民法94条の例:もし、三浦さんが悪い人だったら
三浦:民法の94条、「虚偽表示」っていうものがあるんですね。
「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」
……これ、「無効」とかも法律用語ですよね。
河野:そうですねえ、「無効」と「取り消しうる」の違いとかね。
三浦:そこ、全然違うんですね。
河野:ところが、だんだん似てきちゃっている場面もあるからややこしいんですよね。
「取り消し」というのは「取り消す」というだけ。所詮、人が取り消せるんだからそれまでは有効。
三浦:そうそう、「無効」っていうのは「そもそも効力がない」ってことなんですよね。だから全然日本語の意味と違うよね。もう一回いきましょう。
河野:「取り消し」っていうのは「取り消すまで有効」。有効だから取り消すわけですからね。
三浦:だから前にさかのぼって権利を消失させることはできないってことですよね。
河野:ところがそうやって思うからまたややこしいことになっているんです。
三浦:ああ、そうなんですね。例えばこの94条。相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効とする。これはどういう意味ですか?「相手方と通じてした」っていうのは?
河野:例えば、僕と三浦さんで悪だくみするとします。
このパソコンを、三浦さんに「このパソコンはもらったことにしてください、借金取りに取られそうだから」とか言ったとします。
三浦:「いいよー」って僕が言ったってことですよね。
河野:はい。そしたら、本来二人の間では合意しているんだから、本当に三浦さんがもらったことになるはず。なんだけれども、無効になるんです。あげたことがなかったことになる。もともとない、って言い方もできますけどね。
三浦:「但し書き」っていうのは94条の第2項のもの。「ただし」っていうのと同じ意味ですね。
「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」
これはどういう意味ですか?「意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」っていうのは?
河野:例えばパソコンを本当に僕が三浦さんにあげたものだと思っている人がいます。三浦さんが悪い人で、山本さんに10万円で売ってしまった、と。
三浦:これって取引の契約の成立になるんで。
河野:そうなると、僕は当然自分のものなんだから返してくれと山本さんに言うのだけどそれはできない。なぜなら、山本さんは知らなかったから。
三浦:嘘、つまり虚偽表示で売ったものだと知らなかったので、今回でいうと河野さんは海鈴に対して「返して」って言えない。なぜなら海鈴は最初から知らなかったから。
……これが、「善意の第三者に対抗することはできない」っていうもので、権利とかを対抗できないんですよ。言うことができない、ということです。
お客様C:それを知らないで返してって言われたら、山本さんは返してしまいますよね。何も知らないから。
三浦:普通の人は返しちゃいますよね、おっしゃる通りです。でも、返さなくていい。
お客様C:返さなくていいっていうのは知りようがない、知識がないっていうことですよね。
三浦:そうですね、知らないだけなので。
河野:例えばそれで山本さんが、仮に三浦さんから10万円返してもらえなかったとしたら10万円損する。
三浦:だから、悪くないのに知らない方は損しちゃうってことになるから、そちらを保護しなければならない、というのが法的な作り方なんですね。
お客様C:いつもその説明を誰もしてくれないですよね……。
三浦:そうなんだよね、これを知らないとね。
河野: 基本的には、法律を知らないのが悪いって日本の法律はなっているんです。
三浦:もし「悪意」だったとしたら対抗できるんですよね。
河野:知ってて10万円払ったんだったら自分のせいじゃんって話になりますからね。
三浦:そういうことになってくる。たった2行なんだけどこの条文にはリーガルマインド、法的用語で分からなければならないものが入ってますね。
河野:善意と悪意をどうして区別するかっていうと、まさに知らずにお金払っちゃったりすることってあるからなんです。
三浦:うん。それで誰を保護するかって話なんですよね。
河野:この例でいうと僕と山本さんのどちらが悪いかっていったら微妙なところで、一番悪いのは三浦さんって話になるんです。ただ、三浦さんに請求できないとしたらどちらが被るかって話で、この場合でいったらそれは三浦さんと組んでそもそも借金取りから免れようなんてことを考えた僕が悪いだろうと。