「相続放棄」と「何ももらわない」は違う。プロが教える遺産相続の話

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遺産相続で問題になることのひとつに、「相続放棄」と「何ももらわない」という話しがあります。多くの人々は、相続放棄と何ももらわないことを混同してしまいがちです。メルマガ『こころをつなぐ、相続のハナシ』の著者で行政書士の山田和美さんに、その違いについて教わりましょう。

「相続放棄」と「何ももらわない」のちがい 

突然ですが、「相続を放棄する」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。おそらく大半の方が、「何もいらない」と言うことといったイメージをもたれると思います。

実は、法律でいう「相続放棄」と日常の言葉で使われる「放棄」とは少し意味がちがいます。では、どう違うのでしょうか。

法律でいう「相続放棄」は、「最初から相続人ではなかったことにする手続きです。つまり、「私はプラスの財産ももらわないし、借金も引き継ぎませんよ」ということです。

原則として相続では故人のプラスの財産のほかに借金も引き継ぐので、亡くなった方に借金があった場合は、のこされた相続人は支払う義務があります。そこで相続放棄をすると、亡くなった方がお金を借りていたとしても、返す義務はなくなる、ということです。そのかわり、プラスの財産も引き継げなくなってしまうので、判断には注意が必要です。

なおこの相続放棄の手続きは、原則として、亡くなった事を知ってから3か月以内にしなければなりません。そしてこれは「最初から相続人ではなかった」というとても強い法的効果を持つので、家庭裁判所での手続きが必要になります。

一方で、借金などがあるわけではなく、単に「何ももらわない」という場合には、この相続放棄の手続きは必要ありません。その場合は、そういった内容の遺産分割協議書をつくれば良いだけです。

例えば、「被相続人Aの財産はすべて相続人Bが相続する」と記載して、それに納得しています、という証に、相続人全員が実印を押して、印鑑証明書をつければ、それで良いのです。もちろん、家庭裁判所は関係ありません。

このことは、相続の専門家であれば知っている事だと思いますが、一般の方は、結構な割合で混同しています。そのためたとえばご相談の際に、「相続人の中で1人だけがもらうということで、全員が合意しているので、そのように手続きをしたい」という意図で、「相続放棄の手続きがしたい」と言われることは、かなり多いです。

専門家であれば、それを文字通りに受け止めるのではなく、「この方がしたいのは、本当に法律上の相続放棄なのか?」と真意を確認していく必要がありますね。

以前実際にあった話ですが、ある相続人様がいわゆる「士業」の方の無料相談で、「放棄したい」と言ったところその言葉を文字通りに受け止められ、相続放棄の書類の書き方などをお伝えされたことがありました。

結局相続人様は時間のない中、頑張って言われた通りに何か月もかけて書類をご自身で作成して、家庭裁判所まで持っていって、それでも不備があって完了できず、かなりお疲れだったときに私にご相談頂きました。

当初は「放棄の手続き」と言われていましたが、話をお伺いすると、単に「何ももらわない」という相続人がいるだけの話。借金もありませんし、その他の特別な事情などもなし。家庭裁判所での「相続放棄」をする必要は、一切ありませんでした。

結局、手続きをご依頼頂きスムーズに完了しましたが、本来であれば、もっとずっと早く手続きが済んでいたはずです。それを必要のない苦労をして、大変な想いをされて、時間をかけて…。

私はそのアドバイスをされた方を直接存じ上げませんし、もしかしたら相続人様の記憶も曖昧なのかもしれませんので何とも言えませんが、もし事実だとしたら、とても悲しい話だなと思います(そもそもそのご相談を受けた時点で相続開始から3か月以上経過していて、期限的にも相続放棄はできなかったので、色々と不思議なのですが…)。

日常のことばと法律の言葉はすこしニュアンスが違うこともあるので混同してしまいがちです。

相続放棄とは何なのか?

このメルマガをきっかけに、知っておいて頂ければ、幸いです。

また、ご相談にあたられる方は、ご相談者様が「本当は何がしたいのか、本当にその手続きは必要なのか」と、意図を汲んでご相談にあたられると、誤解のない、スムーズな相続のお手伝いができるのかなと思います。

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