AIIBというバスどころか21世紀そのものに乗り遅れてしまった日米の誤算

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例えば、中国輸出入銀行の李若谷総裁(当時)はボアオ・レビュー14年2月11日付の論文「アジアのインフラに対する多チャンネル金融」の中で要旨次のように言っている。

  • アジア開発銀行(ADB)によれば、もしアジア経済が2020年までに世界平均レベルのインフラを達成しようとすれば、国内インフラ整備に8兆ドル、広域的なインフラ建設にさらに3000億ドルの投資が必要であり両者を合わせた額は全アジア諸国のGDP合計の半分近いものとなる。明らかに、政府直接投資にのみ頼っていたのでは、そのような圧倒的な金融需要を満たすことはできないだろう。そこで、インフラ・プロジェクトへの金融のチャンネルを拡大することが必要になる。
  • それには銀行融資の役割を増やさなければならない。公共財プロジェクトは複合的であり、多くのプロジェクトは巨額かつ長期で、高リスク・低リターンの投資が必要であることを考えると、政策金融方式が有効で、それによってプロジェクトに必要な金融を満たすだけでなく、国家のそのプロジェクトに対する負債を低減させることが出来る。
  • 中国政府はすでに、アジアのインフラ開発の支援と推進のために優先ローンを投入している。例えば「中国~キルギス~ウズベキスタン・ハイウェイ」は、中国政府による直接無償援助、中国輸出入銀行による輸入者優先の信用供与、国営開発銀行からの商業信用供与、そしてアジア開銀およびイスラム開発銀行からのローンによる共同支援を受けたが、これは政府優先ローンが先導して商業金融を取りまとめた成功例の1つである……。

ここには、大事なことがいくつか含まれていて、第1に、中国にせよ他の国にせよ、政府からの無償援助や補助金の形でアジアのインフラ整備を進めようとしても限界があり、政府は今後も政策金融方式で主導的役割を果たすけれども、それを呼び水として各種の商業金融を取り込まなければならない。そのための大枠がAIIBということだろう。

第2に、米国などは「AIIBはADBと対抗するものであってはならず、それと協調すべきだ」などと言っているが、それは実情を知らない者のイチャモンで、すでに中国の政策金融方式とADBとの協力は始まっている。

第3に、ADBだけでなくサウジアラビアが主軸となって1973年に設立され56カ国が株主メンバーである「イスラム開発銀行」とのコラボも実現していることである。同行は、イスラム諸国および非イスラム国内のイスラム社会の経済発展のためだけに金融支援をし、しかもイスラムの原理・法律に従って融資は無利子であるため、単なる利ざや稼ぎのための投融資はせずに、その事業がイスラム社会の福利に資するかどうかという質的な観点から判断して資金を投じるプロジェクト選別型の投融資に徹するという、(我々の常識からすれば)風変わりな銀行である。この中国~中央アジアのハイウェイ構想の場合は、キルギスやウズベキスタンがイスラム国であり同行の株主でもあるということから共同融資に加わったに違いないのだが、ここに、AIIBにサウジ、トルコはじめ中東の主要国が参加したことの大きな意義がある。

イスラム開発銀行はじめイスラム金融勢力は、一時期、マレーシアを拠点としてアジアに融資先を拡大しようとしたが余り大きな進展はなく話題になることが少なかったが、最近はどうもトルコがその莫大なアラブ・マネーの管制塔の役割を狙っているらしく、いまイスタンブールに東京ドーム53個分の敷地に「金融センター」を建設中である。

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