移民阻止。世界が失笑した「トランプの壁」は物理的に可能なのか?

 

米国とメキシコの陸上・河川国境は3144キロに達するが、トランプ氏が1月25日の大統領令で定義した「壁」、つまり「警備され、切れ目がなく、通り抜けることのできない物理的障壁」は1キロもない。

一方、米国はメキシコ国境のうち1130キロに各種のフェンスを設置している。大部分は2006年の「セキュア・フェンス法」制定後に設置された。

歩行者用フェンスは、市街地や道路に近い合計619キロ以上の区間に、さまざまな種類のものが設置されている。深さ1メートル以上の基礎の上に、高さ6メートルの鉄格子が立てられ、それが警備用の道路をはさんで二重に立っている区間もあれば、ワイヤーカッターで簡単に切断できる金網フェンスの区間もある。

車両用フェンスのほうは、高さ1メートルほどの障害物で、人間なら簡単に乗り越えることができるが、密入国者が国境から歩いて米国の市街地や道路にたどり着くことが困難な砂漠など、合計484キロ以上の区間に設置されている。

既存のフェンスはトランプ氏の言う壁に該当しない。トランプ氏は、「高さ35‐40フィート(11-12メートル)のプレキャストコンクリートの壁は、建設費約80億ドル(9200億円)」と言ったこともあれば、壁の高さを「65フィート(20メートル)」と言ったこともある。また、トランプ氏は、自らの考えを「フェンス」と表現した記者に対し、「本物の壁を築く」と訂正している。

トランプ氏が挙げる建設費の数字は、プレキャストコンクリート業界団体が示したものだが、壁を築く場合の工費のごく一部でしかない。これまで車両用フェンスも設置されていない区間では、まず現場へ部材を運ぶための道路から整備する必要があるし、そのような区間には山地など道路工事が困難な地形が少なくないからだ。

国境から米国の道路まで歩いて1日以上かかるような区間では、鉄塔上のセンサーや、無人航空機の定期的なパトロール飛行で密入国者を発見してから、国境警備隊が最寄りの道路で待機すれば、身柄を確保することができるので、フェンスは設置されていない。

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