チュニジアの旧宗主国・フランスで路上強盗に遭った男

Zyankarlo/Shutterstock
 

数歩戻ったところでいきなりうしろから羽交い絞めにされ、そのままの格好で道路に引き倒された。あとのふたりがひたすら頭を蹴り、踏みつける。

イテテテ、イテテ。

腹と顔を蹴られないようエビのようにからだを折り曲げ、両手で顔を覆う。

あれっ、フランス語で「助けて」ってなんだっけ。こんな大事なときに思い出せない。しかたがないので英語で叫ぶ。

「ヘルプ! ヘルプ!」

しかしその声に反応したか、頭を蹴るふたりのうちひとりが蹴りをやめ、すばやく僕のからだをまさぐってジーパンの右のサイドポケットにあったお札全部を引き抜くと、今度は3人いっせいに脱兎のごとく逃走した。

すぐに起き上がって連中の逃げた先を目で追ったが、町の風景がかすんで見える。もしや目を蹴られて傷を負ってしまったのか。しかしそれは気が動転していたせいの思い違いで、実際は、かけていためがねがもみ合ったときに吹っ飛ばされたためだった。めがねは、フレームの左右のつるがほぼ一直線にひん曲がった状態で路上に落ちていた。

首と右のこめかみに痛みがある。頭を何度も蹴られたり踏まれたりしたせいで、首の筋を痛め、さらに右のこめかみから出血していた。パルー通りは趣のある石畳の道だが、アスファルト舗装した滑らかな路面と違って凹凸があるだけ、こういうシチュエーションでは肌を切りやすい路面でもあるのだ。

それにしてもこういうときの憤りというのは消化しづらい。犯人が逃げ去ってしまった今、怒りの持って行き場がないのだ。好奇心から連中のあとにのこのこついていった自分の愚かさを嘆く以外、どうしようもない。

さてどうしたものかと路上で思案したあげく、やはり警察に行くことにした。幸い、こめかみの出血はたいしたことがないし、被害額も日本円で7500円ほど。この国では大騒ぎするほどの事件ではないのかもしれないが、しかしこのままなにもしないで宿に戻る気になれない。あいつら3人の顔はしっかり脳ミソに刻み込んでいる。僕はひん曲がっためがねのつるを指で適当に元に戻してかけると、目の前の建物の住所がパルー通り15番地であることを確認して大通りへ出た。

西ヨーロッパのミネラルウォーターはほぼガス入り。慣れるのにちょい時間がかかる。

西ヨーロッパのミネラルウォーターはほぼガス入り。慣れるのにちょい時間がかかる。

警察署を探して歩き出したとたん、運よくパトカーが通った。急いで手を上げて走り寄り、車窓を開けた警官に英語で事情を説明したところ、

「それは大変だ。警察へ行きなさい」

それだけアドバイスすると彼は窓を閉め、パトカーは行ってしまった。

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