なぜ米国務長官は、同盟国でもない中国に「平身低頭」なのか?

 

例えば金正男氏の暗殺にしては、今まで彼が中国政府の保護下にあったから、金正恩政権は簡単に手を出すことができなかったが、ここにきて暗殺の断行に至ったのには、中国から何らかの形で「容認」のサインをもらったのではないか、との可能性も十分にありうる。

さらに不可解なことに、金正恩暗殺の後、北朝鮮に対する国際社会の風当たりが依然として強かった中、2月28日から北朝鮮の李吉聖外務次官は突如北京訪問を始めた。中国が保護していたはずの金正男氏が暗殺されてからわずか2週間後、手を下した金正恩政権の高官の北京訪問を中国が受け入れたこと自体、まさに不可思議なことであるが、その背後に一体何があったのか。

2月28日から北京滞在した李外務次官は、翌日に中国の王毅外相と会談した。会談の中で王外相が「中朝の伝統的な友好をしっかりと発展させることが中国の一貫した立場だ。北朝鮮との意思疎通を強化したい」と述べたのに対し、李次官は「両国の友情は共同の財産」であり、「朝鮮半島情勢について中国との意思疎通を深めたい」と応じたという。

このような和気藹々の会談の雰囲気からすれば、中国が別に金正男暗殺を本気で怒っていないことはよくわかるが、さらに注目すべきなのは、李次官の北京滞在期間の長さである。3月1日に王毅外相との会談が終わってから、彼はさらに数日間北京に滞在して、帰国したのは3月4日である。その間、李次官の動静はいっさい伝えられていない。もちろん、単に北京で遊んでいるわけもない。つまりこの数日間、北朝鮮の李次官は、中国側とさらに突き込んだ話し合いをしたのか、王毅外相以外の中国高官とも秘密会談したのか、との可能性は大であろう。

そして李次官が帰国した2日後の3月6日、北朝鮮は米軍基地への攻撃訓練」と称して日本海に4発のミサイルを打ち込んだ。タイミング的には、この行動と、上述の李次官の北京訪問とは無関係であるとは考えられない。北朝鮮がこの冒険に踏み込んだ背後には、中国の暗黙の了解あるいは積極的な支持があったはずである。

つまり中国は、北朝鮮の暴走をうまく利用してトランプ政権に対して優位に立つことができ、それをもってアメリカの対中姿勢を軟化させることに成功したわけであるが、問題は、この成功はどこまで続くかである。

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