電通社員・高橋まつりさんの過労自殺が社会問題にまで発展したにも関わらず、電通の系列会社で「隠れ残業」が判明し、非難の声が相次いでいます。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、米国育ちで元ANA国際線CAという経歴を持つ健康社会学者の河合薫さんが、高橋まつりさんのお母様が娘の命日であるクリスマスに公表した手記を紹介するとともに、残業削減に成功した企業の共通点を考えます。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2017年12月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
電通系会社「隠れ残業」の罪
2017年が間もなく終わります。
あっという間なのに、いろいろあり過ぎて。ひとつひとつを思い出すと「え?それって今年だっけ?」と、遠い昔に思えるから不思議です。
今年は「働き方改革の年」と言われました。
誰もが「残業は本当に減るのだろうか?」と半信半疑だったと思います。
そんな中、2年前のクリスマスの朝、自ら命を絶った電通社員高橋まつりさんのお母様が手記を公表し(25日)、「大切なまつりを失った悲しみと苦しみは一生消えることはありません」と胸の内を明かしました。
娘の“まつり”がいない、2度目のクリスマスです。
毎朝目覚めるときに、まつりが生きている世界に戻っているのではないかと、未だに淡い期待を抱き続けています。
こう始まる手記は、「まつりさんの死をムダにしたくない」というご家族の思いが切ないほど綴られていました。
- 電通は「労働環境の改革を2年でやり遂げる」と宣言したけど、過去の成功体験に囚われ、意識改革は程遠い。
- 電通は有罪判決を受けたが「罰金50万円」では軽過ぎる。過失致死として、罰則を強化する法律の改定が必要。
- パワハラも人の命を奪う。絶対に許してはいけない。
- 残業の上限規制を1カ月100時間未満は納得いかない。
- 欧州のように11時間のインターバル規制を取り入れるべき。
といった内容が書かれ、最後はこう結ばれていました。
私たち親子の名前がこんな形で日本に知れ渡ることは私たちの望みではありませんでした。
普通の生活をして普通に幸せになりたかったのです。
私たちのような不幸な親子を増やさないために経営者や従業員、すべての人の意識を変えて、日本の社会全体で働く人の命と健康を守って欲しいと思います。
普通の生活、普通の幸せ…。重い言葉です。
おそらくまつりさんの死を悼むコメントと共に、批判的な言葉やバッシングもあったのだと思います。
悲しいかな「世に名前が出る」とはそういうことです。
被害者・加害者に関係なく、安全地帯から石を投げる人は大勢います。
どんなに良いことをしても、批判する人は難癖つけて批判する。
それだけに「普通の生活、普通の幸せ」という言葉に胸がつまりました。