では、年数十万円だそうです。

いま神社間格差が大きな問題になっているそうです。格差……神様の世界も人間界も同じですね。

神社に関する経営の問題、神社に限らずお寺などの税金の話なども興味はありますが、それは別の機会に調べてみましょう。

各神社にとって神社本庁の傘下にいることが、果たして得策なのか、どこもみな葛藤しているところではないでしょうか。

Next: なぜ神社本庁「脱退」は増えたのか?



神社本庁を脱退する神社たち

最近の医師会の悩みは、若いドクターが開業しても医師会に入らないことだそうです。その理由として、以下が挙げられています。

・会費を払ってまで提供されるサービスにメリットを感じない
・医師会に頼らなくても自分でできると感じている
・組織に属することで組織の意向に従わなければならない
・一方的な要望もあり、不自由なルールに縛られる

さらに、以下も理由としてあるようです。
・組織の不正
・不透明な人事
・会費の使われ方に問題がある

実は、この医師会会員減少と同じようなことが、神社本庁でも見られているのです。

文化庁の発行する「宗教年鑑」2019年版から正確な数を見てみると、神社本庁に所属する個々の宗教法人の総数は7万8,663となっています。2009年版では7万9,041だったので、378社(約0.5%)減ったことになります。

有名なところでは、以下の通りに脱退しています。

1986年:栃木県の日光東照宮
2004年:東京都明治神宮(2010年復帰)
2010年:石川県の気多神社
2017年:東京都の富岡八幡宮

そして、2020年11月に報道された金刀比羅宮と続きます。

多くの離脱の直接のきっかけは、ちょっとした手続きの行き違いのようではありますが、その根底には、神社本庁の「不正な土地取引と人事介入への不満」があるようですが、それも離脱の本質なのでしょうか。

神社本庁と全国の神社の関係は、総本社・総本宮とその末社という性格のものではないだけに、神社本庁という組織への不信が離脱の引き金というのも理解はできます。組織への不満として問題視されるのは「お金と人事」と相場は決まっていますからね。

離脱要因は「お金と人事」の不透明さ

小さい神社は「御札」販売のノルマを抱えながらも、神社本庁にすがっているのには、それなりの訳があるのでしょう。

経営への不安、後継者問題を抱える小さな神社と、経済的にも人事面でも自活できるビッグネームとでは、立場も違ってきますからね。

1986年、人事の問題で日光東照宮が神社本庁を離脱したことは大きく、超有名な神社が動いたことで、ここから離脱ドミノが始まったと言えます。

2004年の明治神宮離脱に関しては、神社本庁に対して警告を鳴らす意味での離脱だと言われていて、2010年には和解して復帰しています。

2010年の気多神社離脱は、神社本庁のカネの不正疑惑、川崎にある百合ヶ丘職員宿舎売却に関する不正を問いただしての離脱です。

2017年の富岡八幡宮も、神社本庁の意向で、神社からの宮司就任要請性を無視し続けで、ずっと宮司を空位にしていたことによる不満からの離脱のようです。富岡八幡宮では、その後、悲惨な殺人事件へと発展しています。

組織としての慢心、思い上がりで、神社本庁にカネや権力が集中したことで、トップへの不満が溜まっていたのでしょう。

神社本庁の強権体質が原因

「神社本庁が各地の神社に対する締め付けを強化している」などといった声も上がっています。

今回の金刀比羅宮の離脱騒動も、きっかけは、昨年11月の天皇陛下即位関連儀式「大嘗祭」を地元で祝う「大嘗祭当日祭」で、神社本庁から届くはずの「幣帛料」が届かなかったためとしていますが、ホームページに書かれている「神社本庁離脱の経緯」を説明するページは次のような書き出しで始まっています。

ここ数年、神社本庁では、不動産の不正転売が問題となっており、各報道によれば、本庁執行部が著しく関与しているとも聞き及んでいる。当宮も、神社本庁と包括関係にあり、事実であれば、非常に遺憾であると感じていた。

