なぜ日本政府は「子どもの貧困」対策として「寄付」を選んだのか?

 

担当官の説明は「子供の貧困問題は深刻であるにもかかわらず広く認識されておらず、『自助努力の範疇ではないか』と言われることもある。しかし、子供は社会全体の財産。貧困を社会全体の問題と捉え、国民ひとりひとりが誰でも活動に参加できる事業の1つとして、まずは『基金』という象徴的な方法を選んだ」というのです。

要するに「社会に広く認識させるために」は、100%税金ではなく、基金にして民間の自発的寄付を募った方が「盛り上がる」ということです。

また安藤編集長によれば、その担当官は、別の利点として「国の予算で行う事業の場合はどうしても画一的な支援方法になり、特定の地域や分野に偏った支援はできない。その点民間の基金であれば、NPOなどが特定の地域や分野に特化して行う事業でも自由に使うことができる。子供の貧困対策には、地域に密着して子供に寄り添う草の根活動こそが必要で、柔軟に用いることができる民間の基金が適している部分もある」という観点が示されたとしています。

同じような声は、支援現場にもあり「民間の資金には、困窮している子供を一定の支援条件に当てはまらないからといって差別することなく、柔軟に運用できるメリットがある」という指摘がNGOからもあったというのです。

安藤編集長の記事は、基本的に寄付を否定するものではありませんが、この2つの声を紹介しながらも、まず政府の事業として税金の投入が本筋だろうという問題提起として書かれていると見ることができます。

この「寄付か税金か」という問題ですが、似たような論争はアメリカにもあります。と言いますか、それこそ「子供の貧困」だけでなく、あらゆる社会問題、格差問題に関して「個人の自発的な寄付」がいいのか、それとも「税金による政府の施策としてやる」のがいいのかというのは、常に「対立軸」として論争の材料となっているのです。

後者は典型的な「大きな政府論」で、民主党とその支持層の間に広く共有されている考え方です。今回の大統領選では、自称社会主義者のバーニー・サンダース候補が「格差の是正」を強く主張しているわけですが、とにかく「より福祉を拡充」するために、「より富裕層の課税を強化」する、要するに「再分配を強める」という考え方です。

一方の共和党は前者の考え方に近いわけです。共和党というと保守であって、「アンチ・リベラル」だから福祉など興味ないだろうというと、全くそうではありません。共和党の支持者であるアメリカ保守の考え方は、「困っている人は助けたい」が、「それを政府を肥大化して行うのは絶対に反対」というだけなのです。ではどうするかというと、それは個人の自発的な寄付によるということになります。

実際は個人が教会組織や慈善団体に寄付をして、そうした団体が福祉活動を行うわけですが、そのような活動を後押しするために、企業にも個人にも非課税枠設定されています。ですから、共和党的な考え方をする人は、「税金で取られて既得権益にカネが流れるぐらいなら、困っている人や団体を自分で選びたい」ということで、寄付金の小切手を切るわけです。

image by: Shutterstock

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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