佐々部清監督よ、なぜそこまでやる。12年の介護生活を描く自主的映画

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『半落ち』『チクソルの夏』『夕凪の街 桜の国』『ツレがうつになりまして。』など話題作を手掛けてきた佐々部清監督の最新作『八重子のハミング』が5月6日より公開されます。ガンに冒された夫がアルツハイマー病にかかった妻を12年間介護し、家族と一緒に寄り添う日々を綴った感動のヒューマンドラマ。MAG2 NEWS世代にもリアルな問題とも思える介護を取り扱った作品ということで、早速、佐々部清監督を直撃取材してきました。

構想9年、陽信孝の原作を命懸けで映画化

原作は若年性アルツハイマーの妻に寄り添う夫の12年間を綴った陽信孝のノンフィクション小説「八重子のハミング」。一度は大手映画会社で映画化が進むものの、原作者に伝えられることもなく製作は勝手に頓挫。原作に惚れ込んでいた佐々部清監督はこの事実に憤りを感じたという。原作と同じ山口県出身、自らも母を介護した経験を持つ佐々部清監督は原作を預かり、自らの手で映画化を決意。日本アカデミー賞最優秀作品賞をも受賞するベテランの佐々部清監督が、取材費も交通費も自腹かつノーギャラで脚本を書き上げ、製作費の資金集めにまで奔走したという映画『八重子のハミング』。一体何がそこまで佐々部監督を動かしたのか?

──まず、佐々部監督と申しますと『半落ち』でアルツハイマーと家族の問題を描きましたが、今回のスタンスはどういったものなのでしょうか?

佐々部監督(以下、佐々部):根っこは一緒です。原作はあの年の売れたベストセラーだったんですけど、究極の愛情物語を描こうと思って『半落ち』を映画化したんですよね。老老介護を啓蒙しようという映画ではなく、究極の熟年夫婦の純愛映画を作りたいと思ったからなんです。今回の作品もこれと同じで、根っこは僕の中では一緒なんですよ。僕が一貫して撮ろうとしているのは「家族」なんです。

──これまでにも『明日の記憶』や『アリスのままで』や『私の頭の中の消しゴム』など、認知症の主人公の映画がありましたが、『八重子のハミング』も同じ系統の映画でありながら「家族」に重きを置いたと?

佐々部:その作品は全部、認知症あるいはアルツハイマーで記憶をなくしていく方たちが悩んでいく話じゃないですか?この映画は、介護する側が主役だからやりたいと思ったんです。八重子さんが一人で思い悩んでいく映画だったら『アリスのままで』や『明日の記憶』とも同じ設定なんですが、これは夫の誠吾が主役で、介護する人たちや家族が大きな背景になるのでやりたいと思ったんです。ほとんどの観客は認知症とかアルツハイマーの人ではなくて、介護する側ですよね。そういう方たちの、介護する側を描く方が共感できるかなと思いました。

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──そうですよね。私は40代で両親共に健在なんですけど、今後、両親あるいはそのどちらかがそうなるであろうという時の一つのヒントになる所もありますよね。

佐々部:僕は父と母を亡くしましたけど、僕の世代で忘年会や新年会で高校や大学の仲間たちと会うと、「お前んちのお父さん、どうしてる?」とか「どこどこの施設なんだよな」とか最終的には介護の話になるんですね。だから夫婦の話ではあるけど、家族の話にしたほうが自然に受け入れられると思った。例えば長女の目線で見てもいいと思うし、単に夫婦の話ではなく、家族としての目線で見てもらいたかったんです。

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──升毅さんが演じる夫・誠吾だけではなく、娘や孫も含めた家族全体で八重子をサポートする姿が見えましたね。

佐々部:孫までひっくるめた家族で介護をするというのがいいと思ったんですよね。現代社会って家族がすごく壊れていってて、うちは3人家族ですけど、娘はご飯の時しかリビングの方に出て来なくて、あとは自分の部屋に籠るとかそういう家族がいっぱいあるんだけど、この映画の素敵な所はおばあちゃんから孫までがみんなが一つの愛情というか家族になっているのがいいと思ったんです。それを感じて欲しいと思ってこの題材を選びました。

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──今回の映画に出てくる誠吾と八重子のご夫婦は教師ということもあって息子さん、娘さん、そのまたお孫さんもどこか品がいい家族でしたよね。

佐々部:まあ、それは実話なんで演出でもなんでもないのですが、一部批判的な感想で「主人公は教育者で年金もしっかりもらっているからこういう介護が出来るんだ。介護はそんなに甘くない」って書かれている人もいました。ただ介護って10人いたら10人とも介護の仕方は違うし、この夫のように12年もそばにいて介護を自分でするってなかなか出来ないですよ。しかも自分は一度ガンを患っているにもかかわらず。ガンになった夫が、アルツハイマーの妻を12年間も自力で介護するって、もうスーパーヒーローの映画。僕の妹が一昨年亡くなった母を介護していたのですが、介護をする側も心療内科に行くぐらい疲弊するんです。だとすると、12年間、排泄のことから食事のことから全部やるって、普通の人では考えられない。そんなスーパーヒーローだから映画にできたというのもありますね。

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──佐々部監督ご自身も、母の最後の4年間介護をされていたそうですが、その経験も映画化を後押ししたのですか?

