中国当局に「スパイ容疑」で逮捕されそうになった男の6年越しの告白

 

そこで、カトケンとして、ひとつの試しに出た。「現状では、自分が上海空港へ到着しても、誰と待ち合わせしてどこへ行くのか、または、自力で指定の場所へ行くのか、が指示されていないので、到着しても動きようがない。このことをあえて、こちらから質問せずに放置しておいて、相手が、空港到着後のことを言ってくるかどうか、を試す」ことにした。こちらから「空港到着後は?」と質問してしまうと、ウソでも間に合わせの急造回答でもしてきてしまうだろう。だから、こちらからは質問せずのままとした。

すると、成田空港から乗るべきフライトのeチケットナンバーが出発指定日の2日前にメールで送られてきたのだが、空港到着後の動き方と期間中のスケジュールはなにも来なかった。期間中のスケジュールよりも、空港到着後のことがなにもないので、カトケンとしてキャンセルを決意。日本企業の通訳さんに伝えた。通訳さんからは「キャンセルとは残念です…。」で始まるメールが来て、それに続いて「上海側は、これこれの演奏場所を用意して待っていたのに…」と、その時になってはじめて、4か所ほどの演奏場所と、中国テレビ局の放映が入ることなどの内容が送られてきた。その内容は、上海万博会場の中央にあるホールでの演奏など魅力的なものだった。最初からその内容を言われていたら、行ったかもしれない。しかしこの期に及んでも、上海空港到着後の動き方の指示はふくまれていない。

そして、ここで初めて気づいたことは、通訳さんが、私のキャンセル意志を上海政府に伝えてなかったことだった。つまり、こちらからの「演奏スケジュールがないゆえ不信感」という意図があちらには伝わってなかったのだ。

今回、上海公演を断ったのは、滞在期間や場所、移動手段など、基本的な部分で自分のコントロールがきかない上に詳細情報ナシだったことが、チョー不安だったということ。VIP待遇で招待される人生に慣れている人だと、そういう基本部分を他人に任せられるのだろうが、カトケンはやり、招待される側の人格者でないということか。自分で自分の動きを掌握できていないと落ち着かない。

で、キャンセルした日の翌朝に、尖閣諸島沖で中国漁船が拿捕され中国人船長が逮捕された。しばらくして、その報復として、中国に滞在していたフジタ社員たちが逮捕された。この状況を見て、中国ツウの友人のほぼ全員から「カトケンがもし、上海の官僚宿舎にいたら、フジタ社員でなくて、お前だよ」と言われた。「防衛省OPLの人間が、バグパイプ奏者と身分を偽って、立ち入り禁止区である官僚宿舎に入った」というストーリーだ。報復逮捕する中国側としては、フジタという民間社員よりも、防衛省OPLの肩書きのほうがおいしい。「尖閣漁船事件と上海万博バグパイプはまったくリンクしていないとおもうが、いざとなったら身柄拘束できるおいしいエサ(防衛省OPLという肩書きの日本人)を手の内にキープしとくことは、中国の戦術かもなあ」

北京へよく出張してる建設業友人からは「カトケン、よく土壇場でキャンセルしたねぇ。戦場の勘?」といわれ、メーカーの友人からは「中国からばかりでなく、日本からもドタキャンくらいしてやったほうがいいんだ、あの国には」と、上海万博における日本人側からのキャンセル第1号になったカトケンの行動が、関係悪化に向かう日中関係の中でチョー歓迎ムードになった。

print
いま読まれてます

  • 中国当局に「スパイ容疑」で逮捕されそうになった男の6年越しの告白
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け