鼻と花が同じ音なのは偶然? 語源をたどって見えた「大和言葉」

 

「天(あめ)」「雨(あめ)」「海(あま)」

そうした神様の元祖が「天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)」である。「天(あめ)」の「御中(みなか)」にいる「主(ぬし)」である。

「天(あめ)」は「海(あめ)」でもあった。「天」は「海」のように青く、そこからときおり「雨(あめ)」が降ってくる。そんなことから、古代日本人は天には海と同じような水域があると考えたようだ。

水が大量にある所を「海(うみ)」と言う。「うみ」は、昔は「み」とも言った。「みず」の古語は「みづ」だが、これも同じく「み」と言った。一面にあふれることを「みつ(満つ)」と言う。

この「みつ」から「みづみづし」という言葉も生まれた。「瑞穂(みずほ)の国」とはわが国の古代の自称であるが、水を張った水田に青々とした稲穂が頭を垂れている姿は、古代日本人のふるさとの原景なのだろう。

和歌は日本人の固有な韻文に対する自負と誇り

以上のような大和言葉で歌われるのが、和歌、すなわち「日本の歌」である。和歌は神様を褒め称えたり恋人に思いを伝える時に使われる特別な形式であった。

「いのち」という言葉に根源的な生命力を感じたり、また「恋」という言葉に、相手の魂を乞う、そのような濃密な語感を込めて、和歌は神や恋人に思いを伝えるものであった。

そのような和歌を集めた歌集として、現存する最古のものが万葉集である。雄略天皇(第21代、5世紀後半)の御歌から始まり、農民や兵士など一般庶民の歌まで収められたまさに「国民歌集」であるが、その中に使われた外来語は16語くらいしかない。

当時の語彙の数は、「古代語辞典」で解説されているものだけでも8,500語ほどあるが、そのうちのわずか16語である。それもこれらのほとんどは、「法師」「餓鬼」「香」などの仏教用語で、巻16の戯れの歌などに使われているのみである。

万葉集は、歌い手としては天皇から一般庶民に至るまで区別なく登場させているが、外来語は排除し「大和言葉」で表現された思いを集めようとする意図が徹底されているのである。

現存する日本最古の漢詩集『懐風藻(かいふうそう)』は、万葉集とほぼ同時期に編纂されている。その時期に我が先人たちは中国から入ってきた漢詩に対抗して、外来語を排して大和言葉だけの和歌集を編んだ。この点について、中西進氏はこう語る。

<このいきさつを考えると、和歌は日本人の固有な韻文に対する自負と誇りを示すものと思われる。漢詩とあい対立せしめつつ、わが国の韻文を対等に位置づけようとしたものであった。

(『日本語の力』中西進 著/集英社)>

日本語は歴史的に中国や西洋の概念用語も積極的に取り入れつつ、最先端の科学技術論文にも使われている現代的な論理的言語となっている。と同時に、その根源にある大和言葉は太古の日本人の世界観・人生観をそのままに伝える詩的言語である。

これは世界最古の皇室を戴きながら、世界の経済大国・技術大国であるというわが国の姿に良く似ている。言葉と国柄とは、お互いに支えあうもののようだ。「祖国とは国語」という言葉が改めて思い起こされる。

文責:伊勢雅臣

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