中国当局に「スパイ容疑」で逮捕されそうになった男の6年越しの告白

 

ただ、カトケンとして、中国側から賠償請求が来るのでないか、という恐怖はあった。ところが、日中関係の悪化が幸いし「そんなもん来ても蹴られる」というムードが日本企業からも強まっていた。そして約1か月後、10月に入ってから、上海政府からメールが来た。「今回は、こちらの手配不足で嫌な思いをさせてしまいましたが、今後、上海に演奏に来たいという気になっていただけたときは、全面的に大歓迎します」という内容だった(通訳を信用すればの内容だが…)。

ドタキャンした相手に対して、怒りや賠償をぶつけるのではなく、謝罪して歓迎の意を示す、という中国人の社交術には、肝っ玉の小さいチンケな自分は負けた気がした。日本人だったら、怒りの態度しか選択肢になかろう。これは、「中国でトラブってもトラブっても中国好き」という日本人がたくさん育つのはわかる。さすが、13億人をなんとか1つの国として統治している民族の社交のスケールの大きさ。

日中関係は、日に日に悪くなっていく状況で、中国の悪口を言えば日本では賛同されるが、中国を評価する言動をすると「中国に懐柔されてる親中国派」と扱われる空気が強かったので、このときの「中国人、謝罪してくるとはたいしたもんだ。日本人より、何枚もうわてだ」という意見は身近な人にもあまり発しないことにしておいた。ただ、自分の社交術には、この中国人式を取り入れようとは思った。

もう1つ自分を知る意味でよかったのは、カトケンは、自分のスケジュールなどの一切をすべて他人に委ねて招待されることを居心地良いと感じず不安になる性格だから、VIP待遇を受ける人間に一生なれないだろう、ということ。この一線を越えられない人間は、偉い人にはなれない、ということもなんとなく感じ、自分は自分の足で地面を歩かなければ安心できない歩兵であることを再認識。

ただ、中国ツウの友人は「えっ、中国政府側から謝罪? それは、ホントにカトケン、狙われてたかもよ。で、スルリと直前ドタキャンで逃げ出されたことで、あちらもなにかの情報漏れを怖がった上での謝罪という対応かもと思える」と。いやはや、危ないもの好きのカトケンとしては、こういうことによって、中国の魅力にはまっちゃったりして…。

image by: Shutterstock

 

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