世界を試す金正恩。北朝鮮の「何が」脅威かを改めて考える十問十答

 

7.それにしても、日本の上空を撃つのは危険極まりないのではないか?

危険でないとは言わないが、大騒ぎすることではない

1つには、「日本の上空とはどこまでかという問題がある。領土・領海から上に向かってどこまでも領空ということはなくて、一応の常識的な合意として100kmまでで、それより上は公の「宇宙空間」とされているが、国際法上の規定はない。もちろん、空気は段々薄くなって行くので、どこが境目かというのは難しく、大気圏=500kmまでが領空だという説もあるが、国際的には認知されていない。ちなみに普通の飛行機が飛ぶ巡航高度は10kmである。

人工衛星は通常500~600kmの高度を回り、宇宙ステーションはそれより下の400km。現役の人工衛星は1,000機ほどで、運用が終わった衛星が2,600個、それ以外の部品や破片などが50万個もグルグル回っているけれども、これらを「領空侵犯」と言って騒ぎ立てる国はない。

その御用済みの衛星や部品の一部はかなりの頻度で地球に向かって落ちてくるが、大半は大気圏突入と共に燃え尽きてしまうので、ほとんど実害はない。

従って、上空通過自体は我が国にとっての重大な脅威でも何でもない。むしろ、何事もなく通過してくれるよう祈るしかない。

8.探知能力を高めるべきではないか?

反対はしないが余り意味のあることではない

現在の探知態勢は、ミサイル発射と同時にまず米国の早期警戒衛星システムが赤外線の大量発生を感知する。このシステムは、赤道上の3万6,000kmの高度にある静止衛星と、それを補完する数個の周回衛星によって構成されるが、いずれにしてもこの高度からは「赤外線が発生したことしか分からない

他方、スパイ衛星とも呼ばれる偵察衛星は、160~230kmの低い高度で地球上のすべての地点を1日1回巡回し、地面に落ちたスプーン1本まで識別し撮影すると言われるが、何せ1日1回で常時監視することはできない

この早期警戒衛星が赤外線発生を探知すると、米国の北米航空宇宙防衛司令部を通じて在韓・在日米軍に伝達され、在日米軍のXバンド・レーダー、それに連動する韓国軍のグリーンパイン・レーダーや航空自衛隊のFPSレーダーが追尾を開始し、さらに日本海にもし居合わせていればイージス艦のSPY-10レーダーが作動する。今回の場合、5時58分に発射が探知され、4分後の6時2分頃に最初のアラートが出たが(注)、その段階では「北海道から長野県まで」日本のほぼ半分に当たる1,500kmに及ぶ広範囲が対象となっており、つまりは「東北方面に飛んで来そうだということしか分かっていないということである。

時間の経過とともに次第に解析が進み詳しいことが分かってくるのだが、次にアラートが出たのは6時14分で「先ほどこの地域の上空を通過した模様です」という事後報告で、実際には北ミサイルは6時6分頃に北海道上空を通過、12分頃には襟裳岬の東1,180km地点に落下していた。

ということは、もしこれが北海道のどこかを狙ったものであったとすると、発射から7~8分後、最初のアラートから3~4分後にはもう着弾している訳で、すべては手遅れである。

注:今回発射4分後にアラートを出せたのは異例で、これまでは北が事前に予告していた12年12月と16年2月に発射6分後、4分後にアラートを出した。予告がないのに4分後に出せたのは凄いじゃないかと思いきや、田岡俊次によると(ダイヤモンド・オンライン9月7日付)「北朝鮮は発射を誇示するために偵察衛星が撮影しやすい平壌郊外の順安飛行場にミサイルを引き出していたから、予告があったのと同然だった」という。これ以外の予告なしの発射ではJアラートは全く機能していない

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け