金正恩ニヤリ。北朝鮮が経済制裁を受けても揺るがない3つの理由

 

交渉の入り口はどこか

このようにして、軍事作戦は選択肢にはならず、経済制裁も時間ばかり費やして効果が薄い。

「そこで次の選択肢は、文在寅韓国大統領が金曜日にワシントンに来てトランプに語った、『交渉という方法である。この交渉は、北が核とミサイルの実験を凍結し、その見返りに米国は韓国との軍事演習を制限もしくは延期することを約束するところからスタートする。これは習近平が前々から言ってきたことで、ロシアのプーチンも賛成である」と、デイヴィッド・E・サンガーが書いている(7月6日付NYタイムズ)。

このミソは「凍結」と言っていて「放棄とは言っていないことである。これまでの米国の失敗はまさにそこにあって、自分は大量の核兵器を保有して北を脅しておきながら、北が持つことは許さないという立場を採る限り、交渉の入り口に辿り着くことができない。それに対してトランプ政権は、これまでよりも柔軟で、「金正恩体制の転換をめざすことから、北朝鮮を核保有国として容認することまで含めて幅広い選択肢を検討」(4月14日AP通信)と言われる。

ロンドン在住の軍事ジャーナリストであるグイン・ダイヤーも「核を保有する北朝鮮を受け入れよう」(8日付ジャパン・タイムズ)という説である。

ティラーソン米国務長官が北のICBM実験について「米国にとって、同盟国・友好国にとって、そして世界にとって脅威の新しいエスカレーションを意味する」と語った時、彼は大真面目ではあったが、間違っていた。

彼は判っているに違いないが、米国は1945年から核兵器を持っているし、日本に投下さえした。米国はまた1950年代からICBMを持っていて、今も数百発をすぐにでも撃つことができる。米国と北とはどこに違いがあるのか。

2つあって、1つは、米国は北に比べて百倍もの核兵器と、その2世代も進んだ技術を持っている。もう1つには、米国は核兵器を第一撃に使用するという方針を明言していて、第一撃に使わないとしている北より米国の核がより危険である。

北は3~5年中に米本土の大都市に到達する複数のICMBを持ち、米国から第一撃を受けても残った1発か数発のミサイルで報復を行うだけの能力を持つことになる。それによって、少なくとも理論上、相互抑止が働くようになる。

しかし、北は気でも狂わない限り自分の方から米国を攻撃することはない。そこで米外交官は、北朝鮮人は狂っていて、論理は通じないし、自己破滅的であるので、核を持たせてはいけないんだと世界中に思わせようと懸命になる。そうでないと、米、露、中、英、仏、イスラエル、イン、パキスタンは核を持っても構わないけれども、北だけは持ってはいけないのだという議論が成り立たないからだ。

しかし、北が狂っているという証拠はない。彼らは64年間、戦争を起こしてこなかったし、今もその気配はない。そして、ワシントンには突飛な指導者が現れたけれども、周りを大人が囲んで米側から致命的な誤りに出ることは回避されるだろう。そうやって、我々は核保有国=北朝鮮と共に暮らすことを学ばなくてはならない……。

そういうわけで、北の核「凍結」と米の軍事演習中止などを条件として新たな交渉の扉を開き、それを38度線の停戦協定の平和協定への置き換え、米朝国交正常化へと繋げていく道筋を開けるかどうかが、現下の焦点である。どうも安倍首相はその新次元に移っていることを認識していないように見える。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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