出典:神社本庁離脱の経緯 – 金刀比羅宮

神社本庁の不動産不正取引に関しては、当時、ダイヤモンド社がスクープ記事を出して話題となりました。そのスクープ記事を読み返すことで、これらの不動産不正取引や、さらに人事介入について、どのようなことが起こったかを追いかけてみましょう。

Next: 事件は頻発。殺人事件にまで発展した人事介入も



神社本庁の人事介入

神社本庁は、包括している別表神社に対して人事介入ができる旨は説明しました。個別の事例について、いくつかご紹介します。

<原発建設に絡む人事介入>

山口県の四代八幡宮境内の森売却問題で、鎮守の森売却に反対する宮司が無理やり解任させられています。2016年のことです。この境内の森を、中国電力「上原原発」建設に使うからのようで、神社本庁側が原発建設に加担したという構図になっています。

神社本庁側の、この森売却に関して「原子力発電は地球温暖化の原因となる温室効果ガスを排出しないため環境破壊に当たらない」というメッセージを出しています。森売却を反して解任された宮司の、“ニセの退職願い”までもが登場しています。その宮司は、裁判の途中で命を落としています。

これが山口県で起きていて、当時の政権が安倍政権であることは注目したいです。

<殺人事件にまで発展した人事介入>

「深川の八幡さま」として知られる富岡八幡宮(東京都江東区)が神社本庁を離脱したの2017年のことです。離脱の直接的な理由は、富岡八幡宮の宮司人事について、責任役員会の具申を本庁が無視し続けてきたためだとしています。

先代宮司の引退後、長女が代行役の「宮司代務者」に就いていました。その長女を正式に宮司にしようと、2013年から2017年春まで合わせて3回具申したものの本庁側が認めず、先延ばしされ続けてきたとのことです。

この人事の揉め事が起きた理由はわかりませんが、神社本庁が大神社の人事に直接介入していたという事実は明白で、それが理由で富岡八幡宮は離脱したということです。実に不透明は話ですね。

<世襲宮司の伝統と神社本庁から栄転させた宮司との争い>

大分県宇佐神宮でのことです。

2008年、先代の宮司がなくなったことで、世襲家である到津家で唯一の末裔となった女性が急遽、神職の資格を取得し、その上で、その女性が宮司になるまでの“中継ぎ役”として、当時の県神社庁長が宮司を務めていました。

ところがこの“中継ぎ役”が世を去ったのです。

ここでも、宇佐神宮の責任役員会は、その死の直前、世襲家の到津氏(女性)を新しい宮司にすべしという具申を行いましたが、本庁側は女性の経験不足を理由に拒否し、またも当時の県神社庁長を特任宮司(任期3年程度)として任命したのです。

これを不服とした到津克子さんが2009年に本庁に離脱届を叩きつけ、2010年には宮司の地位保全を求めて提訴しました。到津さんは一方的に役職を奪われ、給与も減らされ、さらに暴力行為や監視、密告などのパワーハラスメントを受けたとのことです。2013年に最高裁で敗訴が確定し、翌2014年に到津さんは宇佐神宮から解雇されてしまいます。

福岡高裁での控訴審は結審し和解協議が進められていましたが、高裁が元宮司邸である到津家の建物を「8年後に明け渡すこと」などの和解案を提示したため、到津さん側は「住居明け渡しは事実上、到津家の廃絶を意味する」としてこれを拒否し、苦渋の思いで一審判決確定の道を選んだ。

一審判決とは、到津さんへのパワハラがあったことを認定し、宇佐神宮側に137万円の賠償金支払いを命じ、境内地の住居維持を認めながらも「免職・解雇は有効」というものです。

この判決確定の直後、宇佐神宮側は到津さんが料金を支払っていた電気、ガスなどのライフラインを一方的に解約し、九州電力から到津さんの元に「送電停止のお知らせ」が届いたそうです。

さらに宇佐神宮側は本殿裏手につながる到津家住居前の歩道の一般車両の通行を禁止する通知を地元に回覧するなど、到津さんへの嫌がらせとも受け取られる事態が続いているというのです。

