さよならイギリス。EU脱退は「衆愚政治」のなれの果て

 

国民投票でEU離脱を選択したイギリス。この結果に世界は大きく揺れていますが、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で高野さんは「英国の世紀の愚行」と強く批判するとともに、ナチス政権が取った政治手法などを例に挙げながら「国民投票」の危うさについて論じています。

EU脱退という英国の世紀の愚行

「トランプの躍進ぶりを目の当たりにした米有権者は、英国のEU離脱を主張する陣営に、不気味なほどの既視感を覚えるかもしれない。そこにあるのは、ナショナリズム、美化されたノスタルジア、エリートへの不信感、移民が犯罪を持ち込み雇用を奪うという警戒心だ。これを「トランプ抜きのトランプ主義」とでも呼ぼう」と、21日付のロイター通信の論説は述べた。

「もし英国人が欧州から去るほど愚かなら、米国人はトランプを大統領に選ぶほど頭がおかしいのかもしれない」と、13日付の英フィナンシャル・タイムズも書いていた。

実際、米国のトランプ現象は大西洋を越えて津波のように英国に押し寄せ、その結果、英国民は6月23日に行われた国民投票でEUから離脱することを選択した。

資本主義の行き詰まり

米英の国民が馬鹿さ加減を競い合っているかのようなこの惨憺たる有様は、一言でいって、資本主義の行き詰まりの現れである。

水野和夫が言うとおり、「資本主義は『中心』と『周辺』から構成され、『周辺』つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって『中心』が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステム」にほかならない。

ところが、20世紀のグローバリゼーションを通じてもはや地球上に未開拓の地理的フロンティアがなくなって、本来であればそこで世界は資本主義に代わるシステムについて熟慮し始めなければならなかったが、電子的金融空間に辛うじて救いを見出してそこに新たな利潤の機会を見出すことで一時的な延命を図った。しかしそれもリーマン・ショックで終わった。すると、それでも何でも利潤を上げ続けなければならない強欲資本主義は、何と、これまで飼育してきた本国の中間層を食いつぶし始めた。それが先進国共通の新たな格差、すなわち「1%vs99%」問題の正体である。

19世紀以来、世界資本主義の『中心』にあって、他の誰よりも『周辺を貪って繁栄を楽しんできた英国と米国で、真っ先にこの中間層崩壊のストレスが爆発するのは当然のことで、そのナマの怒りや不満に政治的な捌け口を与えようとするのがトランプ主義である。

既存の支配層の中間層管理の手法は、経済的には、『周辺』から得た利潤の一部を分配してほどほどに豊かな暮らしを保証し、政治的には、普通選挙権などを与えて何年に一度かの選挙でほどほどにガス抜きさせて不満が溜まりすぎないようにすることだった。しかし、崩壊に瀕した中間層は、今までそのほどほどの豊かさを与えてくれていたのが『周辺』から富を簒奪するのが上手だった資本のお陰であることを知らないし、今その富の供給が止まったのも資本の都合であることにも気づいていない。そこで、移民や難民やその中に隠れているかもしれないテロリストなど目先の敵を見つけて鬱憤を晴らそうとする。その時、ほどほどのガス抜きの手段であったはずの民主主義は制御不能に陥って、大衆的な情動が既成政党による支配秩序を破壊する回路となりかねない。

もちろん、既成秩序など壊れてもいいのだが、それが後先を考えない感情の爆発の結果であるというのは、危険すぎる。

だから、資本主義の危機は民主主義の危機でもある。英国民投票が示したのはそのことである。

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