この数字を出すと、「だって、東京だからでしょ。」という声が聞こえてきそうな気がしてならない。東京は治安が悪い、繁華街が多い、人口が集中している。だからその数字が多いのだという意見もあろう。
そうした側面は確かにあるかもしれない。
ひねくれて言えば、人口が1万人に満たない地域で8千件のいじめは発生し得ないからだ。人口が1万人であれば、人口ピラミッドから考察すれば、子どもの数はその1割程度しかないだろう。
しかし、東京だから多いというのは、大きな間違いである。
2015年8月、文部科学省は、いじめのアンケート調査のやり直しを通知した。つまり、まともに回答をしていない地域があったということなのだ。
この件は、岩手県矢巾町の男子生徒が自殺した件を受け、この地域がいじめがなかったとしていたからに他ならない。隠蔽があったという判断から再調査となったと世間では騒がれていた。
それを考慮に入れれば、都道府県教育委員会が出す数字は氷山の一角であって、その水面下には重大な事案が隠されていることもあると考えるのが妥当であろう。
私は講演会を含め、自分も保護者の一人であるという点もあり、様々な保護者との交流があるが、多くの保護者はあまりいじめに対して危機感を持っていないことがわかる。
それは、よくある
「うちの子は大丈夫。」「うちの学校は大丈夫。」シンドロームである。
読者の中にも、また、読者の周りにも、この根拠なき大丈夫シンドロームに陥っている人は少なからずいることであろうと思うが、この発生率、認知件数から、冷静な判断ができる大人であれば、データが示す通り、いじめは頻繁に発生している現実があり、表面化する数も多いと感じるはずだ。
その上で、何を根拠に「大丈夫だと」判断できるのであろうか。
通常、何らかの問題が多重に発生している事実があっても、大丈夫だと判断するに至るには、何らかの有効な対策が実施されていることを認知しているからだと考えられるであろう。
まあ、有効な対策が実施されれば、問題は相当数で解消されるはずだから、こう考えるにも矛盾はあるが。
では、特に保護者は、自身の子が通う学校で、いじめに関して有効な施策が具体的にどう実施されているのか考えてみてほしい。
子がいない大人は、学校全体でいじめについて、どのような有効な対策が具体的に実施されているか知っている限りで考えてほしい。ネットで検索しても構わない。
具体的かつ実施されていて効果が実証された有効な対策はあるか?
仮にあるとするならば、どこでいつから実施されているか?よく調べてほしい。
一部、強力な有効策はあるが、その実施をしている学校は、私が知る限り1校のみ。
その他、確かに実績と言える効果を上げている対策や予防法もあるが、その実施数は、極めて少ない。
つまり、多くの学校で、何らかのいじめに対する対策は行われているが、それは、防止委員会の組織図を作った、基本方針を宣言した、アナウンスは広報紙などでしているというレベルであり、実行したと評価できる活動はごく僅かであるのだ。
またその一方で、保護者の立場で、学校がやっているいじめに対する具体的な対策を、しっかりと答えられる人は、全体の数%にしか満たないであろう。