日本、権威の変遷
江戸時代、日本国民は、「将軍様と幕府は、天地のごとき存在である」と考えていました。それで、日本は、世界史上まれに見る長期の平和を実現します。学問も盛んで、日本の識字率は当時、世界一だったと言います。
しかし、明治維新で幕府の権威は否定されました。代わって権威になったのが、明治天皇です。天皇は「現人神」とされ、臣民に対し、「こんな風に生きなさい」と指針を示されました。それが「教育勅語」です。内容は、
- 父母ニ孝ニ (親に孝養を尽くしましょう)
- 兄弟ニ友ニ (兄弟・姉妹は仲良くしましょう)
- 夫婦相和シ (夫婦は互いに分を守り仲睦まじくしましょう)
- 朋友相信シ (友だちはお互いに信じ合いましょう)
- 恭儉己レヲ持シ (自分の言動を慎みましょう)
- 博愛衆ニ及ホシ (広く全ての人に慈愛の手を差し伸べましょう)
- 學ヲ修メ業ヲ習ヒ (勉学に励み職業を身につけましょう)
- 以テ智能ヲ啓發シ (知識を養い才能を伸ばしましょう)
- 德器ヲ成就シ (人格の向上に努めましょう)
- 進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ (広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう)
- 常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ (法令を守り国の秩序に遵いましょう)
- 一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ (国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)
読み返してみると、「何が問題なのかわからない」立派な内容ですね。
ところが、敗戦で天皇の権威は否定されました。GHQの命令で、「現人神」が「人間」にされた。権威を否定された日本人は、当然アイデンティティー・クライシスになったことでしょう。
その後日本は、何を心のよりどころにしたのか?私が考えるのは、「会社」です。社長さんは、「権威」であり、二つのことを約束しました。
- 一所懸命働けば、絶対首にしない。(終身雇用)
- 一所懸命働けば、毎年給料を増える。(年功序列)
これで、日本は、1950~1990年まで、もの凄い勢いで成長することができた。
ところが、「権威」であり、「おやじ」でもあった社長さんたちは、「こどもたち」である「社員」を裏切ります。長い不況に耐えかねた経営者たちは、「リストラ」を始めたのです。その傾向に火をつけたのは、日産のゴーンさんでしょう。社長さんたちは、自らの行いによって、その権威を捨て去ったのです。
幕府を否定され、天皇陛下の神性を否定され、会社を否定され…。日本には権威がなくなり、再びアイデンティティー・クライシスの時代がやってきました。
最近、「戦前回帰」がトレンドになっています。これも、会社という権威が否定された国民が、新たな権威を求めている動きなのではないでしょうか(「あらたな」というか、「昔の権威」への回帰ですが)。
ロシアでも、ソ連崩壊後は、多くの人が革命前に盛んだったロシア正教に回帰しました。