伊勢神宮の御札(おふだ)をめぐるカネの流れ
神社本庁は本宗を伊勢神宮としました。伊勢神宮と言えば天照大神ですね。
会社や各家庭の神棚に祀られている、神棚中央の部屋に鎮座するのが天照大神です。その神棚には「神宮大麻」と呼ばれる「天照皇大神宮」と書かれた御札を祀ります。
伊勢神宮は社格でも別格で、すべての神社の頂点に立つ別格な存在ですので、神棚を祀る際には、必ず伊勢神宮の「神宮大麻」が鎮座することになります。
部屋が3つある神棚では、必ず中央の部屋は伊勢神宮の御札、向かって右は氏神様、自分が住んでいる場所にある神社の御札、左側には自分が生まれた場所の神社か好きな場所の神社、思い入れがある神社の御札を納めるのが一般的です。
この「神宮大麻」と呼ばれる「天照皇大神宮」と書かれた御札は、伊勢神宮でしか発行することはできません。「神宮大麻」のお値段は、小さいサイズで今年値上げして1,000円、昨年までは800円でした。もちろん消費税はかかりません。「祈祷された御札」ですから。
各神社(被包括神社)が「神宮大麻」を氏子たちに販売し、その初穂料(売り上げ)を、すべて各都道府県の「神社庁」に“上納”します。各都道府県の「神社庁」は伊勢神宮に、そのまま“上納”します。
伊勢神宮は、全国から集った御札の売上金の半分程度を、「本宗交付金」として神社本庁に渡します。
一般的には、各家庭の神棚にある御札は、1年に1回、新年初詣のときに取り替えます。正月三が日には、必ずと言っていいほど、古い御札を近くの神社に納めて新しい御札を購入します。一般的には、神棚を祀っているご家庭や会社の年中行事になっています。御札の購入料には、古い御札を納める料金も含まれていると考えられています。
テレビなどでも映像でよく見る初詣の風景は、お賽銭箱にたくさんのお金が投げ込まれる場面かと思いますが、実は一般の神社にとっての大事な収入源は、お賽銭よりも、祈祷料であり、この「神宮大麻」、御札の売り上げのほうが多いのです。
各神社に課せられる厳しいノルマ。すべては式年遷宮のため?
さて先程のお金の流れですが、神社本庁に入った「本宗交付金」は、今度は都道府県の「神社庁」を経由して「神宮大麻」を販売した各神社(被包括神社)に、数%増額されて「本宗神徳宣揚費」として配分されます。
かなりお金の流れがややこしいですね。
整理しますと、販売金の流れは…
各神社(被包括神社) → 都道府県の神社庁 → 伊勢神宮
交付金の流れは…
伊勢神宮 → (本宗交付金) → 神社本庁 → 都道府県の神社庁 → (本宗神徳宣揚費) → 各神社(被包括神社)
となっています。なぜこんな複雑なお金の流れになっているのでしょうか。
神社が売り上げをそのまま手にすれば、神社は伊勢神宮の「代理店」に該当し、売り上げは手数料収入となって課税対象となります。それを避けるために、上記の流れの通りいったん神社本庁に集め、交付金として神社に交付する形が取られるようになったと、神社本庁の関係者は説明しています。
ちなみに、各神社(被包括神社)には、「神宮大麻」販売に関して「ノルマ」があるそうです。ノルマを課してまで「神宮大麻」を販売する理由として、伊勢神宮の「式年遷宮」という行事が関係しています。
式年遷宮とは、原則として20年ごとに、内宮(皇大神宮)・外宮(豊受大神宮)の二つの正宮の正殿、14の別宮の全ての社殿を造り替えて神座を遷す行事で、このとき、宝殿外幣殿、鳥居、御垣、御饌殿など計65棟の殿舎のほか、714種1,576点の御装束神宝(装束や須賀利御太刀等の神宝)、宇治橋なども造り替えられます。
直近では、第62回式年遷宮(2005~2013年)が行われました。
このときの予算は550億円、うち330億円が伊勢神宮自己資金で、220億円が寄付となっていて、自己資金330億円の最大の収益源となるのが、全国の神社で頒布されている「神宮大麻」(天照大御神の御札)の初穂料になります。
「式年遷宮」があった2013年度の神宮大麻の頒布数は874万体、当時の1体当たりの“目安”は800円なので、1年で約70億円が歳入として計上されています。そのうち、約半分が「神社本庁」に「本宗交付金」として給付されていますので、残りの約35億円が伊勢神宮の自己資金となります。
20年に1度の行事なので、1年毎に16億円強を積み立てる必要があります。
第62回式年遷宮(2005~2013年」は、商工会議所や経団連の寄付が100億円、その他、神社界からの募金等をあわせて550億円を準備し、それに皇室からの御内幣金が足されて、式年遷宮は行われました。
2013年の神社へのノルマ及びプレッシャーは、かなりきついものだったのでしょうね…
神社の懐事情
一般的に考えて、日本人口減少は、あらゆる産業に大きな影響をもたらしてます。それは経済規模の縮小につながるということですが、神道に限らず宗教界においては、人口減少に加え、特に若者層の宗教離れが、神社等の懐事情に、大きく響いていると思われます。
氏子が減れば氏子費や寄付金も減少し、参詣者が少なければ、祈願・授与品の初穂料、お賽銭も望めません。
それは、総じていえば、信仰の衰退にもつながるということです。
前述の「神宮大麻」、御札販売のノルマが厳しく、売れる売れないに関わらず、ある一定量の「神宮大麻」が送られてきて、捌ききれない分は神社が自腹で買い取っているそうです。
神に仕える神社の世界とは思えない光景です。
お寺は葬儀や戒名などが大きな収入源になりますが、神社にはそれがありません。
お賽銭の額は、テレビに映るメジャーなところでは年数億円はあるでしょうが、常駐神主が居ない神社では、年数十万円だそうです。
いま神社間格差が大きな問題になっているそうです。格差……神様の世界も人間界も同じですね。
神社に関する経営の問題、神社に限らずお寺などの税金の話なども興味はありますが、それは別の機会に調べてみましょう。
各神社にとって神社本庁の傘下にいることが、果たして得策なのか、どこもみな葛藤しているところではないでしょうか。
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