それを受けて、国会では、政府が言うように「一般の人は捜査の対象にならない」のかどうか、野党議員が追及しているが、頼りない金田法務大臣への攻撃をかわすために雁首をそろえた副大臣、政務官はもとより、林真琴刑事局長すら、論点ずらしで時間を稼ぎ、まともに答えようとしない。
そんな質疑の中から、明らかになったのは結局、「一般市民も捜査対象になりうる」という、常識的には疑う余地のない共謀罪の本性である。
5月8日の衆議院予算委員会における、山尾志桜里議員(民進)の質疑を見てみよう。
そのために、まず確認しておかねばならないことがある。「何らかの嫌疑がある段階で、一般の人ではないと考える」と言う盛山正仁法務副大臣の発言だ。これが法務省のいわば統一見解となったようである。
捜査当局が嫌疑をかけた時点でその人は一般人ではなくなってしまう。これは恣意的に対象者を決められるということではないのだろうか。どうやって嫌疑があるかどうかを調べるというのか。
山尾議員は捜査手法の一つである「尾行」について、こう質問した。
告発された人に嫌疑があるかどうかを調べる段階における警察の活動は金田大臣の言葉では「検討」、森山副大臣の言葉では「調査」と言うようです、この段階での尾行は合法的ですか。
金田大臣は沈黙し、法務省の林刑事局長が答弁した。
嫌疑が発生する前の段階での尾行は、まだ捜査が開始されていないので、できません。
この問答にしたがうなら、嫌疑があるかどうかを調べるさい、尾行などの捜査活動はできないことになる。
そこで、山尾議員は「これまで嫌疑が生じる前に尾行していたら、それはすべて違法だったということか」と問いただした。
すると、林刑事局長は明確な答弁を回避しはじめる。
尾行でも目的によって評価が違う。
尾行は捜査としてはしないということ。捜査以外の尾行があるかどうかといわれても、答えられない。
不明瞭な答弁内容を、山尾議員はこう整理した。
つまり嫌疑が確定していない段階では捜査としての尾行はありえないが、尾行するかどうかは一概には言えない。目的によりけりだと。どう聞いてもそういうことになる。100%ないかというと、そうでもないのだと思う。
嫌疑を確定する前段階の調査とか検討とかいうのは詭弁に過ぎない。捜査しなければ、嫌疑があるかどうかはわからないではないか。捜査当局が一般市民を対象に共謀罪の捜査活動をはじめることは避けられないのである。
ここであらためて、共謀罪法案、すなわち「組織的犯罪処罰法」改正案の肝心な条項を確認しておこう。
組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行なわれる者の遂行を二人以上で計画した者は…
その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは…刑に処する
これをもって、金田法務大臣は組織的犯罪集団にかかわりのない人は共謀罪の対象になりえないというのである。