佐々部:母は亡くなる4年前から認知症が始まったのですが、お見舞いに行って一時間後に僕だと認識出来るぐらいだったんですよね。ただ自分よりも介護をしていた妹の疲弊がすごくて。こんなに身近に介護で大きな問題があるんだったら、撮らなければならないと。そういう経験も確かに後押しにはなりました。この作品は一度大手の映画会社が製作から手を引いた過去があるのですが、別の映画会社からも「介護? そんなの商売にならない」って言われ続けて、何が何でも自分の力で作って世にだそうと思ったのもあるんです。同じ活動屋としての責任も感じてましたし。なので僕はプロデューサーとしてもスポンサー探しからキャスティング、時には宿泊費の値引き交渉や車の運転も自分でやるぐらい、本当にできることはなんでもやりました。僕は地元山口にも「この作品に命をかける」と宣言しましたから。おかげさまで去年、舞台となった山口県での先行ロードショーは、去年の山口県のスクリーンで2位でした。さすがに『君の名は』には勝てなかったですけどね(笑)

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──予算がない中でキャスティングには苦労されたのではないですか? 主演の升毅さんにはどういった形でオファーを?

佐々部:以前に『群青色の、とおり道』という映画で主人公のお父さん役がなかなか決まらなかったことがあったんです。小さな映画すぎるとかいろんなことがあったのですが、その時に升さんが気持ちよく受けて下さったんですよ。それで実際に撮影に入ると、升さんは僕に一番ダメ出しされたんです。 それを受けて、芝居に大きな変化があったりして。こんなに僕の意図を汲んで俳優として変わってくれるんなら、今回の役は難しい役だけど、升さんだったら絶対にできるし、あの時の恩返しをしたいという思いでお願いしました。

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──升さんが演じた役は優しい夫でありながらも排泄の世話をするなど、介護に耐えうる芯の強さがありましたよね。

佐々部:いえ、あれは耐えてるんじゃないんです。僕が升さんにお願いしたのは八重子さんを愛おしく好きでいて下さいってお願いしたんですよね。だから耐えてるのではなく、好きだったから12年も介護を出来るんです。夫だから耐えて介護しているのではなく、本当に八重子さんへの愛情が深いからできたんですね。だから、悲しくて泣くのは八重子さんが亡くなった瞬間だけ。他にも泣くシーンはあるのですが、それは悲しい涙ではなく、人から頂いた愛情、人から頂いた優しさで全部嬉し泣きをしている。今回は介護する側が主役の映画だと思っていますが、そこに「耐える」とか「義務」のようなものはありません。本当に好きだから付き添っているだけなんです。僕が撮りたかったのはそこなんですよ。やっぱり根っこは同じなんですね。

 

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──佐々部監督の映画作りの中で「何を撮るかではなく、何のために撮るか」という理念があると聞いてます。

佐々部:これは高倉健さんから頂いた言葉です。高倉健さんに「僕はもうあと何年生きられるかわからない。残された映画人生の中で何を撮ったじゃなくて、何のために映画を撮るかが大事なんだぜ」って言われまして。高倉健さんと降旗康男監督は子供の頃、戦争を体験していて、それを繰り返しちゃいけないっていうのを伝えるために『ホタル』っていう映画を作ってるんです。だから僕はずっとこの言葉を宿題にして映画を撮っています。この『八重子のハミング』も高齢化社会に向けてこの先の日本で必要とされる映画だと思って撮っているので、ぜひ劇場で楽しんで下さい。

取材・文/じょ~い小川

【関連記事】佐々部清監督が、地元山口県のために「命を懸けて」撮った感動物語(ジモトのココロ)

 

information

佐々部清(SASABE KIYOSHI)

1958年、山口県下関市出身。2002年『陽はまた昇る』で監督デビュー。以降、映画『チルソクの夏』(日本映画監督協会新人賞)、『半落ち』(日本アカデミー賞最優秀作品賞)、『四日間の奇蹟』、『カーテンコール』、『出口のない海』、『夕凪の街 桜の国』、『結婚しようよ』、『ツレがうつになりまして。』ほか、監督作品多数。TVドラマ『心の砕ける音』(WOWOW)、『告知せず』(テレビ朝日開局50周年スペシャル/芸術祭参加作品)、『看取りの医者』(TBS月曜ゴールデン)のほか、舞台『黒部の太陽』の演出なども手掛ける。

映画『八重子のハミング

5月6日(土)有楽町スバル座ほか、全国ロードショー
監督・脚本:佐々部 清
原作:陽 信孝「八重子のハミング」(小学館)
出演:升毅、高橋洋子、文音、中村優一、安倍萌生、辻伊吹、二宮慶多、上月左知子、月影瞳、朝加真由美、井上順、梅沢富美男
製作:Team『八重子のハミング』シネムーブ/北斗/オフィス en
配給:アークエンタテインメント
公式 HP:http://yaeko-humming.jp
エンディング曲:谷村新司「いい日旅立ち」(avex io/DAO)
劇中曲:谷村新司「昴」(avex io/DAO)
(C)Team「八重子のハミング」

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