日本とアメリカのエンジニアで、これほど待遇が変わる要因は何か?

 

随分大きな差ですが、これだけ大きな産業構造の違いがある中で、彼らを比べてもあまり意味がないのです。

あえて比べるのであれば、プログラムは書きませんが、プライムベンダーと呼ばれるITゼネコンの頂点に立つ企業の係長クラスと比べるべきです。

ITゼネコンの係長

  • 学歴:早稲田大学理工学部修士
  • 年収:950万円
  • 住宅:社宅
  • 資産:1,200万円の貯金と株
  • 通勤着:背広で電車通勤
  • 労働時間:月の平均残業時間は60時間(ただしサービス残業あり)
  • プログラミング:新人の頃少し書いたけど、もうすっかりやらなくなった

物価を考慮すれば、それほどの差はありません。ただし、シリコンバレーのエンジニアには、ストックオプションという一攫千金のチャンスがあり、ITゼネコンの正社員には引退するまで首にならないという終身雇用が保証されている上に、引退後に関係会社の役員のポジションを天下り先としてもらえるというメリットもあります。

渡辺千賀さんは、全ての業界がソフトウェアに飲み込まれようとしている今、対抗するためには、普通の企業もソフトウェア・エンジニアを雇って対抗する必要があるけれども、彼らにこれだけの給料を払うのは難しいと指摘していますが、その通りです。

さらに優秀なエンジニアたちは、給料が良いだけではなく、「面白い仕事」のオファーもたくさんもらうので、「アマゾンに対抗して、うちもネットでものを売りたい」みたいな企業が、優秀なエンジニアを雇うのはほぼ不可能と考えた方が良いと思います。

しかし、それは米国の話で、もっと悲惨なのは、そもそも理系の学生をソフトウェア・エンジニアとして育成せずに、使い回しが効くゼネラリスト・管理職として育成している日本です。

結果として、GoogleやFacebookと対抗するために必要不可欠な、「理系の修士号や博士号を持ち、プログラミングが三度の飯よりも好きで、猛烈に働く優秀なエンジニア」の数が日本には圧倒的に不足しているというのが現状です。

それでも最近は、日本でも本当に優秀な理系のエンジニアが、ベンチャー企業や外資系の企業に勤めたりいきなりベンチャー企業を自分で立ち上げたりする傾向が強まっており、とても良いことだと思います。

image by: Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年8月7日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込864円)

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