【書評】「元」中国人と残留孤児二世が語る世界一危ない国・中国

 

彼らが持ちかけてくる話題は、まず「お金」、そしてナショナリズム「愛国」「反日」だった。天安門事件で若者たちを虐殺した共産党が求心力を取り戻すためには、愛国主義を掲げるしかない。そうすると反日もやらなければならない。敵のない愛国主義は盛り上がらない。だから、日本を敵として仕上げる。共産党の悪辣さは、日本に対する言説はウソ捏造の限りをつくしたところだ。

元同志のやりとりを聞いた石は、茫然自失であった。「天安門事件とはなんだったのか俺たちの青春は何だったのか」。自分なりに調べて行き着いた結論が、中国の「反日教育」だった。中国政府が意図的に、新聞、教科書、テレビ、映画、文芸作品などを通じて、徹底した反日教育を行ってきた成果なのだ。

そのことを世に知らしめるため、『なぜ中国人は日本人を憎むのか』という処女作を、2002年・40歳でPHP研究所から出版した。この本を出すことで、勤めていた研究機関に迷惑をかけてはいけないので辞職した。石は「結果としてルビコン川を渡ったわけです」と書く。石の人生最後の大転換である。もう中国人には戻れない。そうだったのか。ようやく石平という日本人の真実を知った。

この本の前半は、二人が育った中国での生活の回顧である。文化大革命の10年間は中国史上でも滅多にない、惨めにして暗黒な時代、中国国民全員が地獄を見た時代だった。ところが、摩訶不思議なことに、当時の二人は決して暗黒とは感じていなかった。

タイトル通り、「世界で一番幸せな国だと本気で信じていた。その理由はじつに簡単で、外部世界の情報が完全に遮断されているなか、洗脳された大人たちが「偉大なる祖国の中国は世界で一番幸せな国ですよ。君たちは一番幸せな時代、一番幸せな国にうまれている」と毎日本気で繰り返したからだ

習近平はたまたま、周りに強力なライバルがいなかったから最高権力者になれた。これから習近平の後継者問題が、中国国内で連続して発生する。いまの中国共産党は毛沢東時代ほどの体力もなければ、国民からの支持もない。今後の中国は習近平強権時代というよりも、波乱含みの時代に突入したと矢板は見ている。

石も同じ問題意識を持つ。習近平は自らパンドラの箱をあけてしまった。彼は今後何年も、後継者問題の対処に明け暮れることになった。従来なら次の世代が、新しい政策や理念を携えて上に登れたが、今は常に彼の側近、部下達で固められており、党内の不平不満もますます高まっている。政治は完全に停滞している

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