なぜ米国務長官は、同盟国でもない中国に「平身低頭」なのか?

 

しかし問題は、韓国訪問の次に、ティラーソン氏はどうして、同盟国でもなんでもない中国へ赴いたのかであるが、実はそれこそがミソなのである。アメリカは軍事的攻撃を含めた北朝鮮問題の根本的な解決策を考える際中国の存在と動向を無視してはならないからである。

まず軍事行動の場合から考えよう。アメリカは北朝鮮に対して軍事攻撃を実行する際、北朝鮮軍の抵抗はほとんど何とも思っていない。軍事力と軍事技術の差はあまりにも大きすぎるからである。アメリカが唯一心配しなければならないのは中国の動向だ。

今から67年前に始まった朝鮮戦争の時、国連軍の主力軍として朝鮮半島に入ったアメリカ軍は、南侵した北朝鮮軍をいとも簡単に撃破して追い返したが、その直後に中国共産党軍が越境して参戦してくると、アメリカ軍は3年にわたっての苦戦を強いられることとなり、中国軍のために14万人ほどの死傷者を出したという苦い経験がある。だから今になっても、アメリカは北朝鮮への軍事行動を考える時朝鮮戦争の悪夢がまず頭をよぎってくるのであろう。

トランプ政権にしても、朝鮮戦争の二の舞にならないためには、北朝鮮に対する軍事攻撃を考える際、まずは中国の黙認、了解を取り付けなければならない。もちろん軍事行動だけでなく、別の選択肢で北朝鮮問題の根本的解決を図る時でも、中国からの協力、少なくとも中国からの暗黙の了解がなければ、それは成功できるはずはない。つまり、トランプ政権が本気で北朝鮮問題の解決を図る時まず超えなければならないのは中国という厚い壁なのである。

だからこそ、ティラーソン氏は東アジア歴訪の仕上げとして最後は中国へ赴いた。そして彼は、この記事の冒頭で記しているように、卑屈と思われるほど中国に平身低頭して「衝突せず、対抗せず、相互に尊重」の友好姿勢を示さざるを得なかったのである。

それこそは、トランプ政権の中国に対する姿勢転換の最大の理由であるが、逆に中国からすれば、トランプ政権に態度を変えさせ、当時は予想されていたトランプ政権の対中国攻勢を見事にかわしたことはまさに外交上の大勝利であり、アメリカに対する立場の逆転でもあるのである。

そういう意味では、金正男暗殺から日本海へのミサイル発射までの北朝鮮の一連の動きは結局、中国を大いに助けたことになっているのである。北朝鮮が暴走したからこそ、米国は中国に頭を下げなければならなかったからだ。

そうなると、金正男暗殺からの北朝鮮の一連の動きは実にタイミングよく、中国の戦略的利益に適っていることは明々白々である。ならば、北朝鮮のこの一連の動きの背後に中国の暗影はないのか、との疑念は当然生じてくるのであろう。

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