当時を振り返ってみて、何が問題だったかというと、一つは、顧客が何を期待しているかを見失っていたこと。もう一つは、競合する相手(競争相手)を読み違えたことです。
まず、リンガーハットに、顧客が期待していたことは何かというと、「安さ」ではなく、やはり、「味」が一番だったのではないでしょうか。なぜなら、新鮮な国産野菜を使い、とにかく「おいしい」ちゃんぽんを提供することにこだわってきた歴史からもわかるように、あくまでも、「味」が評価されてきたからこそ、「長崎ちゃんぽん」の全国展開に成功した唯一の企業となったわけですからね。
では、2009年頃のリンガーハットの競合は、どこだったのでしょうか。競合とは、顧客の頭の中に浮かぶ選択肢ですが、もともとの「安さ」を重視していないリンガーハットの主な顧客の頭の中には、マクドナルドや牛丼チェーン、低価格ラーメンチェーンなどが浮かんではいなかったと思われます。
身近で「長崎ちゃんぽん」が食べられる店はリンガーハットくらいしかないわけですし、長崎ちゃんぽんといえばリンガーハットという存在ですから、おいしい「長崎ちゃんぽん」が食べたいからリンガーハットに行くという流れ(指名買い)が主流になるでしょう。
つまり、2009年頃のリンガーハットは競合していない「安さ」を重視する企業を競合ととらえて追随していたということです。これは、自社の業績悪化の原因を見誤ったともいえます。業績悪化の原因が、デフレという外的要因なのか、それとも自社内の問題なのか、しっかり見極めてから打ち手を検討すべきだったということです。
しかし、言うは易く行うは難しで、業績悪化の渦中にいると原因究明を冷静に行うことは簡単ではありません。その中で、創業家の米濱氏は社長に再登板した際に、しっかりと原因を把握したうえで、顧客の期待に応えるために100%国産野菜を推し進め、業績回復を実現したことは、経営能力の高さを示しています。
現在も打ち手を緩めることなく、例えば、地域によって、スープの味付けや具材を変えた「ご当地ちゃんぽん」の拡大などにより、顧客の期待に応え続けることで、売上拡大を図っています。
今後もリンガーハットの打ち手に注目していきたいです。