宇佐神宮には、まだ話の続きがあります。

この後のテーマである「不動産不正取引」で、神社本庁側の功労者の栄転先として、神社本庁の田中総長の意向を受けて神社本庁総務部長から2016年2月に宇佐神宮の宮司に就任した小野崇之氏と地元との関係も悪化しているのです。

この間、宇佐神宮の氏子有志らによる「宇佐神宮を守る会」が小野宮司らの退任を求める署名を提出、元責任役員の1人は「宇佐神宮問題の根っこは神社本庁問題」として、到津家排除の動きは単なる一神社の宮司問題ではなく、神社本庁は外では安倍政権と一体化して改憲運動の先頭に立ち、内ではあからさまな中央支配を進めようとしていると批判しています。戦前の国家神道の時代への回帰を狙ったものだと、強く非難しています。

意向にそぐわなければ任命しない、どこかで見たことがあるような……。

Next: 百合ケ丘職員宿舎売却における「土地転がし」問題



百合ケ丘職員宿舎売却における「土地転がし」問題

<随意契約、三為契約の謎>

神社本庁は組織です。組織である以上、ものごとを決める機関があります。全国の神職などから選出される「評議員会」です。そこで総長や役員人事も含め、重要案件を決定します。

2015年10月、神奈川県川崎市にある職員用宿舎「百合ケ丘職舎」が売却されることが決まりました。当時の総長は今の総長である田中恆清京都府神社庁長・石清水八幡宮宮司です。彼は日本会議副会長でもあることは紹介のとおりです。売却先は、新宿区にある不動産「ディンプル・インターナショナル」で、売却額は1億8,400万円だったそうです。

ここから話がややこしくなっていきます。

売買日は2015年11月27日、神社本庁からディンプル・インターナショナルに百合ケ丘職舎が売却されたと同時に、地方銀行の別室で、東村山市の「クリエイト西武」に登記移転されていました。その書類には、しっかりと田中総長の印が押されています。一連の流れを当然田中総長は知っているはずでしょうが、百合ケ丘職舎売却を決めた神社本庁評議委員会は、このことは知らされていませんでした。

この事実を知ったのは翌年2016年5月の役員会で東京大神宮宮司松山理事が、財産処分に不審を抱いて指摘して初めて、評議員会メンバー全員が知ることになりました。

ディンプル・インターナショナルがクリエイト西武に売却した金額は2億円超だとのことです。

きれいな「土地転がし」ですね。「三為(さんため)契約:「第三者のための契約」の略称」と言う、禁じられた中間省略登記に変わる新しい手法と言われています。違法ではないが、地方銀行も関わる問題取引とされています。

この「違法ではない」という神社本庁の態度が、その後の不信に繋がります。

ここまでなら、神社本庁側が騙されたとの見方も取れますが、2016年5月に、「三為契約」で神社本庁の百合ケ丘職舎を手にしたクリエイト西武が、大手ハウスメーカーに3億円超で転売したのです。

神社本庁・・・川崎市の百合ケ丘職舎を売る
ディンプル・インターナショナル・・・神社本庁から職舎を買う(1億8,400万円)
クリエイト西武・・・ディンプル・インターナショナルから職舎を買う(2億円超)
大手ハウスメーカー・・・クリエイト西武から職舎を買う(3億円超)

ここまでが一連の不動産売買における事実確認です。

<百合ケ丘職舎は基本財産>

百合ケ丘職舎は神社本庁の「基本財産」です。基本財産とは「本庁永続の機関となる財産」と規定されています。その財産の売却には、それ相応の理由が必要で、やむを得ず手放さなければならない事情を明確にすべきです。

少なくても、手続きとしては随意契約(一社との交渉)ではなく「競争入札」です。少しでも高く財産を売るというのが役割のはずで、それが資産を守るということのはずです。ましてや不可解な取引があってはなりません。

神社本庁の土地は、全国各地の神社からの“上納金”が購入原資です。神社本庁の財産は、全国神社の財産とも言えます。この百合ケ丘職舎の売却は「随意契約」となっています。

