【座談会】世の中の仕組みがよりクリアになる、超面白い「法律」の話

 

三浦:では民法第94条の説明を、もう一回いいですか。

河野:パソコンを僕が三浦さんにあげたことでも売ったことでもどちらでもいいんですけども、三浦さんに一回渡したとします。

三浦:それが偽りだったってことですよね。

河野:ところが、僕が三浦さんと組んでいるのは芝居だった、という話ですね。それなのに三浦さんが山本さんに売っちゃったと。山本さんがそれを知らなかったとしたら僕も三浦さんにある意味騙されたようなものですよね。

三浦:山本が「善意」だったので10万円払っちゃっているから、10万円の損ですよね。だから返してって言っても知らない場合は返さなくていい。これが返してって言った時に対抗できないって意味ですね。

河野:もともと僕と三浦さんとの関係が無効なんだから、この理屈で言ったら三浦さんはこのパソコンについて何の権利も持っていないわけですよ。

そうならば、山本さんだって僕の知らないところで三浦さんがいきなり「僕のパソコンを山本さんにあげるよ」って言ったってそんなの意味あるわけない。だからそれと全く同じことになるはずなんだけど……。

三浦:「誰を保護するか」っていうのが法律の考え方ですよね。

河野:どっちかに決まっていなきゃいけないということが大事なんですね。知らなければ返さなくていいってわかっているから山本さんも買えるって面があるんです。そうじゃないと、三浦さんが本当に前の人(河野さん)からパソコンをもらっているか確認しなきゃいけないわけでしょ。でも確認なんて怖くてできないですからね。

三浦:それは売買できなくなりますもんね。

河野利益衡量っていうのは、僕の権利と山本さんの権利を比べてどっちがより保護に値するかっていう話で、理屈から言ったら本当はどちらも保護されないといけないんです。どっちも三浦さんに騙されたり裏切られたりしているから。

三浦:この例、なんか嫌な立ち位置だったなあ(笑)。

これとの違いを見るために面白い情報がすぐ下にあって、今調べられる人調べてほしいんですけど、民法の第96です。これは、今度は無効じゃなくて取り消すことができるって出ていますよね。

「第96条1項:詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」。

これを使ってもう一回考えてみましょう。

河野:さっきのケースで、三浦さんが僕に対して「パソコンが中古品で使い物にならないから」といって僕からパソコンをだまし取っていった形にしましょう。上手いこと言って下取りしてあげるよ、とか言って。

三浦:前のケースだと二人が組んでいたけど、今回は僕だけが騙すってことね。

それか、強迫したってパターンもありますよね、僕が。

河野:ちなみに、「きょうはく」って字は「強迫」って書くんです。これも法律用語なんです。

三浦「強迫」と「脅迫」の違いってあるんですか?

河野:違いとしてはあんまりないんですけど、持ってきた条文が違うんですよね、刑法と民法で。いろんな国から日本は法律を輸入したので。

三浦:ジャイアンみたいに強迫して取ったとしたらどうなるんだ。……「詐欺又は強迫による意思表示」、これも法律用語ですよね。

河野:「意思表示」は、契約のことだととりあえず思ってくれば大丈夫です。まあ、約束ですね。

三浦:意思表示は……取り消すことが出来る!

河野:例えばね、三浦さんが仮にパソコンを千円で下取りしますって言ったとしましょう。しかしそのパソコンが本当に壊れていた。千円の価値すらなかったとしましょうか。

こういう時だったら僕はむしろそのままにしておいてよ、って言いたいわけです。千円だって高いくらいですから。そしたら、それを三浦さんが千円は騙しとったものだから無効で、なんて言ったってどう考えたっておかしいでしょ。

だから、取り消すことができる。どうするかは、僕が決めていい。僕が取り消せば返してもらえるし、取り消さばければお金はそのまま持っておける。

三浦:これか。「前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」。

河野:ここで注意すべきは「詐欺による」ってあるでしょ。で、1項の方では「詐欺又は強迫による」って書いてある。強迫だけ抜けてるんですよね。

三浦詐欺の場合、取り消しは対抗できないけど、強迫の場合は対抗できるって意味ですね。

河野:本当だったら詐欺または強迫って書くはずでしょ。なのにあえて書いていないってことは意味があるんですよ。

三浦:そういうことは……詐欺は騙された方にも若干の責任はある。

河野:はっきり言ってしまえば、仮に善意だったら、山本さんだってある意味騙されているようなものですよ。

三浦:でも、強迫の場合だと……?

河野:それはしょうがないじゃないですか。脅されたらね。これは判断としてはみんなが納得するかっていうとまあ、どうなんですかね、気の弱いのだって本当は優柔不断なのが悪いんじゃないかって人がいるのかもしれない。

三浦:だけれども、強迫の方が河野さんがかわいそうだろうということなんですね。詐欺で騙されたのは油断していたんじゃない、みたいなところがあるんですね。これだと法律用語がいい具合で入って来てる。

河野:これは一番基本で、わかりやすいかなあ、と思います。

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