最後の手段で「戦前回帰」しても日本が救われないこれだけの理由

 

日本、権威の変遷

江戸時代、日本国民は、「将軍様と幕府は天地のごとき存在である」と考えていました。それで、日本は、世界史上まれに見る長期の平和を実現します。学問も盛んで、日本の識字率は当時、世界一だったと言います。

しかし、明治維新で幕府の権威は否定されました。代わって権威になったのが、明治天皇です。天皇は「現人神」とされ、臣民に対し、「こんな風に生きなさい」と指針を示されました。それが「教育勅語」です。内容は、

  1. 父母ニ孝ニ (親に孝養を尽くしましょう)
  2. 兄弟ニ友ニ (兄弟・姉妹は仲良くしましょう)
  3. 夫婦相和シ (夫婦は互いに分を守り仲睦まじくしましょう)
  4. 朋友相信シ (友だちはお互いに信じ合いましょう)
  5. 恭儉己レヲ持シ (自分の言動を慎みましょう)
  6. 博愛衆ニ及ホシ (広く全ての人に慈愛の手を差し伸べましょう)
  7. 學ヲ修メ業ヲ習ヒ (勉学に励み職業を身につけましょう)
  8. 以テ智能ヲ啓發シ (知識を養い才能を伸ばしましょう)
  9. 德器ヲ成就シ (人格の向上に努めましょう)
  10. 進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ (広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう)
  11. 常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ (法令を守り国の秩序に遵いましょう)
  12. 一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ (国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)

読み返してみると、「何が問題なのかわからない」立派な内容ですね。

ところが、敗戦で天皇の権威は否定されました。GHQの命令で、「現人神」が「人間」にされた。権威を否定された日本人は、当然アイデンティティー・クライシスになったことでしょう。

その後日本は、何を心のよりどころにしたのか?私が考えるのは、「会社」です。社長さんは、「権威」であり、二つのことを約束しました。

  1. 一所懸命働けば、絶対首にしない。(終身雇用)
  2. 一所懸命働けば、毎年給料を増える。(年功序列)

これで、日本は、1950~1990年まで、もの凄い勢いで成長することができた。

ところが、「権威」であり、「おやじ」でもあった社長さんたちは、「こどもたち」である「社員を裏切ります。長い不況に耐えかねた経営者たちは、「リストラ」を始めたのです。その傾向に火をつけたのは、日産のゴーンさんでしょう。社長さんたちは、自らの行いによって、その権威を捨て去ったのです。

幕府を否定され、天皇陛下の神性を否定され、会社を否定され…。日本には権威がなくなり、再びアイデンティティー・クライシスの時代がやってきました。

最近、「戦前回帰」がトレンドになっています。これも、会社という権威が否定された国民が新たな権威を求めている動きなのではないでしょうか(「あらたな」というか、「昔の権威」への回帰ですが)。

ロシアでも、ソ連崩壊後は、多くの人が革命前に盛んだったロシア正教に回帰しました。

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