そして、神社本庁は1億8,000万円で売却しましたが、転々としたこの土地は、最終的には3億円超で売られています。仲介手数料や利益を乗せるとは言え、1億2,000万円という評価の違いは何なのでしょう。基本財産目録に記載されている百合ケ丘職舎が、簿価ベースで土地建物合わせて7億5,616万円となっていたそうです。

同じようなことが、国を舞台にありましたよね。

「上納金」を「税金」に置き換えて見てみれば、国民の財産を近畿財務局が8億円も値引きして随意契約で売却した問題がありましたね。

百合ケ丘職舎売却の話が出た当初、随意契約に反対した人がいました。競争入札を主張した当時の神社本庁の財務部長は、大手信託銀行と話を勧めて「評価額3億円前後」と妥当売買額まで引き出していました。

実際に、「三為契約」において大手ハウスメーカーには、3億円超で売っていますね。ところが、実際の随意契約による神社本庁の売買額は1億8,000万円です。

これが承認された評議員会には、随意契約に反対した財務部長は、その場にはいませんでした。新しい財務部長が座っていました。随意契約を反対した財務部長は、更迭されたのです。後任の財務部長が「入札に至るまでの時間的制約により、随意契約的な内容で契約を取り交わした」と説明する「議事録」が残っているそうです。また「不動産鑑定評価書に示す価格(中略)など総合的に検討した結果、提示価格は適正の範囲内であると判断した」とも書いてあるそうです。

財務部長が変われば、トントンと話が進みました。時間的制約の根拠は、「時間経過とともに不動産価格は下がる」という理由だそうです。「ディンプル・インターナショナルに早く売らなければ損をしますよ」…随意契約で売買を急ぐ理由は、結局は結果ありきのこじつけの理由に聞こえます。

これもどこかで見聞きしたような…。森友学園問題は2016年、迫田近畿財務局局長時に契約が成立し、佐川財務局長が引き継いで実行、この間公文書は改ざんされ、正義感の強い一人の官僚が命を落としました。森友学園では、土地に瓦礫などのゴミが多くあって、その処理に8億1900万円かかるという算定がなされ、それが、8億円もの値引きの根拠となりました。

百合ケ丘職舎の不動産鑑定評価書は、購入者のディンプル・インターナショナル側が持ち込んだそうです。鑑定時同行者社員名記載で評価額1億7,500万円と書かれていたそうです。それが同日に2億円超で売られ、半年後には3億円超で売られているのです。「急がないと…」の説明がすでに崩れています。

上納金と税金。人間界と神道界で、ほぼ同時に同じようなことが起こっていたのですね。

<渋谷区代々木の高級マンション購入>

さて、ここで疑問が生じます。こんなことをして神社本庁側には何の得があるのでしょう? その答えが、「渋谷区代々木の中古高級マンション購入」……何じゃそりゃです。

神社本庁が危機管理用に購入した新たな職舎だそうですが、入居予定者には「ディンプル・インターナショナルに早く売らないと損をするよ」と主張して話を勧めていた神社本庁幹部2名、当時の総務部長と当時の秘書部長の名前がありました。この取引の後に、総務部長は宇佐神宮宮司に栄転、秘書部長は総務部長の後釜についています。

森友学園問題に関わった近畿財務局の局長たちも、みんな栄転していましたね…。

宇佐神宮と言えば、全国八幡神社の頂点です。総務部長が宮司になった後、宇佐神宮では人事をめぐる裁判沙汰が起こることになります。「宇佐神宮の伝統を守る会」から退任を求める署名を突きつけられることになりますが、その話は後述します。神社本庁離脱神社続出の火種のもう1つ、「人事介入」問題ですね。

批判があったのか、渋谷マンションは、秘書部長の1戸だけが購入されました。その価格は7,620万円、高級物件です。

<異議を唱えた人は処分されている>

百合ケ丘職社売買決済がなされた2015年の翌年の役員会や評議員会で、「安く売り過ぎているのではないか」という質問が出るようになりました。

それを問題視した当時の総合研究部長の稲貴夫氏が独自調査をして、その結果を踏まえて、2016年12月、「檄」と題する文書にまとめて懇意の2人の役員に渡したところ、犯人探しが行われ、「情報を漏えいし、疑惑を外部に広めた」として、解雇されました。随意契約を批判した財務部長は、平職員に降格されました。

