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脱炭素を盾に原発再稼働を進める菅政権。日本の命運を分ける3つの選択肢=斎藤満

日本は本当に2050年までに脱炭素社会を実現できるのでしょうか?エネルギー生産に原発を入れるのか、EVはリチウム電池か水素電池かなど、菅政権が考えるべき視点が少なくとも3つあります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年12月14日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「脱炭素」実現への3つの視点

菅政権が打ち出した2050年までに「脱炭素社会」を実現する、というプランは世界の潮流になっています。新型コロナを克服した後には、日本が目指す大きな指針となります。

そのなかで、日本として考えるべき視点が少なくとも3つあります。

1つは、EV化にあたり、リチウム電池か水素電池か。
2つに、エネルギー生産に原発を入れるのか。
3つに、CO2を出さない道と、CO2を吸収する道のどちらを選ぶか。

これらの組み合わせです。

リチウム電池か、水素電池か。共存は効率が悪い

かつてビデオ・カセット・テープの開発にあたり、ソニーなどのベータ方式と、日立などのVHS方式とで争いになり、結局はVHSに規格が一本化されたのですが、ベータ組では開発エネルギーや人的なロスも大きくなりました。

今EV(電気自動車)化を進めるにあたっては、日産などの進めるリチウムイオン電池型と、トヨタが進める水素電池型が並行して開発が進んでいます。

かつてのビデオのような規格の統一は必要ないと思いますが、2030年代にはガソリン車(ハイブリッドを含む)とリチウム電池車、水素電池車が走っている可能性があり、街にはガソリンスタンドと2種類の充電スタンドが併存する形になります。

過渡期とはいえ、効率の悪さとコスト高を余儀なくされます。そして、最終的にはEVにシフトしますが、消費者はリチウム型と水素型の選択となります。

資源のない日本は水素向きか

リチウム電池は日本の吉野彰さんがノーベル賞を受賞したように、日本が先行して開発し、スマホやPCなどに広く使われています。そして、これが電気自動車にも使われるようになりました。

政府はリチウム電池のための設備投資には、法人税減税を考えています。

ただ、その弱点としては、資源が中国など海外に多く依存すること、電池の重量が負担になること、充電に長時間要すること、充電施設がまだ整っていないことなどがあります。

その点、石油とともにレアメタル資源の限られた日本では水素電池型にメリットがありそうです。重量、充電時間の問題でも水素型に分があります。

Next: エネルギー生産に原発を入れるのか? 脱炭素は原発容認に非ず



日本の技術力が試されるとき

現在太陽光発電など、CO2を出さない発電を利用して水素を作っているので、生産量に限界があり、コスト高となっています。

当面はオーストラリアなどから液体水素を輸入して補うことになりますが、製造する際の資源としては無尽蔵の水か、泥炭でよいので、あとは水素を発生させる技術開発が進めば、大幅なコストダウンが可能になります。

また水素電池は、自動車以外にも飛行機や多目的に活用できるだけに、リチウム電池に負けない応用分野の広がりが期待できます。

またリチウム電池の場合も、常温超電導と組み合わせれば、運動エネルギーを電気エネルギーに転換して、無限の再生産も可能になります。

どちらも日本の技術力が試され、世界をリードしうる分野です。

エネルギー生産に原発を入れるのか? 脱炭素は原発容認に非ず

発電の際、日本ではCO2排出の多い石炭火力発電を減らしていますが、最終的には原発による発電が2割以上占める形を想定しています。

この点、ドイツなど欧州が風力や太陽光など再生可能エネルギーへのシフトを進めているのとは異なります。

しかし、CO2排出による温暖化の問題と、放射能汚染による被害と比べれば、安易に原発依存というわけにはいきません。特に、東日本大震災で福島原発の処理も進まない日本が、今後も同じような問題を起こさないという保証はありません。

ひとたび原発事故が起きると、そのトータルコストは電力会社の経営はおろか、一国の財政も大きく揺るがす問題になることは経験した通りです。

福島の原発事故はいまだに「アンダー・コントロール」ではありません。核燃料の取り出しにめどが立たず、汚染水処理すら行き詰まっています。東南海大地震やそれによる津波で、太平洋側が「福島化」すれば、日本は立ち直れない被害を受けます。

