「オリバー君騒動」「アントニオ猪木対モハメド・アリ戦」「国際ネッシー探検隊」など、昭和の民衆を熱狂させた伝説のプロデューサー康芳夫さん。彼はまた、「戦後最大の奇書」と言われる『家畜人ヤプー』の全権代理人も務められているのですが、その奇書との出会いは作家の三島由紀夫の紹介だったのだとか。今回は、三島とヤプーの「数奇な運命」について語ります。
三島由紀夫が発見した『ヤプー』
西独、ヴィスバーデンに近いタウス山に馬で登っていた、23歳の日本人留学生・瀬部麟一郎と、その恋人、東独の名門の出で天性の美貌と才気により「大学の女王」と呼ばれていたクララ・フォン・コトヴィッツ。彼らが、たまたま、事故で不時着した宇宙帝国『EHS(イース)』の航時遊歩艇(タイム・ヨット)に出会ったことで、この物語、三島由紀夫や埴谷雄高が「天下の奇書」と折紙をつけた『家畜人ヤプー』は始まるのである。
航時遊歩艇にはイース帝国女性貴族のひとり、ポーリンが乗っていた。彼女は飛行中、舌人形を使っていて、思わずエクスタシーに達して墜落したのである。
麟一郎とクララに助けられて意識をとり戻したポーリンは、裸の麟一郎と乗馬服姿のクララを見て、そこをイース帝国の星の1つだと誤解してしまう。イース国ではヤプーは裸で、貴族の女は馬に乗るとき、乗馬服を着る習慣だからである。
ポーリンの連れていた畜人犬(ヤップ・ドッグ)に攻撃され麟一郎は負傷する。そして2人はタイム・ヨットに乗せられ、本国星カールに向かう。途中、麟一郎は皮膚窯の中に入れられ、ヤプーにされてしまう。一方、クララは肉便器の使用などによって徐々にイース帝国の風習に慣れていく。
カールに着くと、麟一郎は本格的なヤプーに仕立てられる。去勢され、かつ「赤クリーム馴致(レッド・クリーム・コンバーション=イース国の貴族女性の生理時の血で作ったクリームであり、これらを与えることによって、他のヤプー同様、白人の排泄物を喜んで食べるようになる)」をされたのである。そして麟一郎はクララの家畜として生きることになる。
やがてクララはポーリンたちと共にタイム・ヨットに乗ってまた地球へ遊びに行く。途中タイム・ヨットは何世紀か前の地球面の日本へ降りる。そこではポーリンたちの貴族仲間であるアンナ・テラスやスーザン・レイノオが古代の神々と同じょうな服装をして遊んでいた。麟一郎はアンナ・テラスが、日本人が神としてあがめている天照大神であり、スーザン・レイノオがスサノオの命であって、彼らがタイム・ヨットで日本へ遊びに来たときのことが、日本の神話になったということを知る――。
これが『家畜人ヤプー』の、ごく大ざっぱなストーリーである。徹底したマゾヒズム小説、黄色人蔑視思想に貫かれた小説であり、全ページにわたって作者のペダントリィがちりばめられている。