稲貴夫氏は、百合ケ丘職舎不正取引を訴えたことで懲戒処分を受けたことを不服として神社本庁を訴えています。和解協議は不成立となり、来年3月に判決が言い渡されることになっています。

また、この不正土地取引をめぐり、日吉神社(愛知県清須市)の三輪隆裕宮司は、神職や一般人34人と神社1法人それぞれが、神社本庁の田中恆清総長を本庁の資産に瑕疵を生じさせたとして背任罪で東京地方検察庁に刑事告発しました。ただ告発は受理されたものの、その後不起訴処分になっています。このうち三輪宮司は、捜査が不十分として東京検察審査会に不服を申し立てています。

百合丘職舎売却は、法人の財産を保護、管理すべき総長の役に就く田中総長が特定の不動産業者の利益のため、本庁に損害を与えた背任の容疑だと訴えています。

体制を批判すると任命されない・排除されるというのは、これもどこかで見た風景ですね。

<キーワード「お友達」>

一連の「三為契約」を考えると、神社本庁が土地を売る相手はディプル・インターナショナルでないとダメなことがわかります。絶対に「随意契約」でディンプル・インターナショナルに売却しないと、成り立ちませんからね。

ここで、再度、登場人物をおさらいしてみましょう。

神社本庁・・・問題となっている川崎市の百合ケ丘職舎を売る
ディンプル・インターナショナル・・・神社本庁から職舎を買う(1億8,400万円)
クリエイト西武・・・ディンプル・インターナショナルから職舎を買う(2億円超)
大手ハウスメーカー・・・クリエイト西武から職舎を買う(3億円超)

でも、登場人物はこれだけではありません。百合ケ丘職舎を売る判断をした評議員会の決議を了承し、かつ、売買契約に「はんこ」を押した神社本庁側の人物がいます。神社本庁総長の田中恆清氏で、京都府神社庁長の石清水八幡宮宮司でもある人物です。

ディプル・インターナショナルからクリエイト西部に登記移転する書類には、
権利者・丙  株式会社クリエイト西武
義務者・甲  神社本庁 代表役員 田中恆清
義務者・乙  株式会社ディンプル・インターナショナル(当該物件の売買契約の買主)
となっていて、神社本庁の公印が押されています。

一連の取引の流れを、田中総長が知らないということはないでしょう。むしろ指示をした方ではないでしょうか。

さて、この一連の不動産取引に関するキャストはどのように選ばれたのでしょう。当然、深い関係でないとできない芸当です。

森友・加計学園問題でも「お友達」というのがキーワードとして出てきていました。神道の世界でも、人間界と同じような構図が見られるようです。

<土地転がしで利益を得る「お友達」たち>

ディンプル・インターナショナルの会社所在地には、もう1つの会社があります。「日本メディア・ミックス」という季刊誌「皇族」の委託販売をしている会社で、この一連の問題が起こったときの社長は、ディンプル・インターナショナル高橋恒雄氏が就任していました。

現在は、「ベストオンアース」と社名を変え、新宿のディンプル・インターナショナル事務所から出て千葉県船橋市に移転しています。社長も変わっているようで、「神社に特化した総合広告代理店」として営業しているようです。

そこまで神社界に食い込めたのは、なぜでしょう。

「日本メディア・ミックス」の創業者は日本レスリング協会会長の福田富昭氏で、そのあとに高橋恒雄ディンプル・インターナショナル社長が、日本メディア・ミックスの社長になっています。高橋氏は、福田氏のレスリングの後輩です。福田氏は一時、日本文化興隆財団の理事をしていました、日本文化興隆財団は、神社本庁の外郭団体で、ホームページには「神社界と総代会との連携の中から生まれた財団」と紹介されています。現在「皇室」という雑誌は、日本文化興隆財団が取り扱っていますが、そこの理事に神社本庁の田中総長や、神道政治連盟の打田会長の名前があります。

