おもちゃの鉄砲にカメラを仕掛けてから7日後、阿部は再び、そのアパートを訪ねた。訪ねる時間帯は、だいたい決まっており、母親の彼氏がパチスロに出かけている時間帯に自転車を確認してから呼び鈴を鳴らす。
おもちゃの鉄砲を交換し、その画像を阿部は確認した。画像には、髪の毛半分が金髪頭の若い男がくわえタバコをしている様子や、手を上げた瞬間の様子などが写っていた。音声には、若い男の声で、「触んな! ばか!」「また殴られたいのか?」という声が入っていた。タイムスタンプを確認し、それが日中に起きていることだと確認した。
阿部はこれを叔母に報告した。一緒に報告の場に来た叔母の夫は、その様子を聞きながら顔が赤らんでいくのがわかるくらい、怒りをあらわにした。
夫 「すぐに○×ちゃん(彼の母親、叔母の妹)を呼びなさい。子供らをすぐに迎えにいくから。探偵さんはここで、もう大丈夫ですから」
阿部「そうですか、では」
帰ろうとすると、叔母に止められた。
叔母 「すみません。阿部さん、夫と一緒に行ってください」
夫 「いや、もういいだろ。お金もらってる仕事なんだから」
阿部 「お金はもらってませんよ。その点、誤解しないようにお願いしますね」
夫 「え? …なら尚更、これ以上迷惑はかけられない」
阿部 「でもまあ、私が知る限り、これまでやった200件以上の虐待事案で言えることは、この程度では児相は動きませんね。間違いなく」
夫 「明らかに虐待だよ」
阿部 「そうですね。でも彼らは、忙しいんで、もっと重篤な事案を抱えているつもりだから、やらないんです。いつも。で、この件が重篤になってから、動くかどうか検討するんです。いつも」
夫 「…」
阿部 「変に先走れば、警戒され、恨まれ、より深い虐待が始まる。兄弟のうち、兄は生き残るにしても弟はもう狙われていますから、救うタイミングを外せば、あとは彼の運次第。もしくは強硬策しか無くなります」
夫 「じゃあ、どうすれば」
阿部 「とにかく、保護したいですね。この家で迎えられるなら、それが一番いい。奥さん、適当に妹さんに理由作って、彼らを強引に預かってみてはどうです」
夫 「よし、それだ! 電話しろ」
とにかく、迎えに行くのだという夫を止める気はない阿部は、車に乗り込みおよそ10分。アパートにつき、子供らを保護した。
子供らしか居なかった為、話はスムーズであった。ほぼ同じ地域に住んでいる叔母の夫婦の一軒家で過ごすのは、兄弟にとってホッとする時間なのかもしれない。