金正恩ニヤリ。北朝鮮が経済制裁を受けても揺るがない3つの理由

 

先日行われたG20サミットでも大きなテーマとなった北朝鮮問題。一時期は米国による軍事攻撃の可能性が取りざたされるなど緊張感が高まりましたが、ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、「米国は対北朝鮮の軍事攻撃オプションを選択しない」と断言しその理由を記すとともに、「北との交渉」という新次元に移行した各国の共通認識を理解できていないとしか思えない安倍首相の「自覚の無さ」を批判しています。

米国は対北朝鮮の軍事攻撃オプションを選択しない──中露韓はその方向で足並みを揃えたが、日本は?

ハンブルクG-20を舞台とした多角的な首脳外交を通じて浮かび上がって来たのは、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決をめぐって、

  1. あくまで対話を通じての平和的解決をめざす点で中国、ロシア、韓国が一致し、共同でイニシアティブを発揮しようとしており
  2. それに対して米国は対話の可能性を否定しないものの、まだ経済制裁や軍事圧力の強化に軸足を置いており
  3. さらに日本は対話そのものに否定的で、事実上、その新しい駆け引きの枠組みの外にいる、

──という新しい図式である。つまり「は中露韓、「は米、「は日、になっていく流れである。日本のマスコミはいまだに、米を盟主に日本と韓国が両脇を固める「反共軍事同盟構図がこの問題の解決に有効であるかの20世紀的視点から抜け出せないために、混乱した論調を繰り出している。

狭まった米国の選択肢

7月6日付読売新聞は「米、軍事行動選ばず/北ICBM/主要都市射程なお時間」というワシントン発の8段の大きな記事を掲げたが、その通りで、トランプ政権は北に対する大規模な先制的軍事攻撃からピンポイント爆撃や特殊部隊突入による金正恩「除去」作戦まで、いくつかの軍事手段を検討はしたものの、いずれも問題の解決には繋がらないことを悟って、少なくとも当面の選択肢から外した

大規模攻撃は、中途半端では済まず全土を一気に焦土と化す勢いでやらなければならず、そうまでしても北の報復能力の全てを破壊できる確証はまったくないので、韓国と日本を巻き込んだ大惨事になることは避けられない。

本誌も既報のように(「北朝鮮危機は回避されていた。犬猿の米中が分かり合えた複雑な事情」ほか)、93年に金正日がNPTを脱退して核武装を宣言した際、米クリントン政権のウィリアム・ペリー国防長官は北の全土700カ所を一斉爆撃するという過剰な作戦を提唱したが、当の在韓米軍司令官が「そんなことをしたら、3カ月で米軍5万人韓国軍50万人の死傷者が避けられず韓国一般国民も100万人以上になる」として反対し、金泳三大統領も「私は自国の国民の生命に責任を持っている」と体を張って阻止し、断念させた。ペリーは最近の講演で、「その案はあの当時はありえたが、今ではまったくあり得ない」と語っている。

当時、北が持っていたのは38度線の北側の掩蔽壕に配備された通常爆弾搭載のカノン砲、ロケット砲だけだったが、それでもソウルを「火の海」と化すには十分だった。24年後の今日、それらの通常砲8,000門は尚健在であり、加えて約1,000発の短・中距離ミサイルと多分20発程度の核弾頭を持っているので、被害は比較にならないほど大きい。しかも、米専門家は一様に、北のミサイルは主として日本攻撃に使われると予測している。

例えばデイヴィッド・C・カン=南カリフォルニア大教授は「北はまた非常に計算高い。実験ミサイルを日本に向けることで、平壌は『もし我がミサイルを撃ち落とそうなどとすれば、我々は日本を撃つだろう』という明確なシグナルを出している。その場合最も狙われやすいのは、在日米軍基地の約5万の軍事要員だろう」と指摘する(7日付NYタイムズ)。マコト・リック記者も「ソウルにミサイルを撃ち込むこともありうるが、ミサイルはむしろ在日米軍基地を含む軍事施設攻撃のために使用されるだろう」と述べている(同上)。金正恩自身、今年3月6日にスカッドERを4発同時に発射して日本のEEZに落下させた際、「今回の実験は在日米軍基地を狙う部隊が実施した」と言っていたから、そのとおりなのだろう。

つまり、仮にも米国が先制軍事攻撃に出た場合、北は残存報復能力のうち通常砲はソウルはじめ韓国に降り注ぎ、とっておきのミサイルは三沢、横田、厚木、横須賀、岩国、佐世保、沖縄などの米軍基地に狙い定めて撃ち込むことになるだろうが、そのミサイルには核弾頭が装着されている可能性もある。だから米国に絶対に軍事オプションを採らせないようにすることに、日本は韓国や中国以上に熱心でなければならないのに、安倍首相にその自覚はないように見える。

ちなみに、北も韓国も、自分の方から先制攻撃に出るという自殺的な選択はしない。米国が誤った判断に突き進んだ時に戦争の危険が高まるのである。

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