私も1991年に平壌を訪ねた時に、地下鉄の運行時間を知らせるポスター(張り紙)をはぎ取ろうとしたこともあったが、ワームビア氏はその政治ポスターにどれだけの価値を見出して、盗もうとしたのか。私はホテルのバスタオルを失敬したが、バスが出発する間際に客室担当のおばさんが飛んできて「バスタオルを早く返せ」と言われたことがあった。その時は北朝鮮への友好親善団体の訪朝団ということで、大事には至らなかったが、政治ポスターを盗んだというのは理解できない。
ワームビア氏は昨年2月、記者会見でホテルのプロパガンダ用ポスターを盗んだと告白していたが、関係者は「北朝鮮によるでっち上げだ」と聞かされたという。私もその通りだと考える。それならば、拘束された理由は何か。6月24日の『産経新聞』に「米学生 拘束理由は… 正恩氏掲載の新聞で靴を包んだから」という記事が出ていた。これなら拘束されことも理解できる。
新聞紙で靴を包むことは何でもないようだが、問題は金正恩の顔写真が出ている所で靴を包んだことが、「金委員長の写真に泥を付けた」と言うことで、これは北朝鮮で最高尊厳とされる金委員長の写真が載った新聞を粗末に扱ったということで重罪に当たるのである。ワームビア氏にしてみれば「新聞紙で靴を包む事がなぜ犯罪になるのか」と思ったことであろう。だが、北朝鮮では新聞は新聞でも、最高尊厳の載っている新聞の取り扱いは別である。
『労働新聞』の一面に最高尊厳を真ん中に記念写真がよく掲載されるが、この新聞を海外に送付するときは「真ん中から折らないで(すなわち最高尊厳を傷つける行為なので)、三つに折って送るのである。たかが、最高尊厳が載っている新聞だからどうしたというかもしれないが、その昔、北朝鮮の怪獣映画「プルガサリ」を撮影するときに、日本から行った「薩摩源八郎」氏が、昼食の時に、金日成の写真が載っている新聞紙を敷いて食事しようとしたら、北朝鮮の関係者が慌てて飛んできて「首領様の写真を尻に敷くとは」ということで、大変な騒動になったということがあった。
私が平壌に行った時、日本人観光客がある建物の中で、疲れたからといって金日成の胸像だったか、そこに腰かけようとしたら、北朝鮮の人間が飛んできて「何をしているんだ」と大声で叫び、その観光客をどかせたことがあった。北朝鮮の人間にしてみれば「首領様への最大の屈辱、侮辱」と捉えたのだろうが、大声で怒鳴られた日本人観光客は「何でここに腰かけたらだめなんだ」という程度の認識しかなく、怪訝な顔つきであった。
いずれにせよ、今回のワームビア氏の死亡事件には心から哀悼の意を表するしかない。残虐・非道な北朝鮮の仕打ちにも、日本国内にはそれでも北朝鮮を擁護する輩が多くいることを知るべきである。
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