日本征服の旅もいよいよ大詰めを迎えた、『ママチャリで日本一周中の悪魔』こと大魔王ポルポルさん。天橋立のある京都府宮津市の宿で一泊した後に向かったのは、あの豊臣秀吉ゆかりの地である滋賀県長浜市。なんでも大魔王様、そこで“シイタケに襲われた”とのことですが……。
滋賀・長浜の名物うどん「のっぺいうどん」とは?
ママチャリで日本一周をしていると、常人では理解し難いことが度々起こる。
例えば、朝起きたらいきなり男性に性的な意味で襲われそうになっていたり、我輩の顔を見て急に怒りだしたニンゲンがすぐさま缶詰のスパムをくれたり、見ず知らずの米国人にキリスト教の教えを勧められたり……。日本最西端の地では、スマホをゲロに水没させるという体験も経験した。
そんな我輩が今回出くわした奇怪な出来事……それは「シイタケに襲われた」ことだ。
事の発端は滋賀県長浜市で食べた、とある名物にあった。我輩はその名物を食べるために、天橋立のある京都府宮津市から滋賀県へ向かって、空腹と暑さに耐えながら3日3晩、山道をママチャリで走り続けていた。
「ちっ……。空腹と猛暑でゲロを吐きそうだ」
気が狂いそうになりながら、ひたすらママチャリを押して歩く我輩。するとやがて、目の前に広い水面が現れる。滋賀県に君臨する日本一大きい湖・琵琶湖だ。
それにしても……とてつもなく広い。ここは海か、と思ってしまうほどだ。おまけにこのあたりの山道では、なぜかサルをよく見かける。滋賀県はまるで『猿の惑星』のようだ。
そんなサルたちを見るたび「……サル鍋が食べたい」と思ってしまうほど、我輩は空きっ腹だった。
「ガッハッハッハッハッハ!! 我輩の胃を満たす素晴らしい食べものはないのか!!」
琵琶湖に向かって叫ぶ怒りの声も、サルしか聞いていない。我輩は孤独な大魔王なのだ。
……そんなことを考えながら、ひたすら道を進むことしばし。我輩は目的の地である長浜市に、ようやくたどり着いた。
琵琶湖の北岸に位置する滋賀県湖北地方は、戦国時代の古戦場が点在するなど、まさに歴史の宝庫だ。特にこの長浜は観光地として賑わっており、豊臣秀吉が建てた長浜城などの様々な名所があり、また春の曳山祭りも秀吉の時代からの歴史を誇る祭りとして有名である。
そんな長浜に来て、食べずに帰ると後悔必至だという食べ物が、巨大なシイタケが入っているという「のっぺいうどん」だ。
我輩はその「のっぺいうどん」を食べるべく、空腹を抱えながら街中をくまなく探した。大通り、商店街、駅の近く……。
「どこだ……。どこにあるのだ!!」
闇のオーラをまといながらママチャリで走り回る我輩に、いろんな意味で恐怖を覚え、固まる長浜のニンゲンたち。……こうして我輩は着々と、長浜市を「ながは魔市」へと変えていく。
そんな感じで商店街をウロウロしてると、この街には思いもかけないようなオモシロい店が、たくさん存在することに気付く。……その最たる例が、海洋堂フィギュアミュージアムだ。
知る人ぞ知るフィギュアの有名メーカー・海洋堂の博物館が、なぜこの長浜に……。腹が減っていてそれどころではなかったので、その理由を探ることはできなかったが、機会があればゆっくりと訪ねてみたいものだ。
また、ご当地ブランド牛・近江牛を使ったたこ焼き屋、さらに若者向けのオシャレな喫茶店も多く存在するなど、この長浜は高齢者も若者も楽しめる街なのだ。
「ガッハッハッハッハ!! ここはオモシロい町だ。素晴らしいではないか」
そんな独り言を言いながら歩いていると、真っ白な暖簾に「茂美志゛や」と書かれた、とても貫禄のあるお店を見つけた。スマホで調べると、それは「もみじや」と読むようで、お目当ての「のっぺいうどん」も食べられる模様。しかも食べログ評価は3.5と結構高い。
「……こ、これは行かなくては!」
我輩はさっそく店内に入ってみることにした。
「ガッハッハッハッハッハ!! 我輩は大魔王ポルポル。貴様ら……」
しかし、店員は我輩の異様な姿に全く驚くことなく、「どうぞ、こちらへ」と席へと案内する。おそらくメディア慣れしているのだろうか……むしろ我輩のほうが若干動揺して、「あ、どうも突然すみません」と店員に付いていく。
我輩を他のお客さんと隔離したかったのだろうか。店員は店の奥の奥にある、あまり目立たない席に我輩を導いた。すると、そこには壁一面にサイン色紙が飾られていた。
