大前研一「ドローンが生み出す新たな市場。進化する位置情報技術」

2016.07.20
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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【連載第3回】スマートフォン、SNSの普及に加え、測位技術の発展、さらにはドローンなどの新技術出現によって「位置情報ビジネス」が飛躍的に進化している。そう、世界は今「位置情報3.0」時代に突入しているのだ。 本連載では位置情報を活用したビジネスを取り囲む様々なテクノロジーの現状を大前研一氏が解説します。

小型無人航空機「ドローン」の底力

ドローンは中国企業DJIが独占状態

2020年には約62兆円になるとも予測される位置情報ビジネスの可能性は、ひとえに位置情報技術の進歩あってこそといっても過言ではありません。

現在の位置情報はさまざまな技術・要素によって支えられています。まずはGPS。

ビーコンなどの近距離センサー技術に、Wi-Fi、カメラ画像、Kinect、可視光、加速度、ジャイロ 、地磁気を利用した屋内における測位技術。それらに、クラウドデータをはじめ膨大に蓄積されたデータなど、さまざまな要素が連携します。

近年、こうした位置情報技術をスマホやタブレットを通して利用し、その進化に目を見張ってきた私たちですが、さらなる進化形デバイスとして今世界を賑わせているのは、なんといっても「ドローン」でしょう。

ドローンはもともと、軍事用に開発された小型無人航空機です。私流に言うならば、“電動竹とんぼ”といったところでしょうか。

このドローンの世界市場は、2014年時点で約650億円にまで拡大しています。この市場シェアの70%を握り、独占しているのが中国のDJI です(図-6)。

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図ー6 ドローンの世界市場シェア

 
DJIトップのフランク・ワン・タオ氏は1980年、中国・杭州に生まれ、香港科技大学在籍中に同社を立ち上げました。いわゆる“ドローンマニア”なわけですが、日本では2015年4月に首相官邸の屋上にDJIのドローンが落下した際に注目を浴びました。この出来事を受けてDJIは早速、首相官邸や皇居周辺を飛行禁止区域とするシステム変更を行ったようです。

ほぼDJI独占のドローン市場ですが、他にはフランスのParrot 、米国の3D Robotics などがあります。
3D Roboticsの共同創業者のひとり、クリス・アンダーソン氏は、もともと雑誌『WIRED』の編集長だったのですが、趣味のラジコン飛行機製作が高じて立ち上げたドローンのオンラインコミュニティが同社創業のきっかけとなりました。

わずか三十数万円でプロモーションビデオが撮影可能

ドローンは位置情報を非常に正確に把握することができるため、実に多様な使い方ができます。
その用途のひとつが、プロモーション映像の撮影です。ドローンを使用することで、これまでヘリコプターで撮影していた時では考えられないほど、簡単に、そして廉価に、プロモーションビデオが作れるようになりました。
 
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図ー7 ドローンを使用したプロモーションビデオ

 

図-7はドローンを使用して撮影・作成したプロモーションビデオのキャプチャ画像です。

左は広島県竹原市、右は伊豆半島の南にある須崎恵比須島という、人間がなかなか行きづらい場所にある島を撮影しています。

着陸距離の問題やコストが高いなどの問題で、従来のヘリコプターでは気軽にできないことも、ドローンを使用すれば、技術の熟達度は必要とはいえ、ほんの三十数万円でできてしまうというわけです。

撮影に使用した機種はDJIのPhantom3で、カタログによると最大飛行時間が約23分。バッテリーが20%を切ったところでホームポイントに戻るシステムです。そうでないと、撮影するたびに落下して三十数万円がパーになってしまいます。

須崎恵比須島の撮影では、ドローンの操縦士はフェリーの上にいて操縦していますが、あらかじめプログラムしておいたルートを飛行させることも可能です。

ドローンが人を乗せて飛ぶ可能性も

プロモーションビデオのような空撮に留まらず、ドローンの用途は日進月歩で拡大しています。
今でこそマニアのような一部のユーザーが趣味で使用するケースが多いですが、数年以内には設備点検、災害調査など、産業にも広く応用されていくことでしょう(図-8)。
 
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図ー8 拡大するドローンの用途
 

例えば山で遭難者が出た際、救助隊が登っていくのは非常に時間がかかりますし、地形的に難しいような場合など、先にドローンを飛ばすことで遭難の状況を把握することができます。

多少の救援物資なら運べますので、先手を打つことができるでしょう。また、火山の火口などの実態調査にも利用できそうですね。

その後はおそらく、測量、警備、個人用偵察機などにも用途が広がり、4~5年後には産業利用とマニアに限らない一般ユーザーとの共存が始まるのではないかと思います。

その頃には登山の際の道案内などにも利用されるかもしれません。現代版・ヤタガラス とでも言いましょうか。

また、Amazon.com(以下アマゾン)がドローン実用化の際に真っ先に着手した宅配や、運搬にも用途が広がり、最終的には人を乗せるところまでいくのではないかと、私は想像しています。

航空、船舶、警備、あらゆる分野に影響を与える位置情報

航空機事故調査の要がフライトレコーダーからGPSへ

ドローンの用途がさまざまな分野に拡大しつつあるように、位置情報サービスそのものの利用分野も広がりを見せています。

図-9の通り、ざっと考えられるだけでも、産業では航空、船舶、物流、農機・建機、個人・家庭ではパーソナルナビゲーション、民間警備、緊急通報、危機管理では災害対策、安全保障、時刻参照ではデータセンター、金融取引、測量では民間測量、公共測量……と、あらゆる分野が考えられます。

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図ー9 位置情報の利用分野

 

航空分野においては、現在は墜落事故が起きた場合、まずフライトレコーダーを捜索していますね。

ところが、直近の航空機事件を振り返ると、2014年3月にマレーシア航空機がインド洋へ向かって行方不明になった事故では、機体の所在も不明のままで、当然フライトレコーダーは見つかっていませんし、そもそもフライトレコーダーのバッテリーが既に切れていますので、為す術なく捜索終了といった状況。いまだに謎のままです。

また、2015年10月にロシアのコガリムアビア航空機がエジプト・シナイ半島に墜落した事故では従来通りフライトレコーダーを分析し、機内に持ち込まれた爆弾を爆発させたテロ攻撃によるものだと断定はされたものの、いまだ全貌は解明されていません。

尻もち事故の前歴があったので機体の故障が原因ではないか、エンジントラブルを起こしたのではないかなど、さまざまな憶測を呼んでいます。

フライトレコーダー頼みであったこれまでの事故調査には、やはり限界があります。そこで今後、位置情報を利用する新たな動きとして、すべての航空機をGPS追跡することが検討されていくでしょう。

ルートから外れる、上昇するなどの異常な動きをすべて追跡し、すぐに警告を出せるようにする。ミサイルで攻撃された時にはミサイルの弾道も見て、航空機に何があったのかを瞬時に分かるようにする。

これまでは地上のビーコンでやっていたことも、今後は衛星が主流になると考えてよいでしょう。

災害対策に関しては、2014年8月の広島市での土砂災害のようなことも、地表のズレ、雨の量などをあらかじめデータ解析していれば、斜面下の危険区域に対して早いうちに警報を鳴らせるわけです。

このようにさまざまな分野で、用途はほぼ無限大に広がるのではないかと感じています。

 

(次回に続く)
 

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この記事の話し手:大前研一さん

 
株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。
 

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