ここで登場するのが、「神道政治連盟」です。新しい名前が出てきましたね。「政治」と名前にあるのでどうも日本会議と同じような匂いがしてきますね。

神道政治連盟(神政連)会長は打田文博氏(静岡県小国神社宮司)で、神社本庁の渉外部長を務めていて、神社本庁田中総長とは盟友です。先程の「日本メディア・ミックス」の創業者は日本レスリング協会会長の福田富昭氏と打田文博氏は昵懇の仲です。

福田富昭氏は、レスリング世界選手権優勝者という経歴があり、神社界でビジネスを行うための人脈づくりで「神社界の裏のドン」と呼ばれる打田文博神道政治連盟会長に接触、打田会長が宮司を務める小國神社行事に、吉田沙保里選手や伊調馨選手などの有名レスリング選手を派遣するほどの関係になっていました。

ここで、神社本庁とディンプル・インターナショナルが繋がりました。

2000年からディンプル・インターナショナルは日本文化興隆財団を通じて神社本庁との取引が行われ、今回の、契約同日売却ということも、宇佐神宮に栄転した当時の小野財務部長とは経験済みだったのです。

Next: 離脱増加で改憲勢力が弱まる?自民党が神社本庁を大切にするワケ



政治団体「神道政治連盟」の存在

神道政治連盟(神政連)は、「神道精神を国政の基礎に」を合言葉に、神社界を母体として1969年に設立された政治団体で、本部は神社本庁内にあり、役職員には神社本庁の評議員らが名を連ねていることから見ても、神社本庁や神社庁と神政連は“一心同体”の組織と言えそうです。

基本理念は「憲法改正」で、日本各地の神社で、「憲法改正」のビラが置いてあったり、のぼりが立ててあったりします。教育基本法改正(第一次安倍政権時に交付・施行)、安全保障体制の確立、戦没追悼施設建設反対、夫婦別姓・男女共同参画社会推進反対の立場です。

戦後の混乱期以降、「元号法制定」「剣璽御動座(けんじごどうざ・天皇が行幸する際に、剣と勾玉を携えて移動し、滞在先に奉安すること)の復活」「紀元節の復活」などを訴え実現させてきました。

安倍前政権の思想的中枢の存在で、日本会議とは組織は異なりますが理念は同じと言えそうです。「神道政治連盟国会議員懇談会」という超党派の国会議員の集まりもあります。

自民党議員が多く参加していて、大事な票田であり、政策発信者でもあり、コアな支持者層でもあります。男女共同社会の実現とか、夫婦別姓が一向に進まないのも、理解できます。

実は、昨今の神社本庁からの離脱する神社は増えていることは、政権からも由々しきことなのです。それは、かねて憲法改正を推進している神社本庁の求心力が低下すると、署名集めに苦慮することになるからなのです。

神社本庁は、2016年には改憲を目指す団体とともに全国の傘下神社の境内で約700万もの改憲賛成の署名を集めました。

自民党にとって神社本庁は、改憲への動きを草の根で広げる重要な支持基盤なのです。

自民党が神社本庁を大切にするワケ

ところが、氏子や参拝者が多く金銭的に余裕のある神社ほど、神社本庁の管理から離れようとする傾向が出てきました。このまま有力神社の離脱が相次げば、自民党の改憲を後押しするパワーも弱まってしまうことが懸念されています。

それでも政治家は、多くの人を集められる、いわば集客力のある組織を大事にします。お祭りや行事で人を集めることができる神社パワーは、魅力です。

神社本庁と政治との関わりは、表の提供と理念実現との駆け引きのようなものですね。

そもそも戦前の反省から、軍による人心掌握に宗教が利用されないために、神道において組織に有り方が見直されました。それは学問も同じで、政治の関与を排除して学問の独立性を大切にしてきた経緯があります。

神道の世界も人間界とまったく同じで、神社本庁の問題は、まさに森友学園問題であり、加計学園問題であり、日本学術会議問題でもあります。

私たちが心から、自然を崇拝する心で手を合わせることを、客観的な姿勢で学問と接するということを、もっと大切に考えていきたいものですね。

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※本記事は、らぽーる・マガジン 2020年11月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年12月6日)
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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