さよならイギリス。EU脱退は「衆愚政治」のなれの果て

 

坂井豊貴=慶応大学教授は『多数決を疑う』(岩波新書)で、「満場一致と過半数の間には無数の分け方がある。ルソーによる原則のひとつには『重要なものほど満場一致に近づくべき』があるが、具体的には何割での可決を認めればよいのだろうか」と問い、プリンストン大学のアンドリュー・カプリンらが開発した「64%多数決ルール」という数理モデルを紹介している。

日本国憲法第96条は、憲法の条文を変えるについて、衆参両院で3分の2以上の賛成国民投票で過半数の賛成が必要と定めていて、この3分の2ルールは、まさに「64%」に近く、非常に厳しいハードルのように見えるが、実は違うと彼は言う。衆議院で小選挙区制が導入されたことによって、例えば14年12月の総選挙では自民党は全国の投票者の48%の支持を得て76%の議席を得た。また参議院は小選挙区制ではないが、1人区や2人区の割合が高いため、似たようなバイアスがかかり、13年7月の参院選では自民党は選挙区で43%、比例区で35%の得票率でありながら54%の議席を得ている。

ということは、現行96条の下では、過半数の有権者が望めば選挙で3分の2以上の議員を衆参両院に送り込むことが出来るので、3分の2の規定は事実上、効かない。従って、両院が改憲を発議した後に行われる国民投票で64%の可決ラインを設定しておかないと、同条は何の歯止めにもならない。

公職選挙法による小選挙区制が、上位にある憲法96条を浸食してしまっているというこの坂井の指摘は重要で、この際、大いに議論すべきことである。

 

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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