ヒアリ、東京にも襲来。「刺されて年間100人死亡説」は本当か?

撮影:松本吏樹郎(大阪市立自然史博物館)撮影:松本吏樹郎(大阪市立自然史博物館)
 

神戸、名古屋、大阪と続き、ついに東京でも発見された「ヒアリ」。一説には「アメリカでヒアリに刺された人が年間100人くらい死亡している」という話も。今回のメルマガ『クマムシ博士のむしマガ』では、ヒアリに刺された際の対処法などを紹介した前回に続き、著者のクマムシ博士こと堀川大樹さんが、生物研究者の目線で「ヒアリに刺され年間100人死亡説」の真相に迫ります。

「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を検証する

2017年になって、神戸名古屋大阪、そして東京で相次いで発見されている、侵略的外来種のヒアリ(Solenopsis invicta)。ヒアリは人を刺し、確率はきわめて低いものの、ときに死に至らしめることもある。このことから、連日のように報道されるヒアリ発見のニュースは、少なくない人々を不安にさせている。

前回の記事で紹介した、日本語で書かれた唯一のヒアリ書籍『ヒアリの生物学』には、アメリカでは1年間で1400万人ほどがヒアリに刺されそのうち100人ほどが死亡していると書かれている。*1

● 『ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

ヒアリに対して不安を感じる源の大きな部分は、この「ヒアリで年間100人死亡説」に依るところも大きいのではないだろうか。だが、よく調べてみると、この説は、はっきりとしたデータを元にしているわけではないことが、分かってきた。

「100人説」はどこから

この部分は『ヒアリの生物学』の著者らによる調査が元になっているわけではなく、Taber氏により2000年に出版された別の書籍『Fire ants』を引用したものである。

● 『Fire Ants (Texas a&M University Agriculture Series, 3)

たしかに、『Fire ants』には以下のような一文がある。

The number of deaths per year has been estimated at one hundred but is probably underestimated because the possibility of fire ant attack is rarely investigated when the cause of death is unknown.

(クマムシ博士による訳)

ヒアリに刺されて死亡する人数は年間100以上と推定されてきたが、死因不明の場合には、死因がヒアリの可能性かどうかが調査されることは少なく、おそらくこの数字は少なめに見積もられている。

このように、『Fire ants』にはたしかに「ヒアリで年間100人死亡」と書かれているわけだが、この部分にはどの文献も引用されていない。つまり、これは著者であるTaber氏の見解のようだ。だが、この「100人説」の根拠となるようなデータや説明は、『Fire ants』の中には見られなかった。

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