少なくとも国民感情では、脱炭素 =(イコール)原発容認ではありません。

脱炭素社会の実現に向けては、再生可能エネルギーの生産体制を構築し、そのためのインフラ投資を進める必要があります。米国がバイデン政権となり、CSIS(戦略国際問題研究所)が力を持つようになれば、ますます原発依存は難しくなります。良好な日米関係維持の面からも、再生可能エネルギー主体の発電により、脱炭素社会を描く必要があります。

原発稼働ありきで進むエネルギー政策

その点、政府は2012年に600億円を投じて「復興事業」の象徴として始めた福島沖20Kの洋上風力発電から撤退し、その撤去にさらに50億円かけると言います。

だから原発しかないと言いたいのかもしれませんが、計画自体に問題があったと見られます。

ドイツなど欧州では現実に稼働していて、原発の代替エネルギー源になっています。日本は計画、設計の段階から見直しが必要です。

Next: CO2排出抑制か、CO2吸収か。脱炭素を経済拡大のエンジンにせよ



CO2排出抑制か、CO2吸収か

そして3つ目の視点は、ゼロエミッションの形です。これには、以下の2つの道があります。

1)CO2排出につながる分野の生産を抑制し、他の生産方式にシフトする道
2)緑化の推進によって、CO2を吸収する道

従って、CO2排出につながる生産をゼロにしなくても、それを樹木の光合成で吸収し、ネット(正味)でゼロにすることもできます。

日本は国土の7割が山林で、緑がCO2を吸収し、酸素を排出する余地が大きい国です。

そしてこれまでも世界の砂漠地に緑化を進める支援をしてきた実績があります。国内の事情として、食料自給率の低さ(カロリーベースで37%)を考えれば、農業の拡大は食料安全保障にもつながります。

また近年の豪雨災害や漁業での漁獲量の低下に対処するにも、山林の整備、確保は土石流の抑制、魚の住みやすい海を作り、漁業にも貢献します。

国内で一段と緑化を進めることで、日本の生活を守るとともに、CO2の吸収という一石二鳥、一石三鳥にもなります。また海外での砂漠の緑化も現地の生活を支援する点で、これも一石二鳥です。

CO2排出を抑制することが生産所得の減少につながる面を緩和するうえで、この緑化によるCO2吸収も有力な手段です。また、生産過程でどうしてもCO2が出てしまう場合でも、それを大気中に放出せず、地下に埋め込み、閉じ込める方法も採用され始めています。

こうした技術の取り入れも、CO2排出の抑制につながります。

今はコロナ対策が最優先

アフター・コロナの世界では、こうした脱炭素社会という大きな変革を、経済拡大の大きなエンジンにすることができます。

これに早く取り掛かれるよう、今は一刻も早くコロナの感染拡大を止めることです。それもできない政府に、脱炭素社会を作れるとは思えません。

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  • 医療崩壊は政権崩壊のトリガーにも(12/9)
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  • トランプの法廷闘争戦略に逆風(11/16)
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  • 政治リスクが高まる日米株式市場(7/3)
  • 規制と自由、コロナ共生下の経済成果は(7/1)

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  • 世界貿易にもコロナ・ショック(6/29)
  • 転倒した憲法改正解散(6/26)
  • 市場の期待と当局の不安がぶつかる米国経済(6/24)
  • 狂った朝鮮半島統一シナリオ(6/22)
  • 見えてきたコロナ危機の深刻度(6/19)
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  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
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  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

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2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
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  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
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  • 敵を知り己を知らば百戦危うからず(5/1)

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  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
  • コロナ恐慌からのV字回復が期待しにくい3つの理由(4/8)
  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

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2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
  • 新型コロナウイルスと世界大戦(3/25)
  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

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2020年2月配信分
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  • 政府対応の失敗で「安全通貨」の地位を失った円(2/26)
  • 信用を失った政府の「月例経済報告」(2/21)
  • 上昇続く金価格が示唆する世界の不安(2/19)
  • IMFに指導を受けた日銀(2/17)
  • 中国のGDP1ポイント下落のインパクト(2/14)
  • 習近平主席の危険な賭け(2/12)
  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

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マンさんの経済あらかると』(2020年12月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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