【書評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い

 

福島事故以来、集団ヒステリーになった日本人は正しいエネルギー選択ができなくなった。この本は文系的な人にもよくわかるよう書かれている。エネルギーの奪い合いとなった21世紀の世界に「原発ゼロ」では、従来のような繁栄は望めないことがよくわかる。再生可能エネルギーはクリーンだが安定電源ではない。原子力をやるリスクとやらないリスクを比較すると、やるが正解と出る。

小泉が「原発ゼロ」を主張する一番の理由「核のゴミ」処理問題は、技術的に解決しているが、理解と支持が得られていない状態にある。金子熊夫は「沿岸海底下に最終処分場を作る」という発想の転換を示す。陸地(例えば既存の原発の敷地内か国有地)から海に向かって斜めに坑道を堀り、海底下数百メートルの安定した地層の中に埋設する方式を公開している。

再生可能エネルギーと美しい呼び方をされている水力、バイオマス、地熱などがあるが、現実に多くを望むことはできない。主力は太陽光と風力になる。ところが日本の太陽光発電の稼働率(年間8760時間のうち動く時間の割合)は12%、風力は20%程度だ。火力や原子力は80%である。需要に応じて安定した電力を供給できる火力発電や原子力発電の、代わりを務めるのは不可能である。

原子力発電にはベースロード電源として、年間を通して安定発電する役割を担わせ、太陽光、風力は、火力発電のバックアップを得ながら電力量(kWh)の供給をやらせればいいのだ。再生可能エネルギーは、決して火力や原子力の代替にはならない。発電割合25%が太陽光、風力発電の導入限度といえる。

脱原発の先行国として「ドイツを見習え」という意見があるが、これは大間違いである。メルケルの政治的判断で2022年までに原発を全廃すると決めたが、実際はまだ半数が稼働中電力の15%は原発で賄っている。2022年までに原発ゼロになり、それを埋めるだけの再生可能エネルギーが伸びなかったら、豊富な石炭で火力発電に頼れるが、CO2排出がともなうだけに必ず行き詰まる。

欧州諸国の中で日本の参考(反面教師)となる国はイギリスである。かつて世界有数の原発技術大国だったが、北海油田の発見で1980年代以降、原発新設がなくなった。近年、油田の枯渇が始まり、再び原発に依存しなければならなくなったが、長いこと原発を製造してこなかったため、技術力が失われ、現在では自力では建設ができなくなった。仕方なく、フランス、日本、中国に頼る。

print
いま読まれてます

  • 【書評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け