「サイン……多っ!!」
きっとVIP席へと案内されたのだ。これには我輩も感心した。
「さ……さすがは、話の分かるニンゲンだ。ガッハッハッハッハッハ!!」
上機嫌となった我輩は、さっそく「のっぺいうどん」を注文した。
「あ、のっぺいうどん貰えます? これです、これ」
ハイと答えて、厨房へと戻っていく店員。悪魔な我輩を前にしても、顔の表情すら変えない店員に、逆に怖くなりながら待っていると、10分ほどでお目当ての「のっぺいうどん」が運ばれてきた。
「シイタケでかっっ!!」
器の真ん中に王者のように君臨するシイタケ。この料理のメインは、果たしてうどんなのかシイタケなのか、どっちか分からなくなるほどだ。
「ひ、ひと口……いや、ふた口でも食べきれない大きさではないか!!」
チャンピオン級のシイタケは、我輩の口より大きいサイズ。悪魔がシイタケに襲われた瞬間だった……。
「のっぺいうどん」には、このシイタケのほかに湯葉、蒲鉾、もみじ麩、みつ葉、すりおろし生姜が具として入っている。お出汁はとろーり餡かけ状だ。
我輩はやけどをしないよう注意しながら、お出汁をひと口すする。
「う……うまい!」
かつおと昆布の風味が香る、いわゆる関西風の上品な出汁の味わいが身体中に染み渡る。生姜も効いていて、ひと口啜るだけで全身がポカポカと暖まってくる。
続けて、「のっぺいうどん」の主役であるシイタケに箸を伸ばす。見た目に違わず肉厚なシイタケに噛り付くと、噛むほどに旨味がじんわりとにじみ出る。
「ガッハッハッハッハ!! なんと美味たる味なのだ。素晴らしい!!」
夢中になって食べ進めること5分ほどで、器はすっかり空になった。さすがは長浜が誇る名物料理……我輩は大いに満足して、店を後にしたのであった。
しかし、である。我輩はまだまだ腹が減っている。
腹がへっては戦ができぬ……。我輩は再び商店街をウロウロ徘徊しながら、何かウマそうな食べ物はないか探索する。
すると、とある店に「サラダパン」と書いている、謎の食べ物を発見した。
「サ、サラダパンだと!?」
いかにも不味そうなネーミングである。そして、その隣には「カステラサンド」なる食べ物も並んでいることに気付いた。
「か、変わったパンたちだ。魔界にもこんなものはないぞ。ガッハッハッハッハッハ!!」
ご当地パンといえば、以前神戸で「カルボナーラパン」というものを見たことがある。ひょっとして、関西地方は奇妙なパンの宝庫なのかもしれない……。そう思いつつ、その二つのパンを買って食べてみることにした。
まずはカステラサンドだ。
「あ、あまい……」
カステラのようにフワフワした食感で、パンとパンの間にはうすーく生クリームが挟んである。とはいえ、決してクドイわけではなく程よい甘さで、甘党の我輩も納得の味わいだ。
続けて手にしたのはサラダパン。
見た目は普通のコッペパンのようだが、中にはたくあん漬けとマヨネーズが具として入っていた。……こうして文字にすると、かなり気持ち悪そうな組み合わせに見えるが、実際に食べてみると、これが意外にも美味なのである。おやつにも朝ごはんにも食べれそうな、素晴らしいパンなのだ。
「ガッハッハッハッハ!! 予想以上にウマかったな。これは魔界へ報告しなければ!!」
長浜の名物どもは、我輩の胃袋を大いに感動させた。
「この長浜の街は、美味たるものが多すぎる。甘く見ていたわ。ガッハッハッハッハッハ!!」
この美食の街をぜひとも征服したいと思ったものの、我輩には一刻も早くゴールを目指さないといけないという使命があり、生憎その時間はなさそうである。
我輩は後ろ髪を引かれる思いでママチャリに乗り、ゴールである東京へと向かって再び進撃を始めた。
DATA
茂美志゛や
住所:滋賀県長浜市元浜町7-15
営業時間:10:30~19:00
定休日:火曜日
『大魔王ポルポルの日本征服の旅』
著者/大魔王ポルポル
日本一周の旅をしている大魔王ポルポルである。旅の裏側、隠れた小話など話したいことは盛り沢山!! だがしかし! タダで公開はできない。メールマガジンで日本のいろいろなことを掲載するのだ。メルマガに記載のアドレスに悩みや質問を送ってくれればメルマガで公開回答するぞ! ガッハッハッハ!!
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