ドローン落下はホワイトハウスでも起きていた。米国でも防空体制の見直しへ

dreamnikon/Shutterstockdreamnikon/Shutterstock
 

4月22日午前10時半ごろ、東京都千代田区の首相官邸屋上にドローン(小型無人飛行機)が落下しているのを職員が発見しました。機体にはペットボトルのような容器が装着されており、微量のセシウムが検出されたとのことです。幸い怪我人はなく、安倍首相もインドネシア訪問中で官邸にはいませんでした。

首相官邸上空の警備体制は?

やすやすとドローンの”侵入”を許してしまった首相官邸。どのような警備体制が敷かれていたのでしょうか。中日新聞の記事を引用します。

首相官邸事務所の担当者は取材に「今回のような事案を防ぐための警備はなかった」と話した。警視庁は今後、官邸周辺の上空も含めて警備態勢を検討する。

日進月歩の進化を遂げるドローンの来襲は、まさに”想定外”、何の手も打ってこなかったということが白日の下に晒された格好です。

ここでひとつ浮かぶのは、ドローンに対する法的規制はどのようになっているのかという疑問です。NHK NEWS WEBによると、

無人機を巡っては、航空法に基づいて、空港の周辺で飛ばす場合に国の許可が必要なほか、航空機の飛行ルートにかかっている場合には150メートル以上、それ以外では250メートル以上の高度で飛ばす場合には国への通報が必要となります。一方、それ以外には低い高度を飛行する場合の運用のルールや、飛行の安全について、航空法に基づく取り決めはなく、総理大臣官邸の上空でも少なくとも200メートル以下での飛行についてルールは設けられていません

ということは今のところ低空飛行に関しては法的な縛りはなく、首相官邸であろうが国会議事堂であろうがその上空は飛ばし放題ということになります。

ワシントンD.C.の防空危機管理は?

それでは、ホワイトハウスや連邦議会議事堂を擁するワシントンD.C.の防空危機管理はどのようなものなのでしょうか。軍事アナリストの小川和久さんがメルマガ『NEWSを疑え!」の2015年4月15日特別号で、以下のように記しています。

米連邦航空局(FAA)は、ワシントン・ナショナル空港の無線標識から30海里(56キロ)以内を防空識別圏(ADIZ)と定め、進入する自家用機や社用機に対し、飛行計画を事前に電話で申請することなどの条件を課している。

さらにFAAは、ナショナル空港無線標識から13‐15海里(24‐28キロ)以内の飛行制限区域(FRZ)には、域内の飛行場を利用する、身元調査済みの者が操縦する航空機にのみ進入を許可している。

ワシントンD.C.都心のホワイトハウスや連邦議会議事堂を含む区域と、海軍天文台(副大統領公邸)周辺は、民間機の離着陸と高度5400メートル以下の飛行が禁止されている。

ワシントンD.C.防空識別圏(ADIZ)と内部の 飛行制限区域(FRZ)にある空港と軍用飛行場  (2007年8月30日付FAA航空情報)

ワシントンD.C.防空識別圏(ADIZ)と内部の 飛行制限区域(FRZ)にある空港と軍用飛行場 (2007年8月30日付FAA航空情報)

この防空識別圏は地上レーダーのほか、係留気球システム「JLENS」からも監視されている。JLENSは「統合対地巡航ミサイル防衛上空センサー網」の略称。高度3000メートルにとどまる全長74メートルの気球2機1組で、1機はVHFレーダーで最大半径550キロの全周を監視し、1機は対空ミサイルなどを誘導する。ワシントンD.C.の北東100キロ、陸軍アバディーン性能試験場に係留されている。

JLENS係留気球 (2013年、ユタ州ダグウェイ実験場、米陸軍撮影) 

JLENS係留気球 (2013年、ユタ州ダグウェイ実験場、米陸軍撮影)

とのことで、200メートル以下の飛行が可能な日本の首相官邸とはまったく異なる規制がなされています。では、これに違反した航空機に対してはどのような措置が取られるのでしょうか。同じく小川和久さんのメルマガによると

防空識別圏の規則に違反し、地上の管制に従わない航空機があれば、アンドルーズ空軍基地から5分以内にF-16戦闘機が緊急発進する。低速の航空機に対しては、狙撃銃を搭載した沿岸警備隊ヘリがナショナル空港から発進することもある。最後の手段として、中高度・低高度の地対空ミサイルも配備されている。

空軍の戦闘機、沿岸警備隊のヘリコプターはおろか地対空ミサイルまでも配備されているとのことで、そのスケールの大きさからはアメリカという国の危機管理意識の高さがうかがえます。

そんなワシントンD.C.で……

これだけ厳重な規制が敷かれているワシントンD.C.上空ですが、今年1月26にはドローンがホワイトハウスの敷地内に墜落、さらに4月15日にはオートジャイロの連邦議会議事堂正面への違法着陸を許すなど、今年だけでも二度の大失態を犯しています。両機とも低速で飛行していたためにレーダーが捕捉できなかったことが原因とされていますが、小川さんはこれについて「意外な盲点が明らかになったことで、ワシントンD.C.の防空体制は抜本的な見直しを迫られることになった」と述べています。

翻って日本を見れば、首都上空の警備は手薄としか言いようがありません。強固な防空識別圏が設定されているワシントンDCでも上述のようなエラーが起きています。今回の首相官邸への”不審機の侵入”のような事件・事故を防ぐためにも、一刻も早い規制強化が望まれます。

info:NEWSを疑え!

print
いま読まれてます

  • ドローン落下はホワイトハウスでも起きていた。米国でも防空体制の見直しへ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け